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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月13日(金)
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1-5 マイクの婚約


 フェリスが話を続ける。


「ランドルが戦地へ行く前に、ウィリアムは継承権を放棄したでしょ?」


「その話は、ウィリアム叔父さんから聞いたよ。父さんが戦死すると、叔父さんに侯爵の継承権が発生するんだろ?」


「ウィリアムが国王へ進言したのも聞いてるわよね?」


「『ランドルの後は息子のマイクに継がせるべきだ』そう国王へ進言した話でしょ?」


 この話もこの街では有名な話だ。

 また、ウィリアム叔父さんの評判を大いに高めた話でもある。

 

「マイクも半年後には成人だから、侯爵になるわよね。その後に、私とウィリアムの婚約を発表する予定よ」


「なるほど、マイクの侯爵叙爵に続けて、ウィリアム叔父さんと母さんの婚約発表でケユール家の安泰を唱うんだね?」


「いえ、それだけではありません」


 俺の考えを話したところで、コンラッドが割り込んできた。


「マイクね、侯爵の叙爵と一緒に婚約発表するのよぉ~」


「えっ! マイクが?!」


「はい。現在の王国では、ケユール家の侯爵は特別に空位を認められておりました。それもマイク様が成人を迎えれば叙爵して解決しますが、跡継ぎが不安視されます」


「それでマイクが婚約?」


「ええ、マイク様がご結婚されれば、跡継ぎに関しては生めよ増やせよで世間から希望が生まれます」


「そうなればウィリアムが放棄した継承権、それの復活を持ち出す輩を完全に排除できるでしょ」


「フェリス様の仰有るとおりです」


「そこで私とウィリアムが一緒になれば、ウィリアムの継承権の復活を望む連中も殲滅でしょ?」


 『完全に排除』とか『殲滅』とか、かなり過激な言葉が出てくるけど大丈夫か?


 んん?


「えっ? ちょっと待って。母さんは、ウィリアム叔父さんに側室で入るんじゃないの?」


「あら、ウィリアムは独身よ。イチノスは何を寝ぼけたことを言ってるの?」


 考えてみれば、そもそもフェリスはウィリアム叔父さんの正妻として嫁ぐ予定だった。


 その予定を愚かな貴族連中の、愚かな具申で、侯爵であるランドルの側室に納まったのだ。


 そのランドルを戦地へ向かわせ戦死させたのも、愚かな貴族連中だろう。

 そうした愚かな貴族連中の思惑を、全て壊す異母弟マイクの侯爵叙爵。


 追い討ちを掛けて、マイクの婚約発表。

 止めを刺すようにフェリスとウィリアム叔父さんの結婚と続けば、戦死したランドルも、墓の中で愚かな貴族連中の愚かな企みを全て覆せる思いだろう。


 当人達としても、ランドル正妻ダイアナは無事に自分の息子が侯爵になる。


 ウィリアム叔父さんは、ようやくフェリスを正妻に迎えられる。

 マイクは些かこれからが大変そうだが、彼ならそつなくこなせる気がする。


 皆が当初の思いというか、本来望む道をこれからは進めそうな感じだ。


「ウィリアム叔父さんと母さんの再婚の話はわかった。マイクの叙爵もわかった。マイクの婚約の話は驚いたけどね」


「あなたが理解してくれてよかったわ」


「わかったけど⋯ あれ? 何か気になるな⋯」


「フフフ」「ニヤニヤ」


 フェリスとコンラッドが何故かニヤつく。


「そうだ! ウィリアム叔父さんの跡継ぎは?!」


「イチノス、もうすぐウィリアムお義父さんよ。今から練習しなさい(笑」


 冗談めかして答えたフェリスはハーブティーへ口を着けつつ答えた。


「まさか母さん、産むつもり?」


「もちろんよ。彼が望むなら産むわよ」


 おいおい、フェリスさん。

 年齢を考えてくれ。


「その、伯爵であるウィリアム叔父さんの跡継ぎが、俺みたいなハーフエルフでも問題ないの?」


「その件ですが、まもなく根回しが終わります。王国議会で採決されれば、国王の承認も得られるでしょう」


「うんうん」


 コンラッドが割り込んで答え、フェリスが頷いている。

 何となくだが貴族の世界、王国議会の流れが大きく変わってきているのを感じる。


「わかった。それなら母さんとウィリアム叔父⋯ 義父さん⋯ あれ? 結婚前だから叔父さんで呼ぶよ。二人の結婚を改めて祝福するよ」


「ありがとう♪」


 フェリスが明るく礼を言う。


「そうだな。結婚祝いは何が良い? 高い物以外で希望がある?」


 俺の言葉に、フェリスとコンラッドが顔を見合わせる。


「あるわよ。結婚祝いでウィリアムも私も欲しいものがあるの」


「何かな? 言ってみて」


「『勇者の魔石』よ」


「えっ?!」


「出来れば二つ欲しいの」


「二つ? 『勇者の魔石』を?」


「そう、私とウィリアムの分。それに⋯」


「わかった! マイクの分で2つだ!」


「イチノス様、勘が冴えて来ましたね(笑」


 再びコンラッドが話に割り込み、冗談を含めた言葉で俺を称える。


 それにしても『勇者の魔石』を欲しがるとは⋯


 お母さん、あなた子供を、しかも男の子を生む気マンマンですね。

 しかもその『勇者の魔石』を息子である俺に要望するとは⋯


 いや待てよ。


 実際は異母弟マイクへの婚約祝いが主体じゃないのか?


 『勇者の魔石』は、確実に男の子を授かれると言われている代物だ。


 例えば俺が『勇者の魔石』を手に入れたとする。

 フェリスはそれを、俺から異母弟マイクへ『婚約祝いで贈りなさい』と諭しているのでは?


「なるほど。『勇者の魔石』か⋯」


「イチノス様は、国内でも屈指の魔導師であり『魔石造りの名手』です」


 おいおい、コンラッド。

 むず痒くなるほど誉めてくるじゃないか。


「確かにマイクの婚約祝いに、俺から『勇者の魔石』を贈るのは、一番良い選択だね」


「あらイチノス。私の結婚祝いじゃないの?(笑」


 こういう時にこそ、目を細めた笑顔を作れば良いのだろうかと、俺は悩んでしまった。


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