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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月9日(木)

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28-10「夕暮れに響く鐘と師弟の絆」


 カーン カーン


 書き上げた手紙を宛先毎に封筒に納め、全てに封蝋を施し終えたところで、教会の鐘の音が耳に届いた。


 時計を見ると6時だ。


 書斎のカーテンを閉め、封筒の束を手に書斎の扉へ魔法鍵を施したら階下へ降りて行く。


 作業場へ足を踏み入れると、作業机の上の教本は片付けられ、サノスとロザンナが各々の『魔法円』に取り組んでいた。

 二人からは、教会の鐘に気付いた様子を感じない。


 俺は封筒の束を自分の席へ置き、二人に声をかけた。


「サノス、ロザンナ。教会の鐘が鳴ったぞ」


「あぁ⋯」

「もうですか?」


 二人がそう答え、ようやく集中を解いて一緒に伸びをすると、ガタガタと音を立てながら片付けを始めた。


 俺はそんな二人を作業場に残し、溜まった尿意を解消に向かった。

 台所で手を洗っていると、サノスとロザンナが交代で用を済ませに行く。


 作業場へ戻り、作業机に置いてあった封筒の束を外出用のカバンに入れようとしたところで、サノスが先に戻ってきた。


 俺は今日の日当を払っていないことを思い出し、サノスに声をかけた。


「サノス、日当を払うぞ」


「はい、ありがとうございます」


 すぐにサノスが売上を入れているカゴを渡してくれたので、俺は今日の日当をサノスに渡すと、礼を告げて大事そうに財布に納めた。


 するとサノスが本棚から1冊の本を取り出した。


「師匠、この本をお借りします」


 サノスが見せてきた本は、さっきサノスが読んでいた『魔素充填の基礎』だ。


「おう、持ち出すのは良いが、きちんと戻せよ」


「はい!」


「それと、俺の立ち会いなしで魔石への魔素充填は禁止だからな」


「はい、それも守ります。でも、これに書いてある魔素の扱いの練習は良いんですよね?」


 明るく答えるサノスの様子から、魔素充填のために魔素の扱いを練習しようとしていることが明らかにわかる。


「指先に濃度を変えてまとわせるまでだな。魔石に充填しようとしたら、そこで破門だからな(笑」


「わかりました~(笑」


 まあ、魔素充填を試みなければ『魔力切れ』にまでは至らないだろう。


「イチノスさん、私もこの本を借りて良いですか?」


 作業場へ入って来たロザンナが、サノスに続いて本棚から取り出して来たのは、やはり先程まで読んでいた『魔素を見るために』だ。


「ロザンナ、貸し出すのは良いが、試す時には必ず先生の立ち会いが必要だぞ」


「はい」


「それと、日給月給の件はサノスの返事を待ってからだから、ロザンナにも日当を払うからな」


「ありがとうございます」


 礼を述べてロザンナが日当を受け取り、財布にしまおうとしたところで、俺は封筒の束からイルデパンとローズマリー先生宛の手紙を納めた封筒をロザンナの前に置いた。


「それと、こっちが先生宛で、こっちがイルデパン宛の手紙だ。渡してくれるか?」


「えっ?」


 いくぶん緊張を見せたロザンナに、手紙の内容を軽く伝えていく。


「先生には、日給月給を了承してくれたお礼と、魔素を見る件のお返事だな。イルデパンには、俺からのお願いだから、ロザンナは安心して渡してくれるか?」


「わかりました」


 そう答えたロザンナは、緊張が解けた顔を見せてくれた。


 二人が手にした教本をカバンに納めて斜め掛けにすると、揃って帰宅の挨拶をしてきた。


「じゃあ、師匠、お先に失礼します」

「イチノスさん、お先に失礼します」


「いや、二人とも待ってくれるか?」


「「はい?」」


「明日は、ロザンナが最初に店へ来るんだよな?」


「はい、その予定ですけど⋯」


