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きりぎりす いたくななきそ 秋の夜の
人のもとにまかりける夜、きりぎりすのなきけるをききてよめる
※きりぎりす:現代ではこおろぎ
藤原忠房
きりぎりす いたくななきそ 秋の夜の 長き思ひは 我ぞまされる
(秋歌上196)
こおろぎよ、それほどひどく鳴くな
秋の夜の長く続く辛い思いなら、私の方が勝っているのだから。
秋の夜に、余程元気に、こおろぎが鳴いたのだろうか。
作者は、私の辛い思いのほうが勝っているのだから、それほど鳴くなと、人間の言葉を解さない、こおろぎに命令している。
滑稽と言えば、そのほうが理にかなっている。
失恋の歌とか、招いた主人とともに失意を詠んだ歌と言う説もあるけれど、こおろぎ相手に、そんな深刻な歌を詠むものだろうか、はなはだ疑問である。




