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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月9日(木)

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28-7「リュウジンの教官と街兵士」


 俺はシーラへの手紙で大いに悩んだ。


 俺がシーラへ問い掛けたいのは、魔法学校時代のリザードマンと今でも交流があるかどうかということだ。


 今でも交流があるのならば、シーラに紹介を願い、紹介されたリザードマンから『リザードマンの魔石』の話や『リザードマンの勇者』の話を聞き出す。


 そうした主旨の手紙をシーラ宛てに書こうとしたのだが、俺は強い迷いを覚えた。


 その迷いを振り払うため、思い切って店の向かいにある交番所に立つ二人の女性街兵士の元へ向かうことにした。


 街兵士に就くには、騎士学校を卒業する必要がある。


 俺やシーラが魔法学校に在学していた頃、リザードマンが魔法学校に在学していたように、騎士学校にもリザードマンが在学していた可能性を俺は感じたのだ。


 店の向かいの交番所に立つ女性街兵士達ならば、リザードマンが騎士学校に在学していたか、そのリザードマンと今でも交流があるか、そうしたことを気さくに聞き出せる気がしたのだ。


 もし、リザードマンが騎士学校に在学していたのならば、騎士学校を卒業した彼女たちがリザードマンと何らかの繋がりを持っているかもしれない。


 その期待が俺を行動に駆り立てたのだ。


 女性街兵士への問い掛けを考えながら階下に降り、用を済ませて手を洗って作業場へ行くと、『魔法円』を前にしたサノスとロザンナの視線が俺に集まった。


「師匠、お出掛けですか?」


「いや、ちょっと向かいの交番所へ顔を出してくる」


「「??」」


 互いに顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべる二人を放置して、俺は店の向かいの交番所へ行くため作業場を抜け店舗へ出た。


 カランコロン


「「いってらっしゃ~い」」


 二人の見送る声を背に、俺は真っ直ぐに向かいの交番所へ足を進めた。


 ◆


「イチノスさん、こんにちは」


 俺の王国式の敬礼に、昨日も会話を交わした小柄でふくよかな感じの女性街兵士が敬礼で応える。


「こんにちは。いつもありがとうございます」


「いえいえ、これも職務ですから。イチノスさんはこれからお出掛けですか?」


「いえ、今日は少し教えて欲しいことがあって来ました」


「教えて欲しいこと?」


「はい。実は騎士学校でのことを教えて欲しいんです」


「騎士学校ですか?」


「街兵士に就くには、騎士学校を卒業する必要があるんですよね?」


「えぇ、そうです」


「その騎士学校で、カミラさんやレオナさんのような獣人の方と知り合ったんですよね?」


「えぇ、そうですね」


「その騎士学校に、『リザードマン』の方っていらっしゃいました?」


 俺は隠すことなく、真っ直ぐに問い掛けた。


 すると答えに迷ったのか、小柄でふくよかな女性街兵士が交番所の奥へ向かって目線を向けた。


 途端に俺の姿に気が付いたのか、交番所の奥から中肉中背な女性街兵士が小走りに出てきた。


「こんにちは、イチノスさん。何かありました?」


「こんにちは。実は騎士学校に『リザードマン種族』の方がいたかが、どうしても気になったんです」


「『リザードマン』ですか?」

「うーん⋯」


 二人が互いに顔を見合わせ、いくぶん悩んだ後に、中肉中背な女性街兵士から予想外の返事が返ってきた。


「イチノスさん、今の騎士学校では『リザードマン』と呼ばないのをご存じですか?」


「えっ?!」


「実は私達の在学中に、『リザードマン=リュウジン』の方が教官になったんです」

「うんうん」


「『リュウジン』の教官ですか?」


「えぇ、みんなは『リザードマンだよな?』と言ってたんですが、その教官が言うには、『王国ではリュウジンが適切である。リュウジンもしくはドラゴニュートでも良いぞ』と言われて、微妙に呼び方で苦労したんです」


