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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月17日(火)
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5-3 二日酔いに効くのが欲しいかも?


 サノスが挑んでいた『湯沸かしの魔法円』がついに完成した。


 完成記念に『魔法円』で沸かしたお湯でサノスが御茶やぶきたを淹れると言う。

 台所からティーセットを持ってくるサノスはウキウキとした感じで鼻歌ハミングまで聞こえてくる。


 これでサノスが挑戦して成功した『魔法円』は3つになった。


 最初に挑んで成功したのが『水出しの魔法円』だ。

 続いて『湯沸かしの魔法円』に挑んで失敗した。

 サノスが『魔力切れ』を起こすほどに魔素を流した失敗作は、最後はサノスの怒りを買いかまどにくべられてしまった。

 次に挑んだ『湯出しの魔法円』は成功し、フェリスの執事兼護衛であるコンラッドに褒め言葉をもらっている。


 そして今日、ついに完成したのが、再挑戦していた『湯沸かしの魔法円』だ。

 俺の支援を受けてサノスが魔素の通り具合を確認し、修正と調整を重ねてついに完成したのだ。


 サノスが俺にティーカップに淹れた御茶を出しながら聞いてくる。


「師匠、使ってみてどうですか?」

「なかなか良いできだと思うぞ」


 ニヘラニヘラ

 サノス、その笑い顔が気色悪いぞ。


 そんな気色悪い顔をしたサノスが聞いてきた。


「これなら使えそうですか?」

「使う? 何にだ?」


「ポーション作りです」


 俺の店に置いているポーションは、簡単に言えば次の手順で作っている。


 まずは俺が独自に決めた選別と配合で薬草を準備する。

 その薬草を『水出しの魔法円』で作った水に一晩漬け置きする。

 更に漬け置き中にひと手間加えて行く。

 漬け置きした状態で2時間ほど煮出したら薬草を取り出す。

 煮汁を冷ましてから瓶に詰めて、仕上げに回復魔法を施す。


 この手順は、薬草の選別と配合、浸け置き中のひと手前以外は、魔法学校時代に習った手順そのままだ。


 なるほど。

 サノスが成功した『魔法円』を使えば、水も出せるし煮出すのも可能と言うわけか。


「そろそろサノスもポーション作りをやってみるか?」

「えっ、いいんですか?!」


「最後の回復魔法は俺が掛けても良いな。回復魔法以外をサノス『一人で全て』やってみるのはどうだ?」

「やります、やらせてください!」


 サノス。

 嬉しいのはわかるが声が大きい。

 少しうるさいぞ。


「サノス、よく聞け。一人で『全て』やるということは、薬草の調達や配合、そして詰める瓶の手配までの全てを自分でやることになるぞ?」

「そ、そこまでやるんですか?!」


「販売もだぞ(笑」

「は、販売もですか?」


「そうだ、自分一人で全てをやってみるんだ⋯ 但し」

「但し?」


「俺の名を付けては売らせない」

「えっ?」


 俺の店では、ポーションの作成者である俺の名を付けて、『魔導師イチノスのポーション』と称して売っている。

 だが、今回はサノスが作るのだから俺の名を付けるのは望ましくないだろう。


「サノスが自分で作ったポーションなのだから『サノス』の名を付けて販売するのが条件だな」

「⋯⋯」


 一瞬、呆気に取られたサノスを放置して俺は席を立ち上がり、作業場の本棚から1冊の本を取り出す。


『ポーション作りの基礎』


 学校時代の教科書だ。

 俺がポーション作りを具体的に学んだ本で、少しばかりの思い入れと実際に作った際の走り書きが残されている。


「サノス、この本を読んでから考えてよいぞ」


 そう告げてサノスの前に本を置くと、サノスが俺の顔を見てきた。


「師匠⋯ この本なら読みました」

「読みました?」


「この本なら3回ぐらい読んでます」

「そ、それなら手順は頭に入ってるのか?」


「入ってます。巻末の参考手順を元に、一度、本に書いてある薬草の配合通りに家で作ってみました」


 サノスが既に自分で作ってると聞いて、俺は正直に言って驚いた。


 待てよ。自作のポーションの効果はどうなんだ? 


「作ったポーション⋯ 回復魔法を施していないから、ポーションの元⋯ いや面倒だ、そのポーションはどうしたんだ?」

「私と母、それに父が飲んでます」


 おいおい、それって家族全員で飲んでるってこと? 

 待てよ⋯ もしかして⋯


「サノスは回復魔法が使え無いよな?」

「はい、魔法全般は使えないです」


「じゃあ、仕上げの回復魔法はワイアットか?」

「へへへ(笑」


「サノス、家で作ったのはいつ頃だ?」

「今月の最初に師匠が作ってるのを見てからです」


 思い返してみれば、ワイアットは今月はポーションを購入していない。

 俺の記憶ではワイアットにポーションを売った記憶が無い。


 俺は確信して思わず笑いが込み上げてきた。


「ククク⋯ ククク⋯ ハハハ」

「し、師匠、大丈夫ですか?!」


「いや、大丈夫だ。思わず笑ってしまっただけだよ(ククク」

「私、もしかして悪いことしたんでしょうか?」


「いや、してないよ。安心して」

「⋯⋯」


 自家製ポーションだ。


 考えてみれば冒険者の家族で、回復魔法が使える者が居るならば至極当たり前の事だ。


 ワイアットの家で考えれば、娘のサノスがポーション作りを俺の店で学んで、その知識を自宅に持って帰った。

 自宅に仕上げの回復魔法が使えるワイアットが居れば、ポーション作りに挑戦したいサノスの気持ちと、それを応援する親のワイアットの気持ちも重なるだろう。

 ワイアットも俺の店で買わずに、娘の作ったポーションで済ませたくなるのも頷ける。

 

 確かワイアットは、先週は長期の護衛遠征に出ていたはずだ。

 きっとそれに自家製のポーションを持って行ったのだろう。


 サノスの家では、強くはないが回復魔法が使えるワイアットが居るから、自家製ポーションが作れるのだろう。


 だが、教科書通りに作ったポーションならば所詮は教科書通りだ。

 ポーションの性能は薬草の選別や配合に左右されるし、漬け置き中の手間や、仕上げの回復魔法の強さでも左右される。


 これは面白いことだぞ。


 悪いが弟子のサノスであっても俺の薬草配合は教えられない。


 回復魔法が使える冒険者なら、サノスが教科書通りに作れたところまでで良いのだ。

 教科書通りの配合でサノスが作り、回復魔法が使える冒険者が仕上げをすれば自家製ポーションが作れるのだ。


 何やら新たな市場を作れそうな気がしてきたぞ。


 そうしたことを考えている俺にサノスが相談を持ち掛けてきた。


「師匠、ちょっと相談があるんです」

「なんだ?」


「それってポーションじゃなきゃダメですか?」

「?」


「昨日、家で少し考えたんです。二日酔いに効かないかなと思って⋯」

「ハーブティーに使ってるやつか?」


「実は裏庭に繁ってるんです⋯」

「裏庭に? 繁ってる?」


 確かサノスがハーブティーの種に使うと言って何かを植えていたが⋯


 『まずは見てください』と言うサノスに従って一緒に裏庭を見に行くことにした。


 台所脇の出入口から裏庭に出ると、裏庭を占拠するように青々と繁っているハーブが見えた。


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