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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月11日(土)

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30-1「木箱と隣の空き家」

 王国歴622年6月11日(土)

 ・特に予定無し


「イチノスさ~ん、おはようございま~す」


 ロザンナの声で目が覚めた。

 ベッド脇の置時計を見ると、八時を指している。


 カーテン越しの朝陽は弱く、曇っているのか、それとも昨夜から降り出した雨が今朝も残っているのか。


 トントントン


 階段を登るような、あるいは叩くような音がする。ロザンナが俺を起こすために階段を叩いているのだろう。


 トントン


「起きてるぞ~」


 トン⋯


 俺の返事と共に、階段を叩く音が止んだ。


 昨日、商工会ギルドを出た俺は、店には戻らずにそのまま風呂屋へ向かった。


 〉魔石を巡る裏社会の組織って感じかな


 風呂屋へ向かって歩きながら考えていたのは、シーラの口から出た『魔石シンジケート』の話と、捕まった元魔道具屋の主、そして商工会ギルドでの入札が中止になった件の関係性だ。


 どう考えても、これらは『魔石シンジケート』が絡んでいると思えた。むしろ、無関係だったらそのほうが驚きだ。


 風呂屋の姿が見えたところで、仮ではあるが俺はそう結論を出した。


 着替えを済ませ、階段を降りる。途中で尿意を解消し、台所で手を洗って作業場へ向かうと、すでにサノスとロザンナが席についていた。


「サノス、ロザンナ、おはよう」


「師匠、おはようございます」

「イチノスさん、おはようございます」


 朝の挨拶を交わした途端、サノスが手際よく皆のマグカップに朝の御茶を注ぎ始める。


 ポコポコ ポタポタ


 御茶がカップに落ちる音に混じって、どこからか雨だれのような音が聞こえた。


 ポタポタ


「雨が降ってるのか?」


「えぇ、霧雨みたいなのが降ってます」


 ロザンナが窓の外を見ながら答える。

 どうやら今日は、そういう日らしい。


 こんな雨の日には外出は控えたいな。

 今日は一日、店から出ずに過ごしたい。


 雨が降っていると、どこかへ出かける気にもならないし、傘を差して歩くのも面倒だ。静かな店の中で、何も考えずに過ごせたら、それが一番いい。


「師匠、どうぞ」


 サノスが俺の前にマグカップを差し出してくる。


 軽く礼を告げ、それを受け取った瞬間、ふわりと立ち上る湯気に思わず鼻をひくひくとさせてしまった。


 実に良い緑茶の香りだ。

 深く息を吸い込むと、気持ちが落ち着いていく。

 作業場に広がる御茶の香りが、やけに心地よく感じられた。


 三人で朝の御茶をすすりながら、昨日のことを思い出しつつ問いかけた。


「ロザンナ、昨日は出掛けてしまってすまなかったな」


「いえ、とんでもありません。一度、ガタガタしましたが、イチノスさんの言い付けどおりに無視しました」


 ロザンナの言う『ガタガタ』とは、客が来て扉を開けようとしたことを指しているのだろう。


「うむ、問題ないぞ。閉店の札を出して鍵を掛けてるんだから、店は休みで通して良いぞ。どうだ、水出しに集中できたか?」


「えぇっと⋯ 集中できました(笑」


 ロザンナの返答に、言葉を濁した様子が見て取れた。やはり他のことに気を取られていたようだ。


 思い当たるのは、魔素インクで書いた線に魔素を流す件だろう。それに、サノスが来てからは木箱に入っていた教本やらで気が散ってしまったのだろう。


「サノスも昼過ぎには来たのか?」


「はい。ロザンナと一緒に、箱の中身は全部片付けました」


「じゃあ、店に積んであるあの木箱は空なんだな?」


「はい、中身は全て本棚に納めました」


「イチノスさん、あの木箱は、また使うんですか? それともどこかへ片付けるんですか?」


「多分、片付けるが、今日は雨も降ってるし、今はそのままでいいんじゃないか?」


「イチノスさんがそう言うなら⋯」


 ロザンナの返事を聞きながら、昨夜のことが頭をよぎる。商工会ギルドから風呂屋へ寄り、大衆食堂で飯を食い、小雨の中、店に戻った。その時には、店舗の隅に木箱が積まれていた。


 今日は来客の予定もないし、雨なら客も来ないだろうから問題はないだろう。

 シーラが明日の日曜の昼過ぎに、店に来ると言っていたから、遅くとも明日の昼前にでも片付ければ良いだろう。


「師匠、あの木箱を使う予定は無いんですか?」


 不意にサノスが木箱の行方を問いかけてきた。


「使う予定か⋯ 今はないな。明日になれば雨も止むだろう。そしたら、俺が隣の物置に運んどくよ」


「隣の物置に?」

「運んどく?」


 サノスとロザンナが顔を見合わせると、頭の上に疑問符が浮かんで見えた。


「隣って⋯ この店の隣ですか?」


「そうだな。隣は隣だが?」


 サノスが妙なことを聞いてくる。


「イチノスさん、隣って空き家ですよね?」


 ロザンナの言葉を聞いて、俺は二人に話していなかったことを思い出した。


「そうか、二人には教えてなかったな。隣の空き家も使えるんだよ」


「「えっ?!」」


「この店を構えるときに、隣も一緒に使えるようにしたんだ。最初は隣は工房にでもしようと思ってたんだが、思ったよりもこの店の出来上がりが良い感じだったんで、結局、隣は物置にしてるんだよ」


「それって⋯ イチノスさんが隣も借りてるんですか?」


 まあ、こんな話をしたら俺が借りてると思うだろうな。


 実際には、ウィリアム叔父さんからこの店舗兼住まいと隣の建物をまとめて与えられたが、そうした細かいことまでは二人に伝えていないからな。


「まあ、そんな感じだな。それよりあの木箱を何かに使いたいのか?」


「ハーブを育てたいんですけど、隣の裏庭も使えるなら⋯」

「うんうん」


 なるほどな。今の裏庭はハーブの類いを全て刈り取って薬草菜園になってるから、サノスは以前に育てていたハーブを再び植えたいんだろう。


 確かに、あの木箱を四つ並べてハーブを植えれば、裏庭はさらに良い感じに仕上がりそうだ。


「わかった。虫が湧かないなら、木箱も隣の裏庭も使って良いぞ(笑」


 俺の言葉を聞いた途端に、サノスとロザンナは顔を見合せ、嬉しそうな表情を見せてきた。


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