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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月16日(月)
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4-3 執事が突然やって来た

4-3 執事が突然やって来た


 サノスは上手く行かないと、無理矢理に『魔素』を流して解決しようとする傾向があるのがわかった。


「サノス、そんなに縮こまるな。強く叱りすぎたな」


「いえ、私も悪かったです。魔素量が多ければ流れるかと思って力んでしまいました」


「気持ちはわかるが意味がないな。そもそもサノスが描いている『魔法円』は家庭用だろ? 家庭用で大量に魔素を消費させるきか?(笑」


「師匠のおっしゃる通りです。本当にすいません」


 これだけ注意すれば十分だろう。


「ここからは説教じゃ無い。将来、サノスが魔道師になった時の話をしよう」


カランコロン


 さあこれからと言うところで、来客を知らせる鐘が鳴った。


「はぁ~い。いらっしゃいませぇ~」


 お客様の来店を告げる鐘にサノスが直ぐに反応し椅子から立ち上がると、店に飛び出して行く。


(いらっしゃいませ~ 何をお求めですか?)


(先触れもなく訪問して申し訳ありません。私、コンラッドと申します。イチノス様へお目通りを願えますでしょうか?)


 この声はフェリスの執事兼護衛のコンラッドの声だ。


(はい。只今、呼んでまいります。しばらくお待ちください)


 サノスの声がして直ぐに作業場に顔を出してきた。


「師匠、執事さんが来ました」


「わかった。サノスは机の上を片付けて、お茶の準備をしてくれるか? 準備できたら声をかけてくれ」


 俺はサノスに言い残して、サノスと入れ替わるように店舗に顔を出すと、コンラッドが小箱を両手に立っていた。


「コンラッド、おはよう。朝早くから来てくれてありがとう」


「イチノス様、おはようございます。こんなに早くから店を開けるとは、イチノス様も商売に熱心になられたようで何よりです」


 コンラッド。

 朝から嫌みは止めてくれ。


「少し待ってくれるか、今、準備をさせているんだ」


「はい。私もこの時間に突然来てしまい申し訳ありません。それはそうと⋯ 内弟子ですか?」


 こいつ⋯ さらりと聞いて来やがる。


「コンラッド、俺が内弟子を取ると思うか?」


「では、未成年の幼女誘拐に拉致監禁、加えて強制労働とは⋯ フェリス様がさぞ心配されるでしょう」


「本気で言ってるのか?」


「いえ、冗談です」


 俺が目を細めてコンラッドを見ると、コンラッドがニヤリとした顔を見せてきた。


「昨日の夕刻に伝令が届きました。直ぐに本日の訪問の先触れでアイザックを向かわせましたが⋯」


「すまんな、所用で出ていたんだ」


「いえ、こちらこそ急な訪問に至って申し訳ありません。私の都合を優先しましたことを深くお詫びします」


 そう言ってコンラッドが少し頭を下げて横にずれると、店の出入口の外に青年騎士アイザックの後ろ姿が見えた。

 俺が出掛けてサノスが帰った後に、青年騎士アイザックが空振りに終わったのか。

 申し訳ないことをしたな。


 それにしてもコンラッドが護衛を連れて来ての訪問か。

 このまま『エルフの魔石』を持って帰るのだなと深読みしてしまう。

 だが俺としては少し不安もあるので、コンラッドに念を押しておく。

 

「コンラッド、頼みがある」


「はい、イチノス様。お申し付けください」


「先程の店員は、本格的に弟子入りしたばかりだ。『あれ』を知るには未だ早いと俺は考えている」


「イチノス様、その言葉で十分に理解しました。言葉も含めて最大の注意を払います」


 コンラッドの言葉に俺が頷くと、コンラッドも頷き返してくれた。


「師匠、ご案内できます」


 サノスが店舗に顔を出し、準備ができたことを知らせに来てくれた。



 コンラッドを店の奥の作業場に案内し着席を促す。

 サノスがおやぶきたを淹れて、コンラッドと俺の前に出してくれた。

 コンラッドがサノスの出したお茶を口に含みサノスに声をかけた。


「なかなか良いお茶ですね。何よりお嬢さんの淹れ方が良いのですね。久しぶりに美味しい緑茶に出会いました」


「ありがとうございます」


 コンラッドがサノスの淹れたお茶を褒めてくる。

 なるほど、こうした褒め言葉もあるんだなと感心させられる。


「サノス、すまんが席を外してくれるか」


「はい。店に出てますね」


「いや、すまんがお使いを頼む。雑貨屋で同じ茶葉を手に入れてきてくれるか? 急ですまんが頼む」


「は、はい。では行ってきます。どうぞごゆっくりお過ごしください」


 俺の急なお使いの願いにサノスが察してくれたのか、バタバタと支度を始めて作業場を出て行った。


コロンカラン


 サノスが店の出入口から出た気配がしたので、俺はコンラッドへ話しかける。


「コンラッド、すまんな」


「いえ、イチノス様のご様子で、お弟子様への気配りが伺えました。むしろ私が礼を言う側です」


 コンラッドが品のある笑顔を見せてきた。

 こうした返事の仕方もあるのかと、つくづくコンラッドには学ばせられる。


「イチノス様、まずは私からの用件でよろしいでしょうか?」


「ああ、それで進めよう」


 コンラッドが気を利かせて話を進め始めた。


「まずはイチノス様から届きました手紙にありましたホルデヘルク氏とは、ヘルヤ・ホルデヘルク氏の事でしょうか?」


「そうだ。彼女から兄の形見の『魔鉱石まこうせき』に魔素の充填を頼まれた。冒険者ギルドのベンジャミン・ストークス殿がヘルヤ氏の紹介人になる予定だ」


「あの高名な彫金師であるヘルヤ氏がイチノス様の元を訪れるとは、このコンラッド、何とも縁を感じてしまいます」


「どうだろう。この話は事実か?」


「ご心配は無用です。昨日、ヘルヤ氏からの伝令がフェリス様宛に届き、フェリス様とも協議しました。イチノス様のお話の通りですのでご安心ください」


「ギルマスのベンジャミン殿からランドルの強化鎧がホルデヘルク氏から贈られた物だと聞いたが?」


「はい。ヘルヤ氏の祖父の作です。ヘルヤ氏の兄とお揃いでヘルヤ氏の彫金が施され見事な物でした」


「両方の強化鎧に使われた『魔鉱石まこうせき』は俺が作った『エルフの魔石』なのか?」


「はい。間違いありません。フェリス様から贈られた物が使われております」


「ヘルヤ氏の兄に贈られた『エルフの魔石』はヘルヤ氏が持っているが、ランドルの方の『エルフの魔石』はどうなったんだ? コンラッドは何か聞いているか?」


「それですが⋯」


「⋯⋯」


 そこで珍しくコンラッドが言い淀んだ。


「俺が聞かない方が良いみたいだな。コンラッド、変なことを聞いてすまん」


「いえ、お心遣いに感謝します」


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