 リザードマン=リュウジン

 リザードマン=ドラゴニュート


 確かに、この呼び方を統一するのは迷うな。

 それにしても、今は『リザードマン』とは呼ばないんだな。

 俺はこの話を初めて聞いた気がする。


「その『リュウジン』の教官の方は、今でも騎士学校で教鞭を執られているのでしょうか?」


「どうでしょう? 新卒に聞いてみます?」


「そうだ! アイザックなら、知ってるかも?」


 小柄でふくよかな女性街兵士が思わぬ名前を出してきた。


「あぁ、そうだね。アイザックはこの春の新卒だから知ってるかもね」


「アイザック⋯ ですか?」


「イチノスさんなら、アイザックに聞けますよね?」


 確かに領主別邸でフェリスの騎士に就いたアイザックは、この春に騎士学校を卒業したばかりだ。


 二人の言う『リュウジン』の教官が、今でも騎士学校で教鞭を執っているかは知っているだろう。


「アイザックの他だと⋯ 今年の春に入ってきた新卒新入が知っていると思いますけど、聞いてみます?」


 これは、意図せずに話が広がっている気がした。

 見知らぬ新卒新入の街兵士を紹介されるよりは、アイザックの方が良いのは明らかだ。


 それに結局は、その『リュウジン』の教官を紹介してもらえるかどうかだ。

 それならば、アイザックが『リュウジン』の教官と繋がりが無いとわかってから、新卒新入の街兵士を紹介してもらおう。


「わかりました。職務中に失礼しました。まずはアイザックに聞いてみます。おかげで誰へ問い掛ければ良いかがわかりました」


 俺は二人に礼を告げて話を断ち切り、王国式の敬礼を交わして店へ戻った。


 カランコロン


「「いらっしゃいませ~」」


 サノスとロザンナの条件反射な声に迎えられて店へ入ると、作業場からサノスが顔を出してきた。


「あぁ、師匠だったんですね(笑」


「作業中にすまんな」


「師匠、ちょうど良かったです。お茶にしませんか?」


 サノスに続いて作業場へ入り、時計へ目をやれば、3時になろうとしている。


 これでは、今日中に全ての手紙を書き上げ、夕刻にギルドで手紙を出すのは難しい気がしてきた。


 少し気持ちを落ち着けるためにも、サノスの言うとおりに御茶で気分転換をしよう。


「そうだな。御茶にしよう」


「イチノスさんは、御茶で良いですか?」


 店を出る前に、作業机の上に置かれていた『魔法円』は既に片付けられ、ロザンナが『水出しの魔法円』にティーポットを乗せながら聞いてきた。


「それとも師匠は、あのシャカシャカする東国の御茶にします?」


「おう、そうだな。ロザンナ、すまんが、お湯だけ沸かして置いてくれるか?」


「はい、わかりました」


 ロザンナの答える声を聞きながら、サノスの言葉で思い出した東国の抹茶を点てようと、俺は2階の寝室へ向かった。


 東国使節団のダンジョウさんから贈られた茶道具を納めた箱を手にして、先程の件を考える。


 やはり今の俺は、『リザードマン=リュウジン』についての知識が無さすぎる。


 やはり交流が無いと、彼等が望む呼び方の話まで耳にすることは難しいのだろうか⋯


「ししょ~」


 階下から俺を呼ぶサノスの声で、陥りそうになった思考から引き戻された。


 ロザンナに頼んだお湯が沸いたのだろう。


 俺は茶道具を手に階段を降りて行くと、なぜかサノスが待ち構えていた。


「サノス、どうした? お湯が沸いたのか?」


「あの、黒いのを食べても良いですか?」


 黒いの?

 サノスが何を言わんとしているかが理解できない。


「あの、甘くて美味しいやつです」


 あぁ、サノスが言わんとしてるのは『羊羹ようかん』のことだろう。


「良いぞ、他のも残ってるだろ?」


「いえ、他は美味しくいただきました。まだ黒いのは残ってます」


 おいおい。

 あの『どら焼き』も『カステラ』も食べきったのか?!


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