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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月16日(月)
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4-5 日程を聞いたら教会へ誘われました


 魔法鍵をかけたフェリス宛の小箱をコンラッドに差し出すと、それを手にしたコンラッドは蓋を開ける仕草をして小箱に鍵が掛かっているのを確認した。


「鍵を確認しました。残る私からの用件は1つです」


「そうだったな、どんな用件だ?」


「それについては、最後に渡すようにとフェリス様から手紙を預かっております」


 そう言ったコンラッドは上着の内ポケットから、白い封筒をチラリと見せてきた。


「これをお渡しする前に、イチノス様の用件をお聞かせください」


「そうだな、昨日ギルマスから変な事を言われたんだよ」


「ギルマス? ベンジャミン様からですね。何を言われました?」


「魔道具屋に暫くは関わりを持つなと言われたんだよ。コンラッドは何か知ってるか?」


「魔道具屋ですか⋯ イルデパンが忙しくなりそうですな(笑」


「イルデパンが?」


 その言葉にイルデパンを思い出していると、コンラッドが話を続けて来た。


「子爵絡みと考えられる方が懸命かと?」


「子爵絡み⋯ そうか⋯ そっちか⋯」


 確かにギルマスは子爵の三男だから、ストークス子爵家に絡んだ事なのだろうと思っていると、コンラッドが本題を話せと言わんばかりに次の話を求めてくる。


「他にイチノス様の用件は?」


「マイクの叙爵日は決まってるのか?」


 俺は『勇者の魔石』作成を意識して、コンラッドに問いかけた。

 異母弟マイクの誕生日は11月15日だが叙爵日が誕生日になるとは限らない。

 誕生日を迎えて成人し、1~2ヶ月後に叙爵となる可能性は高いだろう。

 言わば、その日付が『勇者の魔石』を作り異母弟マイクに届ける期限になるだろう。


「マイク様の叙爵は11月の25日で内定しております」


「11月25日?」


 この日程には正直に述べて驚いた。

 マイクが誕生日を迎えて成人し、直ぐに叙爵と言えるだろう。

 俺の知る限り、成人して直ぐに叙爵した貴族は記憶に無い。


「随分と早いと言うか急いでる感じがするな」


「そうでしょうか? 空白だった侯爵の叙爵です。マイク様の誕生日でも良いとの声もありますが?」


「いや、俺が言い過ぎた。確かにマイクの誕生日で考えるべきだな」


「他にイチノス様のご用件は?」


 まだ、何かあるだろ?

 コンラッドの俺を見る目には、そんな意思を感じた。

 俺はコンラッドに甘えついでに聞いてみることにした。


「勇者ってどう思う?」


「と、言いますと?」


 俺の質問に答えたコンラッドがお茶を口に運ぶ。

 その返事と様子に、もっと具体的に尋ねるべきかと、俺の考えをコンラッドに伝えた。


「マイクへの叙爵祝いで贈る『勇者の魔石』を作るには、勇者の力を借りる必要があるんだ。その為に今の勇者が誰かを知りたいんだ」


 コンラッドが無言のままでお茶を口に運ぶ。


「イチノス様」


「なんだ?」


「勇者の名を私から聞き出して、その後はどうされますか?」


「多分だが、勇者を尋ねるだろう」


 勇者が誰かわかれば、勇者の元を訪ねて『勇者の魔石』を作るために力を貸してくれと頼みに⋯


「イチノス様は勇者に力を貸してくれと頼みに行くのですか?」


 コンラッドは俺の心が読めるのか?

 いや、『勇者の魔石』を欲する者ならば至極当然の行動だろう。


「まあ、そうなるだろうな」


「その勇者が初めて逢う相手ならば、イチノス様はどうされますか?」


 おっと、これはヘルヤさんの例になるな。

 勇者を知り俺を知っている身元の確かな紹介人なり仲介人を立てて、勇者へ話を通すべきだろう。


「勇者を知っている者、勇者に話しをてくれそうな方を探して、勇者への紹介を頼むだろう」


「そうですか⋯ 少し違う話をしましょう。イチノス様は『賢者けんじゃ』をご存じですか?」


 コンラッドが勇者の話から賢者けんじゃの話しに切り替えてきた。


賢者けんじゃ? 学校時代に学んだ記憶では、賢者けんじゃとは幾多の知識を有している者だと学んだが⋯」


「それだけですか?」


「思い出した、転生てんせいだ。前世の記憶や知識を有して、この世界に生まれてきた者が賢者になると言われているとか?」


「それだけですか?」


 コンラッドが『それだけ』かと俺に語らせようとする。


「それだけ? コンラッドは何が言いたいんだ?」


「誰が『あの人はあの方は賢者だ』と声を上げるのでしょうか?」


「それは周囲の連中だろう。知識を与えられた周囲の者達が称えることで賢者と認められ⋯」


 そこまで口にして、俺の中で『賢者けんじゃ』の定義が曖昧になった。


「まてよ、誰が認めるんだ?」


 思わず呟いてしまった。

 そもそも俺は誰かが『賢者けんじゃ』と呼ばれているのを聞いたことがない。

 それは『勇者』でも同じだ。

 『賢者けんじゃ』とか『勇者』とかの定義が曖昧になる俺に、コンラッドが畳み掛けてくる。


「イチノス様のお話ですと、賢者の条件は転生者であること、前世の記憶や知識を有していること、その記憶が知識が卓越していること、周囲がその様子から賢者だと声を上げること⋯」


「わかったわかった。コンラッド、ちょっと止めてくれ」


「わかっていただけてなによりです」


 クソッ! コンラッドの棒読みな言い方が癪に触る。


「勇者の件は俺なりに考えてみるよ」


「さすれば私からイチノス様に勇者へ繋がる言葉を差し上げます」


 そこまで口にしたコンラッドが、フェリス宛の小箱を押さえるように手を掛けた。

 それと同時に店の出入口に着けた鐘が鳴った。


カランコロン


「師匠! 戻りました~」


 サノスが大きな声でお使いから戻ってきたのを伝えてくる。

 その声に反応したように、コンラッドがフェリス宛の小箱を手に席から立ち上がった。


「イチノス様、これを」


 そう言ってフェリスからの手紙を俺に差し出してくる。

 俺も席から立ち上がり、コンラッドの差し出す手紙を受け取り、直ぐにベストのポケットに押し込んだ。


「師匠! 戻りました~」


 サノスが声と共に作業場に顔を出し、俺とコンラッドに笑顔を見せる。


「イチノス様。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」


「こちらこそありがとう。そうだサノス」


「はい、なんでしょう」


「買ってきた茶葉やぶきたを、客人への手土産にしてくれ」


「はい、直ぐに」


 コンラッドに礼を返しつつ、サノスに買ってきた茶葉やぶきたを持たせる話をする。

 サノスも察してくれたようで、店舗に戻りコンラッドへ渡す準備を始めたようだ。


 するとコンラッドが聞きなれぬ言葉を口にした。


「イチノス様、教会へは行かれましたか?」


「いや、ご無沙汰しているな」


「時には教会長とお茶でもされてはいかがですか?」


 なんで急にコンラッドは教会の話をするんだ?


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