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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月16日(月)
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4-9 見たことのない制服姿に驚いてしまった


 魔道具屋のあるじは、散々暴れて暴言を喚き散らしていたが、街兵士4人がかりで囚人馬車の檻に放り込まれた。

 その周囲には先程よりも多くの野次馬が集まっている。


 俺は集まる野次馬に席を譲り、ヘルヤさんを探す事にした。

 先程までシスターの居た場所に来ると、如何にも街兵士の管理職らしき制服姿な老齢の男に声を掛けられた。


「イチノス殿、何やら言われましたか?」


「イルデパンさん?」


 驚いたことに、老齢な男はイルデパンだった。

 管理職な制服姿のイルデパンが俺に話し掛けてきたのだ。

 思わず、イルデパンの制服と顔を確認してしまった。


「イチノス殿、どうかされましたか?」


「いや、普段、見たことがなかった装いだったので⋯」


「ハハハ そう言えば、この姿でイチノス殿に会うのは始めてですな(笑」


「ええ、ちょっと意外でした(笑」


「まあ、時によりけりですよ。それよりさきほど、あやつがイチノス殿に変な事を言ってたようですが?」


 イルデパンが言わんとしているのは、魔道具屋のあるじが俺に放った暴言の事だろう。


 俺は魔道具屋のあるじを、とことん無視した。

 ギルマスからの『魔道具屋に関わるな』の忠告もあるが、無視することで魔道具屋のあるじに怒りを抱かせたかったからだ。

 魔道具屋のあるじが怒りに任せて、好きに暴言を吐かせるのが目的でもあったのだ。


 この王国では貴族血族への暴言は、その言葉が時により重罪になる。

 ましてや貴族の血統者へ『殺してやる』の暴言は、場合によっては極刑にも至る重罪だ。


 俺は継承権の放棄をして庶民になりはしたが、それでも侯爵という貴族の血統を受けている者だ。

 貴族の血統者に『殺してやる』と言うのは、その貴族の血統へ挑むことを意味する。

 いわば貴族の血統を絶ってやると宣言したようなものだ。


 これは、俺が貴族の血統者であると知らなかったでは済まされない。

 重罪を免れるには、貴族の血統へ挑むのではなく、個人の諍いとして『決闘』を挑むしか道は残されていない。


 どうする?

 素直に魔道具屋のあるじが『殺してやる』と口にしたことを、イルデパンに伝えるべきか?


「ハハハ まあ調べれば済むことです。この先、色々とご迷惑を掛けるやも知れませんね(ニヤリ」


「⋯⋯」


 こいつ、魔道具屋のあるじが放った暴言を知ってるんじゃないのか?


 イルデパンが「ニヤリ」と口角を上げた所で横槍が入った。

 小走りにやって来た街兵士がイルデパンに敬礼をして声を掛ける。


「副長! お話し中に失礼します。逮捕者を直ぐに移送しますか」


「店の捜索が済んだのか? まだなら暫く晒しとけ。そろそろ連中が顔を見せる筈だ。野次馬の顔をしっかり覚えとけ」


「はっ! 了解しました」


 そう言った街兵士が、再度、イルデパンに敬礼をして走り去って行く。


 副長?

 イルデパンはそんな役職なの?

 夜勤で街に立ってたよね?

 店を開ける際に事前調査で来てたよね?

 改めて、イルデパンの装いを見れば管理職っぽい制服で、肩章に金糸も入ってるし⋯ 帯剣している。

 俺は今までイルデパンのこんな姿は見たことがなかった。


 俺はイルデパンの副長と言う肩書きと、先程の『何か言われましたか?』の言葉を頭の中で組み合わせた。

 そしてイルデパンの口にした『ご迷惑を掛けるやも知れません』の言葉を掛け合わせ、魔道具屋のあるじの行く末に極刑が待っているのを悟った。


 そんな俺にイルデパンが次の言葉を掛けてくる。


「イチノス殿は、どなたかをお探しですか?」


「あっ、赤髪の女性を見掛けませんでしたか?」


「赤髪の女性?」


「シスターを介抱していると思うのですが?」


「シスターなら、あちらの店舗で休まれていますが?」


 そう言って同じ通りの歩道にテントを張り出した店を指差してきた。

 指差す先を見れば、チラリとヘルヤさんの赤髪が見えた気がする。


「イチノス殿、赤髪の女性とは、もしかしてドワーフの⋯」


「イルデパン、ありがとう」


 一瞬、イルデパンが興味深そうな顔を見せてきた。

 こいつ、かなり勘が良いと言うか街兵士の副長だけある。

 俺が『赤髪の女性』と口にしただけで『ドワーフ』の言葉を出してきた。


 魔道具屋のあるじの逮捕にヘルヤさんを巻き込みたくない俺は、イルデパンとの会話を断ち切った。

 そしてイルデパンが指差した店舗へと小走りに向かった。


 イルデパンに教えられた店はお茶を楽しむ店だったらしく、歩道に張り出したテントの下に数脚のテーブルと椅子を置いていた。

 そのテーブルのひとつが野次馬らしき人たちに囲まれている。


「もしかして、あのテーブルか?」


 野次馬の隙間から白い衣装のシスター、南町の店の黒いドレスの女、そして赤髪のヘルヤさんが座っているのが見えた。

 俺は彼女達3人が座るテーブルに近付きつつ様子を伺うと、どうやら街兵士から事情を聴かれているようだ。

 俺は足を止め野次馬に紛れて話を聞くことにした。


「それでシスターは体調はもう良いのですか?」


「優しい言葉をありがとうございます。あなたに神の加護があらんことを」


 どうやらシスターからの事情聴取は終わりに向かっているようだ。


「これから教会に戻られますか? 誰か護衛はいらっしゃいますか?」


「いえ、こうして集まっている皆様のお気持ちを受けている最中です。この程度の事で教会に戻っては、寄付を出していただいた皆様、これから教会に寄付をしていただく皆様に申し訳ありません」


 そう言って大事そうに抱えていた寄付を募る箱らしきものを、野次馬の目に見えるように掲げてきた。


「そうか、ならアタシが協力するよ」


 それまで無関係を装っていた黒いドレスの女が立ち上がった。


「みんな~ シスターのありがたいお話を聞いたよね~ 教会に寄付したいひと~」


 シスターの手にした募金箱を取り上げ、周囲の野次馬に向けて声を張り上げた。

 途端にそれまで狭い感じだったテーブルの周囲が急に広くなった感じがする。

 野次馬の全員が一歩下がったのだろう。


「あぁ、そのような強制はいけません。あくまでも皆様のお気持ちが大切なのです」


 少し慌てた声でシスターが諭すが、構わずに黒いドレスの女は募金箱を手に立ち上がり、野次馬から寄付を集め始めた。


「ほら~ アタシの店に来る分を寄付してぇ~ 詳しい話を聞きたかったら店に来てね~ ここで寄付を断った人は店に入れないからねぇ~」


 その黒いドレスの女の様子に、事情聴取をしていた街兵士が苦笑いをしながら席を立ち上がった。


 それにしてもこの黒いドレスの女、なかなか、したたかな感じがする。

 南町の自分の店に来る金を寄付しろと言いつつ、店に来れば話を聞かせると言う。

 しかも、寄付しないと入店を拒否すると口にしている。

 シスターの寄付を集めつつ、自分の店の宣伝を巧みにしている感じだ。


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