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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月10日(金)

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29-7「ナタリアさんの誤解と氷室建設の違和感」


 俺とシーラは特設掲示板の前を離れ、掲示板裏手の商談室へと足を踏み入れた。


 商工会ギルドの造りは、冒険者ギルドと似通っている。掲示板裏にひっそりと設えられたその商談室は、四人も入れば息苦しくなるほど狭い。

 まるで余計なものを寄せつけまいとするような閉鎖的な空間だった。


 冒険者ギルドであれば、この部屋は掲示板裏の別室に位置する。


 そんな小部屋の扉を開けるなり、シーラが率先して部屋に入る。そして迷うことなく奥側の椅子に腰を下ろした。


 その様子には、先程、俺を追いかけて走ったことでの疲れがあるんだ、とでも言いたげな様子に思えた。


「シーラ、少し回復するか?」


「うん、お願い」


 俺はシーラの背後に回り、その無防備な背に左手を置いた。


 細くしなやかな背中から伝わる微かな湿り気。指先に感じるその熱が、今のシーラの体調を物語っているようだ。


 胸元の『エルフの魔石』から魔素を取り出し、静かに回復の魔法を施していく。軽く、無理のない程度に、ただ流れるように回復魔法を施すと、シーラが声を漏らした。


「あぁ~、しみるぅ~」


「ククク、なんか親父くさいな(笑」


「そう? イチノス君のは気持ちいいんだよ」


 そんなシーラの言葉に、思わず口元が緩みそうになる。なぜか妙に懐かしい。そういえば、以前にもこんなやり取りを交わしたことがあったな。


 ん?


 ふと、開け放った扉に人影が見えた気がして、俺は回復魔法を止めた。


「シーラ、ここまでだ」


「うん、ありがとう。だいぶ楽になったわ」


 そう答えたシーラは、衣服の乱れを直すように整え、椅子に座り直し、開け放った扉に向かって声を掛けた。


「誰? ナタリアさん?」


 なんだ、シーラも人がいるのに気付いていたんだな。


 そう思っていると、開け放った扉の向こうから耳まで紅く染めたナタリアさんが姿を表した。


「ぎ、議事録をお持ちしました。お、終わったら教えてください」


 そう告げて数枚の書類を机に置いたナタリアさんは、それ以上は何も言葉を発せずに急ぎ足で商談室を出ていってしまった。


 これは、絶対に何かの勘違いをさせた気がした。



 ナタリアさんの持ってきた議事録は、シーラが先に目を通している。


 一方の俺はシーラの右側に座り、メリッサさんからの『2/2』の伝令と、特設掲示板に貼り出されたウィリアム叔父さんの公表資料の件を思い返していた。


「うん、問題ないわね。指摘した点も修正されてる」


 そう告げながらシーラが読み終えた議事録を俺の前に差し出したところで、それとなくその言葉の背景を聞いた。


「シーラはもう議事録を見てたのか?」


「うん。その議事録を作るのを手伝ったからね。イチノス君は逃げたけど(笑」


 おいおい、言葉に棘があるぞ(笑


 確かに、この議事録の会合が開かれた後、俺は冒険者ギルドを脱出して風呂屋へ行って⋯


 風呂屋?


 そうだった。風呂屋で見習いたちと約束した件を話してから、あの場から風呂屋へ逃げたんだ。

 いや、逃げた訳じゃない。俺の出番が終わったから退場したんだ。


 一方のシーラは、メリッサさんからの要請で商工会ギルドに戻っていた。

 そうか。その時に、シーラはこの議事録の作成も手伝ったのだろう。


「じゃあ、俺が確認するまでも無いな。シーラが問題なしと判断したんだ(笑」


 そう答えながらも、俺は差し出された議事録へ目を通した。


 俺としては、あの会合での重要な点である、両ギルドからの魔石の調達について、キャンディスさんの言葉が記されていれば、それで良いのだ。


 そう思いながら目を通した結果⋯


〉要請があれば、従来通りの価格で魔石を供給し


 キャンディスさんが口にしていた、あの言葉がきちんと記されていた。


 これは議事録の作成に参加してくれたシーラの配慮⋯

 いや、シーラの考えからすれば、このリアルデイルで日々の生活や営みに魔石を必要とする人達への供給を第一に考えた結果が、この議事録に記されているのだろう。


「シーラ、この議事録作成を手伝ってくれたんだな。ありがとうな」


 俺は思わずシーラに礼を告げていた。


「どういたしまして。それじゃあ今日の本題ね。イチノス君は、もう一通の伝令も受け取ってるんだよね?」


 そう告げながら、シーラがコサッシュから商工会ギルドの印が入った封筒を取り出してきた。


 手早く封筒から中の手紙を取り出すと、その封筒と一緒に俺へ差し出してくる。


 差し出された封筒には、俺が受け取ったものと同じく『商工会ギルド担当レオナより相談役シーラ殿へ』と書かれ、その隣に『2/2』と記されていた。


 封筒の宛書きを確かめた俺は、手紙の文面にも目を通した。

 

「同じだな。俺が受け取ったのと同じで、宛先の部分だけがシーラの名前になっているな」


「やっぱりか。それでイチノス君は、この手紙の何が気になったの?」


 おいおい。もしかしてシーラは、この手紙を見て俺が何かの疑問を感じ、商工会ギルドへ来るだろうと予想したのか?


 まあ、確かにその通りなのだが⋯


「俺はこのレオナさんからの手紙を読んで、まずはシーラと打ち合わせが必要だと判断したんだ」


「うんうん」


「もう一通の議事録の確認もあるから、商工会ギルドで議事録を確認して、シーラに打ち合わせをしたいと伝令を出そうと思ったんだよ」


「なら、私と同じだね」


「シーラはこの手紙の何処に何を感じたんだ?」


「私? そうね。さっき確かめて思ったんだけど、サカキシルでの氷室建設の件は相談役の範疇なのかを確かめたくて、イチノス君に伝令を出そうと思ったかな⋯」


「シーラ。その事なんだが、領主別邸に寝泊まりしていた時に、サカキシルでの氷室建設の話は耳にしていたのか?」


「それなりに聞いてたけど、この手紙を読んで何か変な感じがしたの」


 具体的に『何が変なのか』をシーラは口にしないが、どうやらシーラもこのレオナさんからの手紙に何かを感じたようだ。


「イチノス君はどう思ったの?」


 これは、お互いに何を感じたかを話し合うことから始める方が良さそうだ。


「まず正直に言うが、サカキシルでの氷室建設の件はジェイク様から直接言われたんだよ」


「⋯⋯」


「それもあって、実は俺は思い込んでいたんだよ。サカキシルでの氷室建設は相談役としての仕事の一部だとね」


「あぁ、そういうことか。それであの時に返事をしないで、あんなことをしてたんだね(笑」


「あんなこと?」


「さっき、貼り出された公表資料を見ながら聞いたでしょ? イチノス君は何も答えずに、貼り出された資料や質問状を確かめるように見てたけど?(笑」


 ククク どうにもこうにも、シーラはそうしたところまで、俺を観察していたんだな。


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