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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月9日(木)

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28-2「手紙の中の未来」


「さあ、そろそろ店を開けて作業を始めるか。考え込むより、手を動かして頭をすっきりさせた方が良い時もあるからな」


 そう告げて、マグカップに残っていた御茶を飲み干すと、ロザンナが手を上げてきた。


「イチノスさん、手紙を預かって来たんです」


「手紙?」


「はい、祖母からイチノスさんに渡すように言われました」


 そう言いながらロザンナは、椅子に掛けていた自分のカバンから白い封筒を取り出してきた。


 ローズマリー先生から手紙?

 何だろうと思いながら白い封筒を受け取るが、なぜかロザンナの顔はかなりの笑顔で⋯


 ん? 何でサノスまで笑顔なんだ?


 受け取った白い封筒をよく見ると、裏面に先生のサインが見て取れた。


 改めて二人の顔を確かめると、ロザンナもサノスも嬉しそうな顔をしている。


「ロザンナ、これは直ぐに読んだ方が良いのか?」


 そう告げて、ロザンナが気付くようにサノスへ目線をやる。


「はい、センパイがいても大丈夫です」

「うんうん」


「わかった」


 白い封筒を開け、中の便箋を取り出して開くと、こんなことが書いてあった。


拝啓

 イチノス様


 初夏の候、イチノス様におかれましては、ますますご繁栄のこととお喜び申し上げます。


 突然のご連絡をお許しください。

 私、ロザンナの祖母のローズマリーと申します。


 魔法学校ではイチノス様と共に学び、あの頃から変わらぬお人柄に感銘を受けておりました。

 現在、イチノス様がご学友であるシーラ様と共に西方再開発事業の相談役に就任され、ご活躍されていることを、心から嬉しく思っております。


 現在、イチノス様のもとでロザンナがお世話になっていること、心から感謝申し上げます。

 ロザンナがイチノス様のもとで日々成長できているのも、イチノス様をはじめ、職場の皆様の温かいご指導とご配慮のおかげだと感じております。


 さて、そのロザンナから給与の支払方法を日給月給に変更する件について伺いました。

 こちらについては、私としては了承させていただきます。

 ロザンナが新しい形でさらに充実した環境で働けることを心より願っております。


 さらに、ロザンナから魔素を見れるようにしていただける件についてもお話を伺いました。

 私としても、ロザンナがその能力を得ることでさらに成長できると信じております。


 実は、ロザンナからの強い願いにより、その技術を教え始めてしまいました。

 その結果、わずかではありますが、ロザンナは魔素がうっすらと見え始めているようです。


 この件につきましては、今後も私が教えていくことが適切であると感じております。イチノス様にはご理解を賜り、職務中にロザンナが自身で処置を施さぬよう、ご配慮いただけますようお願い申し上げます。


 また、ロザンナが魔素を見えるようになりたい理由につきましては、どうか本人の意思を尊重し、お問い掛けにならぬようお願い申し上げます。

 仮にその理由をロザンナが口にしたとしても、どうか内密にしていただけますよう、重ねてお願い申し上げます。


 これからもロザンナがさらに成長できるよう、引き続きご指導いただければ幸いです。

 至らぬ点がございましたら、どうぞご遠慮なくお知らせくださいませ。


 初夏の穏やかな季節が続いておりますが、イチノス様をはじめ、貴店の皆様のご健康を心よりお祈り申し上げます。


 どうかご自愛くださいませ。


 敬具


 王国歴622年6月8日

 ローズマリー


 手紙を読み終え、再びロザンナとサノスに目をやると、二人は喜びに満ちた表情を浮かべている。

 先ほどまで話していた魔石転売の話は、すっかり忘れてしまったかのようだ。

 その様子から、ロザンナはこの手紙の内容を既に知っているように思える。


「ロザンナは、この先生からの手紙の内容を知ってるのか?」


「はい、今朝、祖母から読んで聞かされました」

「うんうん」


 ロザンナの答えに、隣に座るサノスまで頷いている。

 二人が知っているのなら、ここで話題にしても問題ないのだろう。


「ロザンナ、サノスの前で先生の手紙の内容を話しても構わないのか?」


「問題ありません」

「うんうん」


「じゃあ、ロザンナに改めて聞くが、今は魔素が見えるのか?」


「はい、以前よりも見えていると思います」


「そうか。この手紙に少し気になることが書かれているんだが、聞いても良いか?」


「はい、何でしょう?」


「先生から魔素を見るための方法、施術というか、やり方を教わったのか?」


「ああ、それは自分ではできません」


「そうか。その点についても先生から教えてもらったんだな?」


「はい、『自分でやるな』とも教えてくれました」


「師匠、教えてください!」


 急にサノスが手を上げて聞いてきた。


「どうした、急に?」


「もしかして、魔素を見えるようにするのって、回復魔法とか治療魔法なんですか?」


 なかなかサノスの指摘は鋭いな。


「結論から言えば、回復魔法であり、治療魔法の一種だな。サノスとロザンナは、身体強化の魔法は知ってるよな?」


「聞いたことがあります」

「師匠、それって、父さんみたいな冒険者が使ったりしてるやつですよね?」


「そうだな。それを目に施すことで、魔素を見るきっかけを与えるんだよ」


「へぇ~」

「じゃあ、回復魔法を覚えて自分でやれば、もっと見えるようになるんですか?」


 サノスは感嘆の声を上げ、それを追って今度はロザンナが問い掛けてきた。


「いや、回復魔法だけじゃ無理だな。さっきも言ったが、治療魔法に身体強化を加えて初めてできることなんだよ」


「治療魔法に⋯」

「身体強化⋯」


 そう二人は呟いて少し残念そうな顔を見合わせた。


 これは、今の二人が覚えようとしている回復魔法で何かを考えている気がしてきたぞ。


「この際だから二人に忠告しておくから、心して聞いて欲しい」


「はい?」

「忠告⋯ ですか?」


「回復魔法を覚えて、自分で何とかしようとするなよ」


「「!!」」


 サノスとロザンナが身を固くしたのがハッキリとわかった。どうやら二人には図星だったようだ。


「ロザンナは、先生から聞いてると思うが、やたらと回復魔法を掛け続けても魔素を見れるようにはならないんだよ」


「「⋯⋯」」


「サノスが最初に『魔法円』を描いた時には魔素が見えない状態で描いたんだよな?」


「えぇ、最初のはボンヤリとしか見えない状態で描きました」


「次のはどうだった?」


「次のは⋯ 集中すれば少し見えていたと思います」


「3枚目はどうだった?」


「3枚目も同じ様な感じだった気がします」


「そうか? 1枚目や2枚目、それに3枚目で段々と魔素が見えるようにならなかったか?」


「あっ!」

「イチノスさん、それって⋯」


 何かを言い出しそうな二人を手で制して俺は話を続けていく。


「ロザンナ、魔素が見え始めたなら、サノスと同じ方法で『魔法円』を描くことを重ねて行けば段々と見えるようになるんだよ」


「「⋯⋯」」


「指先で魔素を流して、それを自分の指先で受け止めて、魔素の通りをコツコツと確かめるのを続けていると、不思議なことに『魔法円』に流れる魔素が段々と見えて来るんだよ」


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