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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月10日(金)

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29-17「静寂の商談室」


「シーラ、この扉は閉めても良いよな?」


 俺が商談室の扉を指差しながら奥に座っているシーラに問いかけると、シーラは少し考えた後、軽く頷いた。


「そうね。閉めた方が良いわね」


 シーラの了解を得て、商談室に後から入った俺は、扉を閉めた。

 扉が閉まった瞬間、昼前の商談室とはまるで違う静寂が広がる。商工会ギルドの商談室らしく、防音にかなり気を遣っているようだ。


 そういえば、冒険者ギルドの掲示板脇にあった別室。あそこも扉を閉めると、まるで周囲の音が遮断されるように静かだった。ホールで賑わっているはずの冒険者たちの声が一切聞こえなくなっていたな。


 何故かそのときの感覚を、今思い出しながら目の前のシーラを見やる。

 狭い商談室に二人きり。昼前とはまるで違う静けさに包まれた空間。ただ静かに時が過ぎていく。


「さて、何から話すのが良いのかな? まずは『魔石シンジケート』の件から話す?(笑」


 シーラの声が静寂を破る。

 その口調は、まるで俺の考えを見透かしているかのようだ。いや、実際、そうなんだろう。先ほどの応接室で『魔石シンジケート』の話が出た時、俺がどこか引っかかっていたのを、シーラはちゃんと見抜いていたんだろう。


「ククク、氷室と冷蔵倉庫の件が先じゃないのか?(笑」


「イチノス君が言うなら、そっちからね。イチノス君は今回の話を受けるんだよね?」


「いや、正直に言うと迷っている。シーラは受けるつもりなんだろ?」


「えぇ~、イチノス君も一緒に受けようよぉ~」


 急に甘えたような声で言われても、さすがに⋯


「ククク シーラは最初から受けるつもりだったんじゃないのか? これは俺の予想だが、昼前に商工会ギルドへ足を踏み入れた時から考えてたとか?(笑」


 俺の疑問に、シーラはニヤリと笑って答えた。


「やっぱりイチノス君にはバレてた? 正直に言うけど、氷室建設の話しは受けようと思ってたよ」


「それが冷蔵倉庫まで話が大きくなって、さらに興味を持ったんだろ?」


「そうだね。氷室だけの話なら製氷の魔道具と冷却の魔道具で終わりだけど、冷蔵倉庫の話まで出てきたから、さらに受けたくなったわね(笑」


 その一言で、俺もやっと納得する。

 シーラが物事を聞くほどに前向きになっていくのは、昔からの癖みたいなものだ。

 学校時代もそうだった。話が大きくなるほど、まるでその勢いに引っ張られるように、シーラはやる気を見せてくるのだ。


「私はね、イチノス君も参加してくれるなら出来ると思うの」


 シーラはそう告げながら、緑色の瞳で俺をじっと見つめた。何だろう、この言葉の裏に隠された圧みたいなものは。


「シーラ、明るい未来を考える前に、今は目の前の問題を解くのを優先しないか?」


 俺はシーラの視線をそらしつつ、少しばかり正論っぽいことを言ってみる。まあ、問題を解くって言っても、俺自身そこまで大層な事を考えているわけじゃないけど。


「そうね。イチノス君の考えるとおりに、私は今回の件は受けるつもりよ。ただし、イチノス君も一緒に受けるのが条件かな?」


 来たな。条件ってやつは、大体こういう流れで出されるもんだ。


 シーラは笑顔だけれど、目は笑っていない。いや、ほんの少しだけ楽しそうな色も見え隠れしている気がする。

 要するに、俺が逃げ道を塞がれているのを面白がっているということか?


