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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月8日(水)

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27-12「勇者の魔石への試練」


「それとね、『勇者の魔石』を作れたとして、それが本当に『勇者の魔石』だと、イチノスはどうやって証明するの?」


「!!」


 これは考えていなかった!


「確かに、勇者の体内魔素を『魔鉱石まこうせき』に施せば『勇者の魔石』と言える考えは頷けるわよ」


「⋯⋯」


「けどね、さっきも言ったけど、勇者の血筋を引く者の体内魔素を使っても『勇者の魔石』は作れるんじゃないの? イチノスは血筋と体内魔素の関わりは学んでいないの?」


「⋯⋯」


「エルフである私達の体内魔素を使って『エルフの魔石』が作れるなら、『勇者の魔石』も同じだと考えられないの?」


 はい、フェリスの言うとおりです。俺の『勇者の魔石』作りに臨む考えが稚拙で拙速すぎました。


 ◆


 フェリスから『勇者の魔石』作りに関する俺の考え方や方法について、痛烈な指摘を受けてしまった。


 俺へ指摘を与えたフェリスは、無言であの黒っぽい石を片手に、コンラッドの置いていった古代遺跡の内部図が描かれた資料へ目を通している。


 熟々(つくづく)自分の考えが浅はかだったと強く感じる。


 生存している勇者を見つけ出し、その勇者の体内魔素を『魔鉱石まこうせき』に施して『勇者の魔石』を作ったとしても、それが真に『勇者の魔石』であると確認したり証明する方法についてまで、俺はまったく考えていなかった。


 ・誰もが勇者と認める人物がいた。

 ・その人物の体内魔素を『魔鉱石まこうせき』に施した。

 ・だから、これは『勇者の魔石』です。


 そんな論法で俺は『勇者の魔石』作りを考えていた。

 この短絡的な思考その物が間違っていたのだ。


 『勇者の魔石』であることを確実に証明する方法まで、俺は整えるべきだったのだ。


 それに、俺は勇者の血筋についても視点を向けていなかった。

 人間種族で言えば、『最初の勇者』がこの国を建国して国王に着いたのならば、その血を引き継ぐ王族の体内魔素でも、『勇者の魔石』は作れるのだ。


 『エルフの魔石』をエルフの血族である俺が作れるように、『勇者の魔石』も勇者の血を引き継ぐ者の体内魔素を『魔鉱石まこうせき』へ施せば作れるのだ。


「イチノスの心はここにあらず」


 反省の思考に頭の先まで浸かっていると、俺の名を呼ぶフェリスの声が聞こえた。


「ごめん、ちょっと考えてた⋯」


「イチノスは『魔鉱石まこうせき』への魔素充填に興味があるの?」


「??」


「さっきエルミアと話してて、『魔鉱石まこうせき』への魔素充填で面白い顔をしてたわよね?」


「そ、それは魔素充填で、フェリスさんが手に負えないとか言ってただろ?」


「それだけ?」


「それに今の王国内では『魔鉱石まこうせき』への魔素充填は禁じられてるだろ?」


「それは今の話だし、正教会から魔素充填を依頼されたのは、その王令おうれいが出る以前よ。それにエルフの里は王国内じゃあ無いでしょ?」


「⋯⋯」


「はぁ⋯ その件も含めて古代遺跡から瓦礫を持ち帰った懲罰ちょうばつを考えた方が良さそうね(ニヤリ」


 どうしてそこで『ニヤリ』なんですか?

 フェリスさん『懲罰ちょうばつ』に絡めた『ニヤリ』は危険だと思いますよ。


 いや、待てよ。

 結局は瓦礫を持ち帰ったことで、フェリスは俺を罰するんだろ?

 それならば思いきって、黒っぽい石をもっと欲しい話もしてしまおう。


「実は、その黒っぽい石を、もっと欲しいんだ。あの妙な感覚の原因を調べたいんだよ。それで、次の古代遺跡の調査隊に、瓦礫を持ち帰る依頼を出すつもりだが、認めて欲しいんだ。そのための費用も、出すつもりだよ」


「イチノスはそこまで考えてるの? そんなにこれに興味があるの?」


 そう答えた母が手にした黒っぽい石を机の上に置いてきた。


「興味がある」


「そう、わかったわ。好きにしなさい」


 よし!

 領主代行であるフェリスから許可を得たぞ。そう思った時、フェリスが言葉を続けた。


「けど、勝手に古代遺跡から持ち帰った罰は受けてもらうわよ。ウィルの命令に反したのだから、それは例えイチノスでも受けるべきでしょ?」


「どんな罰ですか?」


「Es pārdomāšu un apspriedīšos ar Konradu un Elmiu, lai izlemtu」


「ーーEs gaidu ar pilnīgu apņēmību」


 急にフェリスがエルフ語で答えてきて、思わず俺もエルフ語で返してしまった。


 フェリスの顔は、本館への出入口の方に視線を向けている。

 そこには、立ってこちらを伺うエルミアと、小走りに向かってくるアナスタの姿があった。


「ご歓談中に失礼します」


「そろそろ執務に戻る時間なのね?」


「はい、申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 再び本館の出入口に立つエルミアへ目を向けたフェリスが、トンでもないことを言い出した。


「Ičinos, kā būtu, ja tu aizvietotu to?」


「Nē, es dziļi atteicos」


「Vai to varētu izmantot kā sodu?」


「Nē, es neesmu gatavs tam」


 今日はここまでだなと思い、黒っぽい石をカバンに戻すと、さらに変なことを口にしてきた。


「Ičinos, darba partneris ir jāciena」


「Protams」


 またしてもエルフ語での問い掛けだが、それに俺もエルフ語でハッキリと答えた。


 フェリスが言っているのはシーラのことだ。昨日、冒険者ギルドからの帰り際に突き放してしまったが、俺がシーラを大切にするのは当たり前だ。


 俺の答えを聞いたフェリスの顔が急に朗らかな表情に戻った。


 そんなフェリスと東屋を後にして、本館の出入口へ向かいながら、再び『勇者の魔石』の製造方法と検証方法へ意識が向かいかけるが、軽く頭を振って思い止まった。


 今は止めよう。一旦、今日得た知識をきちんと整理して組み立て直し、道筋を整えてから『勇者の魔石』作りに挑もう。


 ─

 エルフ語(ラトビア語)翻訳


「Es pārdomāšu un apspriedīšos ar Konradu un Elmiu, lai izlemtu」

 →「私が考えて、コンラッドとエルミアと相談して決めます」


「ーーEs gaidu ar pilnīgu apņēmību」

 →「ーー私は覚悟を決めて待っています」


「Ičinos, kā būtu, ja tu aizvietotu to?」

 →「イチノス、代わりにどう?」


「Nē, es dziļi atteicos」

 →「いえ、深くお断りします」


「Vai to varētu izmantot kā sodu?」

 →「それを罰にするのも手よね?」


「Nē, es neesmu gatavs tam」

 →「いえ、そこまでの覚悟は出来ていません」


「Ičinos, darba partneris ir jāciena」

 →「イチノス、仕事のパートナーは大切にしなければならない」


「Protams」

 →「もちろん」


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