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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月15日(日)

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3-19 一緒にお風呂に入ると仲良しです


「この坊主頭ではイチノス殿の記憶に無いか?(笑」

「あの時に坊主だったら覚えてますよ(笑」


「ハハハ、イチノス殿の言うとおりだ。ハハハ」


 湯船に浸かり、坊主頭と共に語り合う。


「では、改めて名乗らさせてもらう。東国あずまこくより来た、ワリサダ・ワガトクだ。ワリサダと呼び捨てで頼む」

「イチノス・タハ・ケユールだ。俺にはイチノス『殿』で頼む(笑」


「「ハハハ」」


 ワリサダと名乗り合い、風呂場に響く声で笑ってしまった。


 ワリサダの話を聞き、彼の言うとおりに2年前の研究所時代に会っている事を、俺はそれなりに思い出した。


 2年前の研究所時代、俺は東国あずまこくから来た使節団に講義を行った。

 『魔法円の改革』と題し『神への感謝』を含まない『魔法円』に関する講義を行ったのだ。

 その講義の後で、使節団の数名に話をする機会を求められ俺は応じた。

 その数名の中の一人がワリサダだったのだ。


 当時のワリサダは坊主頭ではなく髪を束ねていた。

 と言うか、当時の使節団の方々は全員が髪を束ねていた。

 そんな彼らが坊主頭になって『お久しぶりです』と表れても、顔など思い出せないのは当たり前だと言いたい。


「ようやく思い出してきたよ。さすがに坊主頭だと人相がさっぱりわからん」

「おう、これな。国を出立する際に坊主にしたんだ。他国を散策するのに自国の文化に縛られるのは良くないと思ったのだ」


 ワリサダが使節団員としての名言を口にした気がする。

 ワリサダの言うとおりに、他国に自国の文化を無理に持ち込む必要はないだろう。


「我が国には『郷に入っては郷に従え』ということわざがある。それを実践してみたのだ」

「なかなかいさぎよいな(笑」


「それに髪を束ねていると、旅程中はとにかく鬱陶しいのだ」

「それが本音だろ?(笑」


「いや、本音はな⋯ この国の女性と距離を縮められるからだ!」

「⋯⋯」


 こいつ、何が目的で王国に来たんだ?


 その後のワリサダの話でわかったのだが、彼は2回目の王国訪問だそうだ。


 1回目は研究所を訪れ、俺の講義の後は王都を散策して、国に戻ったそうだ。

 そして今回は貿易品選定で訪れたと言う。

 そう述べた今回の訪問目的だが、幾分、不純な動機も混じっている気がするが黙っておこう。


 そんなワリサダの王国訪問の話を聞きながらも、俺の目は彼の胸元で輝く『魔鉱石まこうせき』に行ってしまう。

 確かに『魔鉱石まこうせき』なのだが『魔石光ませきこう』が弱い気がする。

 俺の愛用している『エルフの魔石』とも違う、若干だが青みを帯びた銀色なのだ。


「そう言えば一緒に来た『じい』の容態は大丈夫なのか?」

「心配ない、心配ない。水が変わって苦労してるだけだ。宿で寝てれば良くなるさ」


 ワリサダの言葉に納得がいった。

 水出しの魔道具が壊れたと言っていた。

 きっとここまでの旅程で使っていたのが壊れてしまい、井戸水でも口にして水が変わって腹を壊したのだろう。


「それにしても、この風呂屋は良いな。王都の風呂屋にも負けぬだろう」

「南町の風呂屋は?」


「行ったぞ! あれはスゴいな。あれこそ王都の風呂屋以上だ」


 そんな会話をしながらも、俺の視線はワリサダの胸元に向かってしまう。


「イチノス殿、先程からこれが気になるようだな?」


 ワリサダが自分の胸元の『魔鉱石まこうせき』に手を当てて聞いてきた。


「ああ、気になる。どうやって手に入れたんだ?」

「その質問をすると言うことは、イチノス殿はわかっているのだな?」


「わかっている。明日は店に来れるか? そのときに詳しく話したい」

「明日か?! イチノス殿の店か⋯ う~ん⋯」


 ワリサダの返事が何とも歯切れが悪い。

 ギルマスが言っていた選考絡みか?

