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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月18日(水)
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6-5 教会長とシスターに問い掛けたら怖い言葉が返ってきました


 教会長もシスターも、俺との話が出来そうになった。

 まずは、シスターが魔道具屋のあるじが捕まった際のシスターかを確認しようと思い、それとなく話をふってみる。


「シスター、あの後は大丈夫でしたか?」


「あの後と言いますと?」


「魔道具屋のあるじの捕り物の際に私はあの場に居たのですよ(笑」


「イチノスさんがいらしたんですか?」

「⋯⋯」


 俺の問いかけにシスターが応え、教会長が黙って聞いてくれる。


「あの日、私は冒険者ギルドへ向かう途中、偶然にあの場に居合わせたのです」


「イチノスさんがいらしたとは驚きです。あの日は本当に皆様から助けられました。それまで集まらなかった寄付もたくさん集まり、皆様の善意に頭が下がる思いです。やはり神が見守っているのだとつくづく感じた日でもありました」

「うんうん」


「私は途中で帰りましたが、無事に教会にお戻りになられたようで⋯」


「はい。あの魔道具屋のあるじが放った言葉で気が動転してしまい⋯ あの後、ジュリアさんに教会まで送っていただいたのですが、ジュリアさんと共に私を救ってくれたヘルヤさんにお礼も言えずその事が悔やまれます」

「⋯⋯」


 そこまで話して先程のシスターの涙と、教会長の言葉に少しの繋がりを感じた。

 もしかして詐欺行為の影響で、ここ数日は寄付が集まらず苦労していたのでは?


 俺は応接机の上に置かれた寄付の通知に目が行く。

 そんな俺に教会長の視線を感じた。


「イチノスさんの事ですから既にお気づきと思います。先程も申し上げましたが、この通知は西町教会を騙った物で幾多の店や皆様がご覧になっているのです」


「なるほど⋯ シスターも苦労されました事でしょう」


「イチノスさんの温かい心遣いに感謝します」


 俺は教会長の言葉に応えながらもシスターの苦労を想像してしまう。


 シスターが寄付を募りに行くと、魔法円の寄付の話や、この寄付の通知を見せられ応対に苦慮したのだろう。

 そんな時に魔道具屋のあるじが逮捕された件に巻き込まれ、挙げ句に暴言を身に受け、それでも変な形だが寄付が集まった。


 そして今日は、朝から職を共にする教会長が街兵士から呼び出される。

 その直後に俺が寄付を納めに来た。


 シスターにしてみれば、山あり谷ありで幾多の思いに整理が付かず、思わず涙してしまったのだろう。


 そうした会話を重ねて、そろそろ俺の目的を話しても大丈夫だろうかと思った時に、教会長から助け船が出された。


「それで、イチノスさんの今日の御用は寄付だけでしょうか? コンラッド殿からいただいたお手紙では、イチノスさんの質問に可能な限りで良いので答えて欲しいとの事でしたが⋯」


 これは教会長からの助け船か、コンラッドのお膳立てか?


 まあ、どちらでも良い。

 とにかく教会長に教えてもらおう。


「はい。ありがとうございます。教会長に教えていただきたいのは『勇者』と『賢者』についてです」


「勇者ですか?」

「賢者ですか?」


 教会長が『勇者』の言葉を口にして、シスターが『賢者』と口にする。


「こちらの教会では、幼少の者へ読み書きと計算を教える初等教室を開かれていますよね?」


「ええ、王国の決まりで6歳から12歳までの子供達に集まっていただいております。本日はお休みの日ですね」


「その教室では『勇者』や『賢者』についても、教えられているのでしょうか?」


「⋯⋯」

「イチノスさん。賢者については教えますが、勇者は教えていないと思います」


 俺の問いかけにシスターが答えてくるが、教会長は返事をしない。


 俺はシスターの言葉に応え、まずは賢者を掘り下げて詳しい情報を得ることにした。


「まず、賢者について教えてください。確か、賢者は生まれ変わったものだと聞いたことがあるのですが?」


「はい、初等教室では、賢者は生まれ変わりだと教えます。輪廻転生りんねてんせいで生まれ変わるという考え方です。イチノスさんは輪廻転生りんねてんせいをご存知ですよね?


「はい、存じております」


 その後、私の返答に納得がいかないのか、シスターはもっと正しく学べと言わんばかりに、教会の教える世界観について語り始めた。


 まず、この世界は神様が見守ってくれている。

 同じような世界が他にもあって、その世界も同じように神様が見守っている。


 輪廻転生りんねてんせいとは、別世界で死んだ人が、神々の合意によってこの世に生まれ変わることをいう。

 転生者は生まれ変わるときに、別世界の知識や前世の経験を持って生まれてくる。

 その知識と経験によって、幼い頃からこの世界で頭角を現し、この世界をより良い方向へ導くことができるというのだ。


「シスター、ありがとうございます」

「⋯⋯」


 俺はシスターに礼を述べながら、無言の教会長の顔を伺う。

 そんな教会長とシスターにもう一歩踏み込んで聞いてみる。


「その賢者は誰が認めるのでしょうか? 誰が、かの者は賢者だと声をあげるのでしょうか?」


「それは⋯」

「⋯⋯」


 シスターは言葉を続けようとするが、明確に続く言葉が出てこない。

 一方の教会長は押し黙ったままだ。


 俺が本当に知りたいのは勇者なので、一旦、賢者の話を脇に置くことにした。


「シスター、踏み込んだ質問をしてすいません。勇者もやはり転生者なので⋯」


 俺がそこまで口にすると、教会長が手を出して制するような仕草をして来た。


「イチノスさん、少々お待ちください。シスター、すまないが初等教室で教える賢者について少し調べて来てくれるか? イチノスさんに正しくお知らせしたいのだ。お願いできるかな?」


「あっ、えぇ⋯ イチノスさん、すいませんが少し席を外します」


「いえいえ、むしろご迷惑をお掛けします」


 シスターが離席の弁を述べ、応接から立ち上がり扉の前で軽く会釈して部屋を出て行った。

 シスターが部屋を出て扉を閉めたところで、教会長が椅子に座り直した。


「まいりました。イチノスさんの質問は教会の罪を問われるようです」


「教会の罪?」


「はい。簡潔に述べれば私の世代では勇者も賢者も教えを受けておりました」


「???」


 どういうことだ?

 俺は教会長が言わんとすることを理解できなかった。

 しかも教会長は恐ろしさも感じる言葉を口にしている。


 『教会の罪』


 とは何なのだ?

 俺は今まで、そんな言葉を聞いた事がない。

 恐ろしげな言葉に戸惑う俺に教会長が言葉を続ける。


「私も腹を括りました」


「⋯⋯」


「イチノスさんに全てをお話ししますので、何でも尋ねてください。本日だけでは時間が足りないでしょう。別途に日も改めて、お話しできる場も準備させていただきます」


「⋯⋯」


 そう話す教会長の目を見れば、覚悟を決めた目をしていた。


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