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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月10日(金)

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29-16「魔石シンジケートの影」


「そうした氷室を始めとして、冷蔵倉庫をサカキシルに建てたとして、それらを継続するにはどれだけ魔石が必要になるのか⋯」


 レオナさんが呟いたその言葉に、思わず俺は耳を傾けた。口調からして、あまり自信がないように思える。何か不安があるのだろうか?

 それとも、俺に答えを求めているのか?


 シーラもその言葉に反応したようで、視線をレオナさんから俺に移してきた。何か、察しがついたのだろうか?

 俺は少しだけ口を開けて言った。


「わかりました。サカキシルで氷室を建てる計画について、幾つか問題が出ていることは理解しました」


「「うん、うん」」


 俺がそう言うと、レオナさんとメリッサさんは小さく頷いた。


「それで、手紙に記されていた私たち二人への相談事とは何ですか?」


 言葉を切った後、二人の顔を見た。黙っている二人。言葉を選んでいるようだ。シーラはどこか期待に満ちた顔で、二人の反応を待っているように思える。


 しばらくの沈黙が続いた。

 その沈黙を破ったのは、やっぱりメリッサさんだった。


「イチノスさん、シーラさん、西方再開発事業の相談役の仕事をしながらとなりますが、サカキシルでの氷室建設や冷蔵倉庫建設についても、相談役として手を貸していただくことは可能でしょうか?」


 その言葉に、俺は少し考え込んだ。

 まず、ハッキリしたのは、メリッサさんとレオナさんが氷室建設や冷蔵倉庫建設を、西方再開発事業とは切り離して考えていることだ。


 西方再開発事業での相談事は、今だに冒険者ギルドが検討中で、まだ具体的な話が届いていない。そんな状況で、この話を受けるような答えを口にしても良いのだろうか?


〉イチノスは、最近、海の魚の干物を食べたか?

〉王都で食べたのか? リアルデイルに来てからはどうだ?

〉俺は直しに行くと聞いたぞ?

〉イチノス、明日は頼むぞ


 それでも、ジェイク叔父さんの言葉が頭をよぎると、自然とこの依頼を受けるべきだという気持ちが、心の奥底から湧き上がってくる。


「現状、西方再開発事業における案件、お二人への相談事は、冒険者ギルドで取りまとめをしていると聞いております」


「この氷室建設と冷蔵倉庫の建設についても、魔導師としてのお二人のお力をお借りしたいのです」


 メリッサさんが、そしてレオナさんが言葉を続ける。

 二人の声からは、ただの依頼のように思えないものが感じ取れた。どこか本当に困っている様子が滲み出ている。彼女たちがどれほど悩んでいるのか、その苦しさが伝わってきた。


 俺は応接に座り直し、二人に告げた。


「商工会ギルドとしての意向と、レオナさんのお気持ちは理解できました。ですが、今ここでお答えするのは避けさせてください」


 その後、隣に座ったシーラへ軽く目をやる。案の定、シーラの反応は予想通りだった。


「そうですね。ここで即答できるお話ではありませんね」


 今回の話は、西方再開発事業での相談役の仕事よりも、ずっと具体的な話だ。

 出来ないことはないかもしれない。だが、やはり、シーラとじっくり話し合うことが何よりも大切だと感じる。お互いに意見を擦り合わせて、慎重に進めるべきだろう。

 そう思っていた矢先、シーラが言葉を続けた。


「メリッサさん、レオナさん、少し変な質問をしても良いですか?」


「はい?」

「何でしょうか?」


 シーラの問いに、二人は素直に答える。


「先ほど『魔石』の件を話されていましたよね?」


「えぇ、氷室や冷蔵倉庫で使うであろう魔石の話を⋯」


 メリッサさんの言葉を聞くやいなや、シーラが続ける。


「亡くなった父から聞いた話ですが、『魔石シンジケート』という組織が暗躍していると聞いたことがあります。もしかして、そこから接触があったのでしょうか?」


「「!!!」」


 その言葉に、俺の心が跳ね上がった。


 魔石シンジケート?


 そんな話しは、初めて聞いたぞ。一体何のことだ?


 改めて、メリッサさんとレオナさんへ目をやると、俺にも負けないほどの驚きが二人の顔に浮かんでいる。


「シ、シーラさんは、『魔石シンジケート』をご存知なんですか?!」


 二人の投げ掛けにシーラは静かに頷いた。


「はい。サルタンで店を構えていた頃に、そうした組織があると亡くなった父から聞かされました」


 その言葉を聞いて、俺の中に湧き上がるのは疑問ばかりだった。

 しかし、どうしても気になるのは、メリッサさんとレオナさんがシーラの口にした『魔石シンジケート』について何かしらの知識があるらしいことだ。


 どうするべきだろうか?

 ここで俺だけが知らない『魔石シンジケート』について掘り下げるのが正解なのか?


 だが、もしここで詳しく話を聞き出したとして、果たして俺の知識は追いつくのだろうか?


 いや、ちょっと待て。

 メリッサさんとレオナさんはこの話にどう絡んでくる?


 うん、外したほうがいいだろう。

 二人が絡むと、それぞれの立場からの意見が混ざり、結局は混乱を招く気がする。

 なら、まずはシーラから『魔石シンジケート』についての情報を引き出すべきだ。


「シーラ魔導師、その付近は氷室建設や冷蔵倉庫の件も含めて、二人で話せないか?」


 俺がそう言うと、シーラはすぐに頷いた。


「そうね。イチノス魔導師の言うとおりね。ここで無闇に話しても、懸念が増えるだけね。そうだ、メリッサさん、下の商談室はお借りできますよね?」


「はい、下でナタリアさんかナログさんに問い合わせていただければ⋯」


 シーラの問い掛けに、メリッサさんは即座に答えた。


「では、サカキシルでの氷室建設や冷蔵倉庫建設に関する相談役を受けるか否かについては、後日の回答とさせてください」


 俺はメリッサさんとレオナさんを見詰めて、念を押すように告げた。


「そ、そうですね。「どうかよろしくお願いします」」


 俺の言葉に、二人は少し戸惑ったように見えたけど、結局は頷いた。

 こういう場面で即答を避けるのは悪い判断じゃないはずだ。


「イチノス魔導師の回復魔法のように、心を和ませる良い返事ができるかどうかはわかりませんが、数日お待ちいただければと思います」


 シーラが微笑みながら、軽く添えてくる。


 いや、シーラ、その例えはどうなんだ。

 回復魔法のように心を和ませる良い返事って、どういうことだ?

 むしろ、そこは普通に『良い返事を期待してお待ちください』とかでいいんじゃないか(笑


 まぁ、今さら言っても仕方ないけどな。



 その後、執拗に見送ろうとするメリッサさんとレオナさんの攻防をなんとかかわし、俺とシーラは二人だけで応接室を後にして1階のホールへ出た。


 途端に受付カウンターに座るナタリアさんの声が飛んでくる。


「イチノスさんにシーラさん、打ち合わせが終わったんですか?」


「えぇ、ひとまずは終わりですね」

「今って商談室は空いてますか?」


 シーラがそう尋ねると、ナタリアさんは少し考える素振りを見せた後、笑顔で答えた。


「えぇ、誰も使っていませんから大丈夫ですよ」


「ちょっとお借りしますね」


 そう言いながら商談室へ向かおうとした時、ふと壁の時計が目に入った。


 4時過ぎか⋯

 店へ戻るのが遅くなる気がするな。


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