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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月13日(金)
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1-7 ヴァスコとアベル

 

 ヴァスコとアベルを店舗へ招き入れ、俺はカウンターの向かい側に立つ。


 ヴァスコとアベルの二人は店内に並ぶ品々が珍しいのか、先程からウロウロと広くない店内を見て回っている。


 この二人には、ポーション作成に必要な薬草採取の件で冒険者ギルドで何度か顔を合わせた。

 確か未成年の頃は見習い冒険者で、薬草採取で経験を重ねていたはずだ。


 今年の春に二人とも成人して『見習い』が取れ、冒険者の第一歩を踏み出したとサノスから聞いていたのだが⋯


 この二人が俺の店に来たのは、俺の知る限りは初めてだ。

 弟子のサノスが店番をしている時に来ているのかも知れないが、俺は二人が店に来たのを見たことはない。


 店内をウロウロとするヴァスコとアベルに声を掛ける。


「二人は、俺の店は初めてだよな?」


 俺の声に店内徘徊を止めた二人が、少し慌てた感じでカウンターの前に立つ。


「はい! 初めてです!」

「水出しと『魔石』を!」


 お前ら騒がしい。

 もう少し落ち着いたらどうだ。


「待て、一人づつだ。俺の店で騒がしい奴は出禁できんにする」


 制するように二人に向けて手を出し、静かにすることを促す。


「「はい! わかりました!」」


 わかってるのか?

 二人とも声が大きくてうるさい。


「まずはアベルだ。ヴァスコは静かにすること」

「「はい!」」


 思わず目を細めた笑顔でヴァスコを見つめると、ヴァスコが慌てて口を押さえた。


「アベル、この店に来るのは初めてだな?」


「はい。初めてです!」

(コクコク)


 アベルが返事をすると、隣で口を押さえたヴァスコがコクコクと頷く。


「誰の紹介だ? 冒険者ギルドか?」


「ワイアット先輩です!」


 ワイアット先輩?

 あぁ、サノスの父親のワイアットだな。

 この二人が来たと言うことは、ワイアットは街に戻って来てるんだな。


「サノスの親父さん⋯ ワイアットが戻ってるのか?」


「はい! 今日、護衛から戻ってきました!」


「それでワイアットから進められたんだな?」


「はい! 見習いが取れたなら『水出しの魔法円』ぐらい持てと言われて、イチノスさんの店を勧められました!」

(コクコク)


 アベルが答え、隣でヴァスコが口を押さえたままでコクコクと頷く。


 ワイアットは、娘が働く店の宣伝のつもりか?


 それとも後輩冒険者への指導かわからないが、『魔法円』と『魔石』の購入で俺の店を勧めてくれたんだな。


「よし、次はヴァスコだ」


「はい! ヴァスコです!」

(⋯⋯)


 ヴァスコに声を掛けると、大きな声の返事を返してくる。


 ヴァスコの隣のアベルが慌てて口を両手で塞いだ。

 もうそこまでする必要はないぞ(笑


「二人とも深呼吸しろ」


「すぅ~ はぁ~」

(すぅ~ はぁ~)


 ヴァスコが深呼吸を始め、隣のアベルも口を両手で押さえたまま深呼吸を始める。

 これで二人とも、少し落ち着くだろう。


「改めて言う。俺の店で騒がしいと『俺が』判断したら『出禁できんにする』これは決定だ」


「「⋯⋯」」


 ようやく、二人が静かに頷いてくれた。


「ワイアットに言われたのなら⋯ 家庭用じゃなくて、ギルドの依頼で持ち歩く携帯用の水出しが欲しいんだな?」


「「(コクコク)」」


 そこは頷かずに答えようよ。

 ちょっと『出禁できん』の言葉がきつかったかと少しだけ反省した。


「お前ら二人は『魔法円』と『魔石』が使えるのか?」


「「コクコク」」


 二人が静かに頷いた。


「二人とも、そこで待ってろ」


 ヴァスコとアベルに伝えて、俺は店の奥の作業場に向かう。


 棚にしまった箱から、一番小さいサイズの『水出しの魔法円』を取り出す。

 続けて『空の魔石』が入った箱に手を掛け少し悩んだ。


 ヴァスコとアベルで二人だから2つか?


 小さめの同じような『空の魔石』を2つ取り出し、ベストの左右のポケットに入れる。

 最後にテーブルの上の、俺の使った空のティーカップを手にした。


 そこまで準備を終えて店のカウンターに戻ると、ヴァスコとアベルが先程と同じ姿勢で待っていた。


「さて、二人とも『魔法円』と『魔石』が使えると言ったな」


「「コクコク」」


 店のカウンターに『水出しの魔法円』を置き、その上に空のティーカップを置く。

 そんな俺の所作をヴァスコとアベルが興味津々な顔で見ている。


 俺は『水出しの魔法円』とティーカップをカウンターの脇に一旦寄せ、ベストの右ポケットから『空の魔石』を取り出す。


「ヴァスコ、ここに『空の魔石』がある。まずはこれに『魔素』を充填じゅうてんしてみろ」


「えっ?! 充填ですか?」


「そうだ『魔石』が使えると言ったろ? どのくらい『使える』かを調べないと売ることは出来ない」


「いや、イチノスさん。充填はやったことがないんです。水出しや温めで『魔石』を使ったことがあるぐらいなんです」


「そうか⋯ アベルはどうなんだ?」


「すいません、俺もヴァスコと同じです」


「再確認するが、使ったことがある『魔法円』と『魔石』は家庭用のやつだな?」


「「コクコク」」


 なるほど。

 ヴァスコもアベルも『魔法円』や『魔石』を使えると言っても、家庭用の奴か。


 それに『魔石』への『魔素』の充填は『やったことがない』か⋯


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