「店の鍵を開けるのに魔石が必要だろ?」


「???」

「あっ! そうか!」


 気が付いたサノスが割り込んできた。

 一方のロザンナも気が付いたのか困った顔で口を開いた。


「けど、イチノスさん、それって⋯」


「従業員用として貸し出してる魔石、あれを持って帰って良いからな」


「えっ?! 良いんですか? ありがとうございます」


 嬉しそうな声でロザンナが頭を下げると、自分に割り当てられた棚から急いで箱を取り出し、赤い毛糸の付いた魔石袋を取り出すと身に付けた。


「暫くは身に付けていて良いぞ。その件も先生への手紙に書いてあるからな」


「はい、ありがとうございます」


 嬉しそうな声を出して、胸元の魔石を確認しながら再びロザンナが頭を下げてきた。


 ロザンナに魔石を持たせたところで、サノスが問いかけてきた。


「そういえば、師匠はギルドへ行くんですか?」


「そうだな。皆で一緒に出よう」


 サノスの問いに答え、俺たちは揃って店を出ることにしたのだが──


「あっ!」

「!!!」


 3人で揃って店舗へ向かうと、先に店を出ようとしたサノスとロザンナが二人揃って立ち止まり、気まずそうな顔で振り返った。

 店舗には相変わらず、蓋の開いた木箱と、まだ開けられていない木箱が置かれていた。


「イチノスさん、残りの教本⋯」

「師匠、明日でもいいですよね?」


「そうだな、明日は店が休みだから、明日中に片付けたいな。頼めるか?」


「「はい、明日中に終わらせます」」


「じゃあすまんが、窓のブラインドは閉めといてくれるか?」


「「はい」」


 そう答えた二人は、揃って店の窓のブラインドを閉め始めた。


 カランコロン


 閉店の札を掲げた扉から、三人で店を出ると、サノス立ち会いで練習を兼ねてロザンナが魔法鍵を掛ける。


 その様子を眺めていると、向かいの交番所から声が聞こえてきた。

 交番所へ目を向けると、女性街兵士二人と男性街兵士二人が互いに王国式の敬礼を交わしている。


 どうやら交代の時間とぶつかったらしい。


 交代を終えた中肉中背の女性街兵士が、俺たちに気づいたのか、小走りに近づいてきた。


「ロザンナ、今日はお姉さんに送ってもらいなさい」


「えっ? はい、そうします。じゃあ、お先に失礼します」


 ロザンナが微笑みながら返事をして頭を下げると、サノスに軽く手を振り、女性街兵士の元へ向かった。


 俺とサノスは感謝の気持ちを込めて、女性街兵士に軽く敬礼し、冒険者ギルドへ足を向けた。


 既に陽は傾き、日中の喧騒が少しずつ落ち着きを見せ始めている。

 夕暮れの柔らかな光が、石畳の道や家々を温かく照らし、実に心地好い。


 ここまで日が暮れると、すぐに日没だろう。

 これでは、ギルドで手紙の発送を願っても、実際に届けるのは明日になるかもしれない。


 まあ、どの手紙も返事を急ぐものではないし、どの手紙も俺からのお願いだから、相手に時間を作ってもらうことになる。

 むしろこの先、皆から返事をもらえるか否か、それが課題になりそうな気がする。


「師匠」


 ん?


 そんなことを考えていると、前を歩いていたサノスが振り返って聞いてきた。


「今日は久しぶりに一日店にいましたね」


「ああ、そうだな久しぶりに店にいたな」


「こういう時に限って、お客さんも来ないし、面会を求める人も来ないんですよね(笑」


「ククク、言われてみれば、そうだな(笑」


 そんな他愛ない話をしながら、カバン屋の前で右に曲がると、歩道へ張り出したテントを世話しなく片付ける店々が見えてきた。


 店仕舞の邪魔にならないように歩きながら、元魔道具屋で今は交番所となった建物の前で街兵士と軽い敬礼を交わす。


「師匠、ここで失礼します」


 軽い敬礼を解いたサノスが急に告げてきた。

 サノスはそれだけ言い残すと大衆食堂の方へ向かって走り出す。

 そんなサノスの背を眺めながら、俺は冒険者ギルドへ向かった。


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