 まあ、シーラが考えていることは何となくだけど理解できる。シーラは一人で相談役を受けるのが不安なのか、それとも俺を巻き込みたいだけなのか。


 さて、どう返したものか。


「イチノス君の懸念はなに? これは正直に答えて」


 シーラの考えを掴もうとしていたのだが、逆に自身の考えを問われてしまった。


「俺の懸念か⋯ なあシーラ、今回の氷室や冷蔵倉庫建設の仕事、その仕事での相談役と言うのは、『魔導師の仕事』だと思うか?」


 俺がそう尋ねると、シーラは少し首をかしげて考える素振りを見せた。


「魔導師の仕事? う~ん⋯」


 まあ、即答できないのも無理はない。氷室や冷蔵倉庫の建設に関わる相談役が、本当に魔導師の仕事かと問われれば、簡単には答えが出せない話だからだ。


「以前にシーラに話したよな? 俺が最初に西方再開発事業の話を聞いたのは、冒険者ギルドのギルマスからだった話」


「それって、ストークス家のベンジャミン殿?」


「そうだな。ギルマスであるベンジャミン殿から、西方再開発事業絡みで冒険者ギルドの仕事を手伝って欲しいと言われたが、断ったんだよ」


 あの時のベンジャミンの表情は今でも覚えている。


「そしてその時に俺は、『魔導師としての仕事ならば、可能な範囲であれば喜んで引き受ける』と伝えたんだよ」


「それ、聞いてるかも? 確か、ギルドの部外者であるイチノス君の扱いに問題があるって言ってたよね?」


「ククク、そうだな。何処か俺のことをギルドの職員と同等に見ていた感じがあったな(笑」


「ともかく、それがイチノス君の拘りだし、西方再開発事業の相談役に採用された背景だったんだよね」


 シーラは納得したようにうなずいてくれた。


「それでイチノス君の具体的な懸念は何なの? それはさっき言ってた『魔導師としての仕事』に掛かってるの?」


 シーラが俺の顔を覗き込むように聞いてくる。


「例えばだけど、議事録の作成とかは商工会ギルドのメリッサさんか、商工会ギルド担当文官であるレオナさんの仕事だろ?」


「あぁ、そのことね⋯」


 何か納得したような声を出しながら、シーラは少し首を傾げた。


「シーラが頼まれたのは、メリッサさんからだったよな?」


「イチノス君はそこが気になったんだね。そうか⋯ もしかしてイチノス君は私のことを心配をしてくれたの?(ニヘラ」


 急に浮かべた『ニヘラ』とした笑顔。


 シーラ、それはどういうつもりで見せてきた?

 いや、問い詰めるべきなのか?

 いやいや、そこに突っ込むほど俺も子供じゃない。


 いかんな。どうにも話が逸れて、俺の思考も逸れている気がする。なんとか話を引き戻そう。


「シーラ、落ち着いて聞いてくれるか。俺がシーラの行動に何かの意見をするのは筋違いだと理解している⋯」


 そう言いかけたところで、シーラがひょいと手を上げて俺を制した。


「イチノス君の心配には及ばないわよ。むしろ、あの議事録を作る時に最初に釘を刺したから」


「えっ?!」


 シーラは俺の反応を楽しむようにニコッと笑っていた。


「正確には商工会ギルドへ向かう馬車の中だったね。議事録作成の協力を依頼されたけど、断ったの」


「はい?!」


 俺の間抜けな返事を無視して、シーラはさらっと続けた。


「だって議事録の作成なんて、本来はレオナさんやカミラさんのような文官の仕事でしょ? それにあの会合は商工会ギルドの都合で開いた感じだったから、議事録の確認は参加者として仕方ないけど、議事録そのものの作成とか手直しは私の仕事では無いはずだと断ったの」


 そうか、シーラは既にそうした判断をしていたんだ。これなら大丈夫だな。俺があれこれ考える必要もなかった


 シーラの考えは俺と似ているし筋が通ってる。これなら氷室の建設や冷蔵倉庫の建設に関わる相談役とやらを受けたとしても問題ないだろう。


 でも、やっぱり気になるのはそこじゃない。

 何で『相談役』なんだろう?

 それにしても、何で『相談役』なんだろう?


 そう思ったのと同時に、シーラが呟いた。


「それにしても、何で『相談役』なんだろう?」


「⋯⋯何でだろうな?」


 そう返した直後、ふとある言葉が頭をよぎって口にしてしまった


「株式会社⋯」


「なるほどね。ありえそうな話ね」


 俺の言葉を聞いて、シーラは納得したように頷いた。どうやらシーラも同じことを考えたようだ。


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