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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月8日(水)

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27-11「母の裁定と勇者の真実」


 フェリスに呼ばれて東屋へやって来たコンラッドは、両手で持ったトレイに資料や書類を小山のように積み上げて運んできた。


 その姿に気づいたエルミアが直ぐに反応し、机の上のティーセットを片付け始める。


 俺も邪魔にならないように、脇に置いていた黒っぽい石を手に取ったところで、フェリスが思わぬことを口にした。


「イチノス、それをよく見せて」


 その言葉に答えて、俺は黒っぽい石を差し出した。フェリスは何の躊躇いもなくそれを手に取り、じっくりと眺め始めた。


「イチノス、もしかしてこれを古代遺跡から持って帰ったの?」


「えぇ、ちょっと不思議な感じがしたんで持ち帰りました。正確にはそれと同じものが並べられていて、その上を跨ぐと少し変な感覚を抱いたんです。それでその黒っぽい石が原因かと考えました。すると、古代遺跡の瓦礫の中に同じ様な黒っぽい石を見つけたので、瓦礫ごと持ち帰り、その黒っぽい石だけを瓦礫から取り出しました」


 少々長くなってしまったが、俺は嘘偽りなく伝えるため、瓦礫を持ち帰ったことに焦点を当てて一気に説明した。


 すると、コンラッドがエルミアの片付けた机の上に両手持ちのトレイを置き、1枚の紙を取り出し、フェリスの前に差し出した。


「カミラ文官から届いた報告です。イチノス様が古代遺跡から瓦礫を持ち帰った旨が記されております」


 黒っぽい石を片手に持ちながら、差し出された書面へフェリスが目を通していく。


「なるほどね。古代遺跡から金銀財宝を持ち帰るのは禁じられていて、イチノスは瓦礫を持ち帰ったのね」


「はい、金銀財宝ではなく、ただの瓦礫を持ち帰りました」


「ふふふ、そうよね。でも、ウィルは金銀財宝に限らず、古代遺跡から何かを持ち帰るのを禁止していたわよね。コンラッド、今日はウィルがいないから、私が代わりにイチノスに注意を与えるべきかしら?」


 そう言いながらフェリスがコンラッドに目を向けた。


「それは、領主代行であるフェリス様のご判断にお任せします」


 どうやらフェリスは、古代遺跡から何かを持ち帰るのが禁じられていることは知っているようだ。

 それに、この領主別邸を朝一番でウィリアム叔父さんが出立していることから、フェリスが領主代行として俺に注意を与えることに考えが及んでいるのだろう。


「じゃあ、古代遺跡から勝手に瓦礫を持ち帰ったイチノスを私が裁くのね?」


「はい、領主代行として裁定を」


 おいおい、コンラッド。

 俺が持ち帰ったのは金銀財宝じゃなくてただの瓦礫だぞ。


「けど、裁定を下す前に、なぜイチノスが瓦礫を持って帰ったのか? その釈明も聞くべきよね?」


「それも、フェリス様のご判断にお任せします」


 ◆


 コンラッドの返事を皮切りに、俺は可能な限り黒っぽい石に興味を抱いた理由を説明していった。


 あの『何かを越える』感覚を説明するのは、本当に苦労した。いくら言葉を重ねても、自分だけが漠然と感じたものを他者に伝えるのが、どれだけ難しいかを再認識させられた。


「以上が私からお話しできる、古代遺跡から瓦礫を持ち帰った理由です。これはあくまでも私個人の感覚的なものが理由で、その黒っぽい石に興味を抱き、価値がないと思える瓦礫を持ち帰るに至ったことを理解してください」


