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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月10日(金)
454/464

29-2「ロザンナが線を引く」


 ブツブツ⋯


 ロザンナと二人で朝の御茶を味わっていると、魔素を見る方法について問い掛けを受けた。


 その問い掛けは、『魔素を見えるようになりたい』というロザンナの抱える率直でいて迷いのない願いを、どうやって叶えるかの問い掛けにすら聞こえた。


 魔導師や魔道具師を志す者にとって、『魔素が見える』ことは、職能もしくは適性や資質とも呼べる必須の能力の一つだ。


 将来の職業として魔導師か魔道具師を考えているロザンナにしてみれば、その能力を得たいと考えるのは当然のことだろう。


 ブツブツ⋯


 だがロザンナの問い掛けは、昨日手に入れた教本や、祖母であるローズマリー先生、そしてサノスから聞き出した話などが、微妙に混ざっているのが気になる。


 俺としては、ロザンナの祖母であるローズマリー先生からの手紙に記されていた先生の考えと、俺自身の考えに基づいて、時間を掛けてロザンナに教えるのが最良だと考えている。


 だからこそ、問い掛けに即答することなく


〉急ぎすぎだ


 と慎重に言葉を選んで応えた。


 けれども、どうも俺の言葉ではロザンナの期待に応えきれていないようだ。


 ブツブツ⋯


 先ほどから、ロザンナが黙しながらも口ごもっているのが耳に届く。


 ロザンナはロザンナなりに、幾多のことを考えているのだろう。


 先生からの手紙に記されていた


〉また、ロザンナが魔素を見えるようになりたい理由につきましては、どうか本人の意思を尊重し、お問い掛けにならぬようお願い申し上げます。

〉仮にその理由をロザンナが口にしたとしても、どうか内密にしていただけますよう、重ねてお願い申し上げます。


 この事が壁となって、言葉を選んでいるのかもしれないな。


「イチノスさん」


 意を決した顔付きでロザンナが口を開いた。


「なんだ? 何が聞きたい?」


「イチノスさんは、魔導師になる前、私やセンパイぐらいの年齢の頃から、魔素が見えたんですか?」


 なるほど。そうした質問に変えてきたか。これには素直に答えるのが正解だよな。


「ロザンナ、冷静な気持ちで聞いて欲しい。俺の場合は、魔法学校へ入る前から既に魔素は見えていた」


「魔法学校へ入る前って⋯ それって何歳ぐらいですか?」


「5歳か6歳ぐらいだな」


「そ、そんなに子供の頃から魔素が見えてたんですか?!」


「母親であるフェリスの教えで、その年齢で魔素が見えるか、魔素をどのくらい扱えるかを調べたんだよ」


「見えるかどうか、扱えるかを調べる?」


 おいおい、そこに食い付くのか?

 いや、まあ、母親であるフェリスの名に食い付かないのは脇に置いておこう。

 そうしないとさらに話がややこしくなるからな。


 それに、むしろこれは良い流れだと考えよう。

 とにかく、今のロザンナは『魔素を見る』ことに拘りがあるから、丁度良いかもしれない。


「わかった。俺が教わった方法について教えよう」


「はい、お願いします」


 俺がロザンナの声を聴きながらマグカップのお茶を飲み干すと、慌てた感じでロザンナも自分のマグカップの中身を飲み干した。


「片付けて良いんですよね?」


 そう告げたロザンナは俺の返事を待たずに、それぞれのマグカップへ手を伸ばし、作業机の上の片付けを始めた。


 やはりロザンナは勘が良いな(笑


 俺からの教えを受けるために、ロザンナが急いで作業机の上を片付け始めたことが、俺にはすぐに分かった。


 朝の御茶の片付けをロザンナに任せて、俺は作業場の棚から魔法円を描くのに使う魔素インクとペン、それと魔法円の下書きに使う白紙を取り出す。


 そうした準備を済ませて、自分の席に座り、魔素インクが固まっていないか確かめていると、台所からエプロンで手を拭きながら、急いだ感じでロザンナが作業場へ戻ってきた。


「イチノスさん、私は何をすれば良いですか?」


「ロザンナには線を引いてもらう」


「線を引く? もしかして、この紙に線を引くんですか?」


 立ったままで早く教えろと、言わんばかりのロザンナを軽く手で制して、自分の席へ座らせた。


「まず、これが魔素インクだ」


「うんうん」


「そして、これが魔素インクを着けて『魔法円』を描くのに使うペンだな」


「センパイが使っていたのを見たことがあります」


「そうだな。この魔素インクをペンに着けて『魔法円』を描くんだ。まあ、今の二人は型紙と転写紙を使ってるが⋯」


 そこまで告げて俺は話を切り替えた。


「ロザンナもこの先は使うことになるぞ」


「へ?」


「今は魔素の通りを確認しているが、魔素の通りが悪いところがあれば、これを使って繋げることになるんだが、ロザンナはまだ経験が無いのか?」


「無いです」


 その返事から、ロザンナは自分の描いた『水出しの魔法円』で魔素が通っていない箇所に出くわしていないとわかった。


 あれだけじっくりと型紙を起こし、眉間に皺を寄せて魔素ペンを使っていたから、手掛けている魔法円の完成度が高いということなのだろう。


「じゃあ、ロザンナにはこのペンと魔素インクを使って、この紙に横線を1本引いてもらう」


 ロザンナは無言でペンを手に取ると、迷いもなく魔素インクにその先端を浸した。

 俺の目には、その動作が一瞬、緩やかな決意のように映る。


 直線的に紙を横切るその線が、まるで彼女の心の決断そのもののようだった。


「こんな感じで良いですか?」


 俺は少し息を呑んだ後、頷く。


「うん、良いぞ。続けてその下に同じ様に、更に3本の横線を引いてくれるか?」


 ロザンナは一瞬、驚いたように目を丸くした。


「えっ? 更に3本ですか?」


「そう。それぞれの線が触れないように、指1本か2本分ぐらいの間を空けて同じ長さで、全部で4本の線を引いてくれ⋯ そうだ、ロザンナ」


「はい?!」


「魔素ペンと同じ様に、少しだけ魔素を流しながら線を引くと、インクが早く乾くぞ」


 俺の言葉に少し戸惑いながらも、彼女はペンを握り直し、再び魔素インクをペン先にたっぷりと含ませる。


 ロザンナは何も言わずに頷き、魔素を意識的に流しながら次々と横線を引いていった。


 手元を見つめる彼女の表情は、どこか集中しているようで、どこか無防備だった。

 その動きが、俺には少し不安げにも見えたが、それがどうにも心地よく感じられる自分がいた。


 ロザンナが自分の引いた線を見て、納得の声を漏らす。


「この魔素インクを使う時には、魔素を流すと早く乾くんですね」


 彼女が作り出した線には、明らかに魔素が含まれていて、見る間に乾いていった。

 その魔素インクの乾いて行く速さは、まるで彼女が意識的にそれを操っているかのようだった。


 合計4本の横線を引き終えたロザンナは、ペンを置きながら、ぼそりと呟いた。


「面白いですね、こんなに早く乾くなんて、まるで魔法みたいです」


 まあ、後にペン先の手入れが手間になるが、そのことを俺は告げずにただ静かに頷いた。


◆ロザンナの引いた横線


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