 それともじいの体調が心配なのか?

 それに俺の店に来ることを躊躇っている気がする。


「イチノス殿は、この後、予定があるか?」

「いや、エールを飲むぐらいだな」


「エールか! いいな。よし一緒に行こう」


 明日の店での話を明確にせぬまま、ワリサダが立ち上がり湯船から出て行こうとする。

 俺も合わせて風呂から上がることにした。



 風呂屋を後にして、ワリサダと共にリアルデイルの夕暮れを大衆食堂に向かって歩いて行く。


 リアルデイルの街並みや、この街が東西南北の街道が交差している街であることなどを簡単にワリサダに伝えていると、ガス灯係に声を掛けられた。


「イチノスさん、随分と早い時間に出歩いてるな。店はどうした?(笑」


 このガス灯係に見覚えがある。

 俺がガス灯係の彼を記憶しているのは、彼が持っていた『魔骨石まこっせき』が『魔素切れ』を起こし、俺の店に駆け込んで来た事があったからだ。

 

「お勤め御苦労さん。今日は切れてないか?(笑」


 ガス灯係の皮肉に俺も少し皮肉混じりに返してみる。


 そんな皮肉を気にせずガス灯係は業務を優先して、点火の『魔法円』に『魔素』を流し始めた。

 スルリとガラスで覆われたガス灯に明かりが点る。

 ワリサダが観察するようにガス灯を下から見上げつつ、周囲を回りながらガス灯の明かりを眺めている。


「ワリサダ、珍しいか?」

「イチノス殿、珍しいというかガス灯に火を点すところを初めて見るぞ」


「王都にもガス灯はあったと思うが?」

「王都にもガス灯はあった。だが火を点すところは初めて見たのだ」


 そこでふと思い立ち、次のガス灯に向かおうとするガス灯係に声をかける。


「すまんが頼みがある。聞いてくれるか?」

「イチノスさん、改まってどうしたんですか?」


「彼にガス灯に火を点させたいんだ。一つガス灯を借りて良いかな? 彼で無理だったら俺が責任持って点すから。どうかな?」

「内緒ですよ(ニヤリ」


 そう言って彼は左の掌を見せてきた。

 これはお駄賃をねだる仕草だ。

 俺は周囲に見られないように銀貨1枚を手渡す。


「次のガス灯でお願いします。俺も立ち会いますんで」

「ああ、それで良いだろう」


 俺はガス灯係に告げてから、ワリサダに声をかける。


「ワリサダ、ちょっとした余興だ」

「ん? なんだ? 余興とは?」


「そこのガス灯に火を点けてみないか?」

「良いのか?! 是非ともやってみたいぞ!」


 そう言って次のガス灯に目をやると、ガス灯係が灯りを点す『魔法円』が納められた小窓を開けて手招きしていた。


「あのガス灯でやらせてくれるようだ」

「おう、あれだな」


 ワリサダが言うが早いか手招きするガス灯係に小走りに向かっていった。


 そんなワリサダに追い付くと、ワリサダはガス灯係に教えられて、既に『魔素』を流そうとしていた。


「旦那、少しで良いんです。切っ掛けを与えるだけですから、ほんの少しだけ流してください」

「わかった。少しで良いんだな?」


 ガス灯係が念を押すようにワリサダに告げる。

 一方のワリサダは、ガス灯を見上げながら右手の指先を『魔法円』に触れさせた。

 『魔素』が流れたのか、ボウッとガス灯に火が点った。

 ワリサダに目を戻せば満足げな顔でガス灯を見上げていた。


登場人物

 ワリサダ・ワガトク

 ガス灯係

舞台

 西町の風呂屋

 西町の風呂屋⇒大衆食堂

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