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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月17日(火)

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5-6 早速、茶道具で一服立てるそうです


 東国あずまこくから使節団として来たダンジョウ・メガネヤから、俺が多大に興味を抱いている『茶道』の道具一式を差し出された。

 研究所時代に東国あずまこくの使節団が開いてくれた『御茶会』で茶道を知った俺としては、差し出された茶道具の一式は是非にとも手に入れたい物だ。


 だが、これからダンジョウ・メガネヤとは『水出しの魔法円』と『魔石』の商談が控えている。

 それに、ダンジョウの主君であるワリサダが所持している『魔鉱石まこうせき』の出所も聞き出したい。


 ここで机の上に広げられた茶道具の一式を受け取って良いのだろうか?


 そうしたことで躊躇い返事が出来ない俺にダンジョウが話を続ける。


「イチノス殿、王国ではこうした文化は無いやも知れぬ。だが、我が国ではお近づきの贈り物は当たり前なのです」


 いや、王国にもそうした考えはある。

 特に商家や商会が貴族との付き合いを願う時に、お目当ての貴族の欲する物を調べ上げ献上するのだ。

 今回のダンジョウが持参したものも、そう考えれば良いのだろうか?


 それよりも、ダンジョウと会話をしていると妙に堅苦しい感じがする。


「わかりました。遠慮なく納めさせていただく⋯ が、厚かましい願いを申し上げて良いだろうか?」

「はい、イチノス殿が気にされることがあれば、何なりとお申し付けください」


 う~ん。そう言うところが堅苦しいんですよ(笑


「実は私は堅苦しいのが苦手なのです。この後、ダンジョウ殿との『水出しの魔法円』の商談では、可能ならば緩やかに、ざっくばらんと進めたいのです」

「⋯⋯」


「互いに呼び名から『殿』は取れませんか? 前に店に来た際には『店主』と呼んでくれた。私はダンジョウ殿よりも年下です。それこそイチノスと呼び捨てでも⋯」


 そこまで述べた時に、ダンジョウが両手を机につき深く頭を下げて来た。


「イチノス殿、どうか許していただきたい。若よりも、あの後に注意を受けたのです」

「???」


「イチノス殿が王国の貴族の生まれであり、しかも侯爵のご子息と伺いました。我が国では斯様な御方を年下だからと呼び捨てにするような無礼を働けば、即刻、切腹を命じられます」


 あーこれは無理だ。

 この堅苦しさはダンジョウの持つ性格と彼の育った文化の為せるものだ。

 これを壊したり破ることは困難だ。


 しかも『切腹』とか言っている。

 『切腹』⋯ 東国あずまこくの騎士が責任を取って、自分で腹を切って自害することだろ?

 俺の呼び名で自害なんてされたら、俺は寝れなくなっちゃうよ。


「今回、若より教えられ私の無礼を深く深く反省しております。『店主』と呼んでしまった事も含めての無礼をどうか許していただきたい」


 再びダンジョウが頭を深く下げて来た。

 そんなダンジョウにどう接すれば良いかと考え始めた時に、ダンジョウが頭を上げ話を続けた。


「こうしてイチノス殿と言葉を交わし、拙者は深いありがたみを感じております。堅苦しいからと年下だからと呼び捨てを求める心遣いに深く感謝しております」

「はぁ⋯」


「そこでお願いがございます。イチノス殿の優しき心遣いと繋がりを共にする機会をいただきたいのです。厚かましい願いとは心得ております。どうか拙者に御慈悲をいただきたいのです」

「はぁ⋯ そ、それはどういうことで?」


「この茶道具を用い、是非ともイチノス殿と繋がりを共にさせていただきたいのです」


 机の上に並べられた茶道具で心の繋がりを共にする?

 ダンジョウが何を言いたいのかが俺には直ぐに理解できなかった。


「それはどう言った事でしょう?」

「こちらの品々はイチノス殿に贈るものであるが、差し支えなければお借りして、一服、お立てしたいのです」


 一服、お立てしたいって⋯


 えっ!

 ここで『抹茶まっちゃ』を作ってくれるの?

 あの御茶会で感動した『抹茶まっちゃ』が飲めるの?


 それは是非ともお願いしたい!


 あれ?

 ダンジョウが俺に笑顔を見せてきた。

 しまった、俺は『抹茶まっちゃ』を飲める喜びを顔に出したのか?


「ダンジョウ殿、それは私からもお願いしたい」

「おお、イチノス殿! このダンジョウ・メガネヤ、これほどの幸せを感じたことはありません」


「それで⋯ 私は何を準備すれば良いですか?」

「我が国であればこうした機会では炭を起こし鉄茶釜てつちゃがまで湯を沸かしますが⋯」


 炭を起こす? 鉄茶釜てつちゃがま

 ごめん。この店舗兼自宅にはどちらもありませんので無理です。

 要は『お湯』があれば良いのだなと判断した。


「申し訳ないが『湯出しの魔法円』しか準備出来ません」

「十分です。お借りできますか?」


「少々お待ちください」


 俺は急ぎ席を立ち上がり、台所からティーポットと『湯出しの魔法円』それに湯を捨てる可能性を考えて片手鍋を両手持ちのトレイに置き作業場へと運ぶ。


 作業場に戻り机の上に両手持ちのトレイを置こうとすると、既にダンジョウは準備を進めていた。

 茶道具を個々に納めていた木箱が片付けられ、机の上には茶碗ちゃわん茶筅ちゃせん、そして茶筒ちゃづつ茶杓ちゃしゃくが置かれていた。


 両手持ちのトレイに乗せた『湯出しの魔法円』を机に置き、その上にティーポットを乗せる。

 お湯を出す準備が出来たところでダンジョウが声をかけてきた。


「イチノス殿、申し訳ありませんが若干温めのお湯をお願いできますでしょうか。拙者は『魔石』を切らしておるのと少々だが体調に不安があり⋯」


 そうだ、ダンジョウは『魔石』も欲していた。

 前回店に来た際に『魔石』を切らしたような話をワリサダとしていた。

 水出しの魔道具が機能せず、無理に魔素を流して『魔石』を空にしたとか言っていた気がする。

 それに水が合わずに体調を崩したばかりだ。


「お任せください」


 俺は『魔法円』の魔素注入口に指を置き『御茶会』で飲んだ抹茶の湯温を思いだしながら、心に『あのぐらいの湯が欲しい』と願う。

 すると『魔法円』の『神への感謝』が反応し魔素注入口に置いた指から魔素が『魔法円』に向かうのがわかる。

 ティーポットに湯気が立ち始めたところで中の湯量に目をやりつつ半分程まで満たして行く。


「これで良いでしょうか?」

「お手数をお掛けします」


 湯を出し終えダンジョウに声をかけるとダンジョウは手元に布を折り畳んだものを持ち、それにティーポットから少しお湯を垂らし湿らせた。

 その湿らせた布を開くと茶碗ちゃわんを拭き始めた。

 拭き上げられた茶碗ちゃわんを置き、手元の布を折り返すと今度は茶杓ちゃしゃくを拭き始めた。

 ダンジョウは茶碗ちゃわん茶杓ちゃしゃくを拭き終えると両手持ちのトレイに置いた片手鍋に湯を注ぎ茶筅ちゃせんをくぐらせた。


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