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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月16日(月)

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4-17 そして今日も風呂屋通いをする


コンコンコン


(師匠、暗くなったんで帰ります~)


 書斎のドアをノックする音で目が覚めると、サノスが帰宅する事を伝えてきた。


「もうそんな時間か?」


 俺は仮眠のためにリクライニングにしていた椅子を直して立ち上がる。

 窓を見ればカーテン越しに感じるのはガス灯の明かりだ。


 書斎から出ると、階段からサノスが階下に降りる足音が聞こえる。

 そんなサノスの足音を聞きながら、書斎ドアの魔法鍵に魔素を流して忘れずに施錠する。


 サノスの後を追うように階下に降りて作業場に行くと、帰り支度を整えたサノスが待っていた。


「サノス、今日の日当と昼食代だ」


 店の売り上げを入れているカゴから銀貨を取り出しサノスに渡すと、両手で受け取ったサノスがペコリと頭を下げてくる。


「ありがとうございます。師匠は夕飯はどうするんですか?」


「そうだな⋯ パンか⋯ 冷蔵庫に何かあるか?」


「昼にヘルヤさんと食べたから何も無いですよ。私はこれから食堂に行くんですけど⋯」


「サノスは大衆食堂に寄るのか?」


「昼にお使いで行ったときに、母とお婆さんから夕方に手伝いに来いって言われたんです」


「そうか⋯ もう暗いし食堂まで送ろう。支度するからちょっと待てるか?」


「はい」


 サノスの返事を聞き、俺はどうせならと思い、昨日購入した手拭いを手にした。



 夕陽も落ち、ガス灯が目立ち始める街並みをサノスと共に大衆食堂に向かって歩いて行く。


「すっかり暗くなったな。もっと早く帰っても良かったんだぞ?」


「ちょっと集中し過ぎました(笑」


「『魔法円』は全て直せたのか?」


「最後に見せて貰った部分が無理でした。何度見ても違いが見つけられなくて⋯ 気が付いたら日が落ちてたんです」


 そんな話をしながら大衆食堂に向かって歩く中、サノスが初めて魔素が見えた頃の話を聞き出せた。


 サノスの話を繋げて行くと、幼少の頃から見えていたような感じだ。

 ワイアットが魔剣の手入れをしている時に、ワイアットの手元がボンヤリと光って見えたと言う。


 後に集中すれば魔素が見えるとわかったのは、去年の今頃だと言う。

 去年の今頃『水出しの魔法円』が家に置かれてから、魔素が見えることに気が付いたと言うのだ。


 俺はその話を聞いて、サノスが魔導師として育つには少し残念な環境に育ったんだと思った。

 幼少の頃から俺のような環境にいたなら、今頃のサノスはもっと魔導師としての修行が成されていたんじゃないかと思うのだ。

 もっともサノスのような庶民が身近で魔素を使うのは、家庭用の『魔法円』ぐらいしか機会がないのも事実だ。


 サノスが魔素を見えるようになった話をしながら歩いていると、間もなく大衆食堂というところでサノスが足を止めた。


「師匠、魔道具屋は何をしたんですかね?」


 立ち止まるサノスの視線の先を見れば、他よりも明るく輝くガス灯に照らされた魔道具屋の看板が見える。

 魔道具屋に明かりは無く、店の前には街兵士が二人立っている


「ああ、何だろうな。オリビアさんや婆さんなら聞いてるかもしれんな」


 サノスの問い掛けに適当に返事をしていると、サノスがキョロキョロし始めた。

 こいつ何をしているんだと考えていると、サノスが不思議そうに聞いてきた。


「師匠、あの魔道具屋の前のガス灯、明るくないですか?」


 サノスが魔道具屋の看板を照らすガス灯を指差す。

 確かに他のガス灯と比べると眩しい感じだ。


「ああ、あれは明るさを上げてるな」


「ガス灯ってそんな事も出来るんですか?」


「サノスは知らないのか?」


「知らないです」


「ガス灯には複数の『魔法円』が入ってるんだ。サノスが気付いた『魔素を取り出す魔法円』以外にも『明るさを調整する魔法円』も入ってるんだよ」


「へえー」


「ガス灯の開発には研究所の連中が何十人も毎日毎日魔法円を描いてたな(笑」


「何十人も毎日ですか?!」


「今もじゃないかな⋯ 製品化してからの方が大変なんじゃないかな?」


「へえ~」


 ガス灯の話をしながら魔道具屋の前を後にし、大衆食堂が見えたところでサノスが聞いてきた。


「師匠、聞いて良いですか?」


「ん? 何だ?」


「その手にしてるのは?」


「ああ、これか? 風呂屋へ行こうと思ってな⋯」


 サノスは俺の連日の風呂屋通いを贅沢だと注意したいのか?

 いや、サノスは俺が連日風呂屋へ行ってるのは知らないはずだ。


「じゃあ、食堂に来るのは風呂屋の後ですか?」


「そ、そのつもりだが⋯ サノスが遅くなったことをオリビアさんや婆さんに伝えるんで一度顔を出すよ」


 サノスと連れ立って大衆食堂に入ると給仕頭の婆さんが声をかけて来た。


「いらっしゃーい⋯ イチノスか⋯ 連日のご来店ありがとうね。悪いけど今はちょっと席が空いてないんだ」


 婆さん。

 最初に『イチノスか⋯』と口にしたよね?

 それって満席だから?


「いや、後で出直すよ。遅くなったんでサノスを送ってきたんだ。オリビアさんにも悪かったと伝えてくれるか?」


「はいはい オリビア! サノスが来たよ!」


 婆さんが声を掛ける店内は、確かに満席だった。

 店内をぐるりと見渡せば、ワイアットらしき姿も見えたが、数人と同じテーブルで盛り上がっているようだった。

 俺はワイアットに声をかけずに店を出る事にした。



 あぁ~


 やはり広い湯船は良いぞ。

 蒸し風呂を楽しみ、水風呂で体を冷まし、今は改めて大きな湯船に浸かっております。


 これで4日連続の風呂屋通いだ。

 こうして広い湯船に浸かるのが贅沢ならば、連日の風呂屋通いはかなりの贅沢だろう。

 もう、贅沢の極みだな。


 しかもこの後は、大衆食堂で湯上がりのエールという決定事項が待っている。


 俺はこの後の楽しみを思いながら湯船に浸かり、仮眠前の続きを考えて行く。


 ヘルヤさんから催促の伝令が来て⋯

 魔道具屋が捕まって⋯


 明日はヘルヤさんの依頼を終わらせよう。

 そういえばヘルヤさんは、リアルデイルに住むと言ってたよな⋯

 彫金の店も一緒に構えるのかな?


 そう言えばヘルヤさんはフェリスと繋がりがあるようだな⋯

 詳しいことはコンラッドから聞くか⋯


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