「「⋯⋯」」


 延々と俺の感じた感覚的な話、黒っぽい石に俺が興味を抱いた理由の話を、立ったままで聞かされたエルミアとコンラッドからは無表情な沈黙が返ってきた。

 けれどもフェリスは、いつもの朗らかな顔だ。その顔は、まさに母親が子供のワガママを黙って聞き続けているような感じすらした。


「わかったわ。イチノスが古代遺跡から、瓦礫というか、この黒っぽい石を持ち帰った件についての裁定は、私が下します」


 フェリスが、この場にいる全員を見渡して告げてきた。それをコンラッドが掘り下げる。


「はい、どのような裁定にされますか?」


「そうね、仕事というか、懲罰としての作業を与えましょう」


 懲罰としての作業か⋯

 フェリスは、何かを考えているのだろう。


「具体的には?」


「それは、後ほどコンラッドに伝えます。ここから先は私とイチノスで懲罰の詳細を詰めます。エルミアとコンラッドは席を外してくれますか?」


「わかりました。では、私はここで退席させていただきます」


「私も退席させていただきます」


 コンラッドの退席の言葉に、エルミアも合わせてきた。二人が机から離れようとしたところで、フェリスが声を発した。


「コンラッド、古代遺跡の内部を書いた図があったわよね?」


 その言葉に、コンラッドが手に仕掛けた両手持ちのトレイの小山から、束ねられた資料を取り出し、フェリスの前に拡げて置いた。


「こちらでしょうか?」


「そうね、これも残してください」


「はい、それでは失礼します」


 そう告げて、コンラッドは資料が小山に乗った両手持ちのトレイを手にして、東屋を離れ行くエルミアの後を追った。


 コンラッドとエルミアが本館へ姿を消したところで、フェリスが口を開く。


「イチノス、『勇者の魔石』方はどうなの? コンラッドから助言は受けてるんでしょ?」


「受けてるよ。教会長とも会話して、勇者の定義までは行ったよ」


「教会長? ベルザッコさんね」


「そうだね。ベルザッコ教会長と話したことで、何とか勇者の定義までは行き着いた感じだね」


「それで?」


「正直に言ってその先は行き詰まってるかな。けれども最終手段というか、本当に最後の方法には行き着いた気がする」


「ふーん。まさかだけど、イチノスは勇者召喚でもするのかしら?(笑」


「えっ?!」


 フェリスの言葉に俺は一瞬固まってしまった。


「あら、イチノスはやる気だったの? 別世界から勇者を呼び寄せるなんて、随分と大胆な考えね(笑」


「いや、俺がやらなくても他にやった人か、実際に別世界から来た人を知ってるなら教えてもらおうと思ったんだよ」


「そこまで考えてたの?(笑」


「勇者の定義は、まずは別世界から来た者なんだろ?」


「そうね。けど、別世界から来た勇者の血縁者=子孫なら、勇者の血筋を引いているとも言えるんじゃないの?」


「えっ? フェリスさんはもしかして『最初の勇者』のことを言ってる?」


「そうね、人間種族で言えば『最初の勇者』の血を引いてる者なら、その者の体内魔素を使えれば『勇者の魔石』を作れるんじゃないの?」


「いやいや、『最初の勇者』の血筋って、王族のことでしょ?」


「あら? イチノスは人間種族の勇者だけで考えてるの?」


「えっ?」


「勇者は各種族、私たちエルフならエルフ種族の勇者、ドワーフならドワーフ種族の勇者がいるとは学んでないの?」


「えっ? えっ?」


「まあいいわ。今のイチノスの稚拙な考えと知識の少なさがわかったわ」


 フェリスさん、それは言い過ぎでは?


「あら、不満そうな顔ね。今日は母親として⋯ いえ、むしろ魔導師の師として少し説教するから心して聞きなさい」


「⋯⋯」


「イチノスは勇者について教会長のベルザッコさんと話をして、『勇者の定義までは行った』と言ったわよね?」


「言いました⋯」


「イチノス、その知識は人間種族の勇者の定義だと考えたことは無いの? さっきも言ったけど、種族毎に勇者の定義は存在すると考えたことは無いの?」


「⋯⋯」


「それとね、『勇者の魔石』を作れたとして、それが本当に『勇者の魔石』だと、イチノスはどうやって証明するの?」


「!!」


 これは考えていなかった!


■人間種族以外の勇者のお話し

7-16 勇者なのか英雄なのか


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