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異世界のいやしツアー

「異世界のいやしツアー…???…なんだよそれ」


聰は、突拍子もない言葉に、面食らった。


「もー、さとくんは鈍いですねぇ」


 小馬鹿にしたようにあか里が言う。聰は少しムッとした。


「そんなこと言われても…。こんな状況だってのに…そんなもん想像つくわけないだろ」


「まぁまぁまぁ、落ち着いて。…今の私たちって、この世界が自分のいた世界とは違うっていうことに戸惑ってるわけじゃない?」


「…そうだな」


 確かにそうだ。昨日から少しの変化や大きな変化に至るまで、たくさんのことに戸惑っている気がする。まるで、迷路に迷い込んだように。


「でも、それって私たちの世界と似ている世界だから起きることだと思うの」


 あか里の言う通り大小はあれど、環境は元の世界とほとんど変わらないように思える。


「これが例えば、いわゆる異世界に転生しました~みたいに全く違う世界に行っちゃったらそれどころじゃないと思うんだけど、私たちがいるところは、元の世界とほぼ同じなわけじゃない?」


 あか里は半ば自問するように話を続ける。


「…だからね、元の場所と似てるってことを逆手に取って、この世界を探検してみるのはどうかな?違う、違わないってことにただ戸惑うんじゃなくて、この世界との違いを見つけるツアーをやってみたら楽しいんじゃない?!」


「間違い探しってこと…?」


「そうそう!」


 あか里の着眼点は想像の上ですらなく斜め上である。だが、聰は、その突飛な提案に、なぜか心が軽くなるのを感じた。


「…うん、良いんじゃないか!あか里もたまには良いこと言うね」


「たまにはって酷い!でも、今回のは自信ある!」


 聰はこんな状況でよく思いつくものだと感心した。あか里のポジティブな発想に、 暗い気持ちが少し晴れた気がした。


「でもさ、異世界ツアーって言うならわかるけど、なんで《いやし》なの?」


「あー、そこ聞いちゃう?」


「そりゃ気になるからな」


「ま、そっかー。簡単なことだよ。ほら、昔テレビでアハ体験って言うのが流行ったの覚えてる?」


「あ~、そう言えばそんなのもあったな」


「あの、アハ体験ってやつさ、どこが変わったかって場所を見つけるの結構難しかったでしょ?」


「確かにそうだったね」


「わたし、見つけるのは難しいけど、見つけた時の喜びって言うかさ、スッキリ感みたいなのが好きだったんだよね。それって、なんだか《いやし》って感じしない?」


「なるほどね。…つまり、元の世界とこの世界の違いを見つけてアハ体験しちゃおうってこと?」


「ピンポンピンポン!そういうことです!」


「それなら、異世界アハ体験ツアー!とかで良いんじゃないの?」


「そんなのダメだよ!アハ体験は手段で、テーマはあくまで《いやし》なんだから!」


「そういうもんかね」


「そういうもんだよ!では、最初の観光地へとごあんな~い!」


車は昨日通った道を、昨日とは逆に進んでいく。相変わらず木々は眩しいくらいに青々と生い茂り、枝葉はさわさわと風に揺られている。この景色は昨日見た景色と同じなのだろうか、聰はそんなことを考えていた。いつの間にか峠の双子トンネルに差し掛かろうとしていた。思えばこのトンネルを抜けてからおかしなことが起き始めたような気がする。


「なぁ、あか里がこっちに戻ってきた時って、双子トンネルを通った?」


「うん、勿論通ったよ。他にも道はあるけど、家に帰るにはこの道が一番早いからね」


「やっぱりそうだよなぁ」


「なんで?どうかしたの?」


「今考えてたんだけど、俺がおかしいなって思い始めたのってあのトンネルを抜けてからだったからさ。何か関係あるのかなって思って」


「…マジ?もうちょっとでトンネル入っちゃうけど…」


 聰は言うタイミングを間違えたなと思った。少しでも心の準備が出来るタイミングで切り出すべきだったかもしれない。二人はわずかな時間で身構える。心臓がドキドキと高鳴る。息を呑み、トンネルの入り口を見つめる。


そのまま車はトンネルへと侵入していく。ヘッドライトの光が、トンネルの壁を照らし、長い影を落とす。二人はトンネルの中を見回してみた。


「あか里。運転中は危ないぞ」


「そ、そうなんだけど、何かあったらと思うと気になるじゃん」


「何かあったら俺が声掛けるって」


「わ、わかった」


 しばらく、トンネル内を走行するが、何の変哲もないただのトンネルにしか見えない。雰囲気があると言えばあるものの、異世界へ誘う力を持つとはとても思えなかった。そんなことを考えているうちに車はトンネルを抜けてしまった。

明るい日差しが、車内に差し込んでくる。


「もしかして、元の世界に戻れたかな?」


「…そうは思えないけど。…駅まで行ったらどうなったかわかるかもしれない」


「あ、うん、そうだね。私はもう見ちゃってるけど、さとくんは初めてだし、何か微妙な変化に気付くことがあるかもね」


「うん、そうだな」


車はそのまま駅へと繋がる道を走る。聰は何となく違和感を感じていた。昨日と比べて、見慣れない家や建物が増えている気がするのだ。少なくとも昨日の時点では、前に帰ってきた時とさほど変わりは無いように思えていたのに。その違和感を、あか里に確認してみる。


「この辺りの建物って、ここ最近出来たやつかな?」


「…やっぱり気になった?年末に帰った時は無かった気がしたからお母さんに聞いてみたんだけど、昔からある建物らしいよ。見た感じ建ったばっかりって感じじゃないし、ここではそうなんだと思う」


「なるほどね。俺も昨日こんな建物があったのは記憶してないんだよなぁ。俺たち二人が違和感を感じたんなら、ここにしかない建物なのかもしれない」


「うん、そうだと思うな。…あ、そろそろ駅着くよ」


駅らしきものが見えてきた。らしきものというのは聰がまだ駅だと認識していない新しい建物だからだ。以前は、1階建て鉄骨造りの簡素なただ広いだけの作りだったのに、今目の前に現れた駅舎はガラス張りで未来を感じさせるような雰囲気の2階建てだ。新駅舎の建設計画が発表された時に合わせて完成予想図が公開されていたが、ちょうどこんなデザインだったことを聰は思い出した。


「凄いな…。元の世界じゃイメージ画像しかなかったのに目の前にはもう現物があるなんて」


不思議なものだ。昨日までは無かったはずの建物が今日になったら出現している。近所にいつの間にか新しいお店が出来ていた、なんてスピード感とはわけが違う。


「驚いちゃうよねー。私はホームに降りたらいきなり対面って感じだったから、最初は北と南どころか改札がどこかもわかんなかったよ」


「俺もそうなる自信あるわ」


「せっかくだし、中に入ってみる?」


「そうだね。ここまで来たんなら何かしらの収穫が欲しいし」


「そう来なくっちゃ!では、異世界のいやしツアー開始です!」

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