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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月15日(日)

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3-13 そういうのに片手鍋を使うなんて絶対にダメです!


 『魔石光スペクトラル計測器』の原理は以外と単純だった。


 計測対象の魔石を入れる箱から『魔石』が放つ『魔石光』をスリットを通して得る。

 その『魔石光』をプリズムを使って各色に分解する。

 分解された各色毎に光量計を連動させれば『魔石光スペクトラル計測器』の出来上がりだ。


 これに俺は改良を加えた。

 俺の得意な『神への感謝』を取り除いた『水出しの魔法円』を組み合わせたのだ。

 これにより『魔石』から『魔素』を取り出している際に放たれる『魔石光』と『魔素量』を計測することが可能になった。


 研究所時代に類似の方法を試みた所員もいたが、彼が使った『水出しの魔法円』には『神への感謝』が含まれていた。

 そのために『魔石』から取り出される『魔素』は『神への感謝』へも流れる『魔素』が含まれてしまう。

 俺の得意な『神への感謝』を省いた『魔法円』を組み合わせれば、この『神への感謝』で消費される『魔素』を省くことが出来る。


 研究所時代に仕組みを考えた彼には悪いが、しっかりと真似をさせて貰った。

 俺は『魔素量』も計測する仕組みを組み合わせる事を考えた彼への敬意を払い、この計測器を『改良型計測器』と呼んでいる。


 早速、フェリスから届けられた小箱から『魔鉱石まこうせき』取り出す。

 改良型計測器にセットして各色毎のメーターと水量計を見つめながら『魔鉱石まこうせき』から『魔法円』へと少しだけ魔素を流す。

 一気に水量計に水が湧き、慌てて魔素の流れを止めたが、各色毎のメーターの針はピクリとも動かなかった。


「あれ? おかしいな? 故障か?」


 故障の可能性を考えて『魔鉱石まこうせき』を小箱に戻し、先ほど拵えた『エルフの魔石』と入れ換える。

 再び同じ様に『エルフの魔石』から『魔法円』へと魔素を流す。

 水量計に水が湧くのを確認して、各色毎のメーターに目をやれば、針が頻繁に動き出している。


 俺は改良型計測器の動きを見て、悩んでしまった。


魔鉱石まこうせき

 一気に水量計に水が湧き出した。

 各色毎のメーターの針は動かない。


『エルフの魔石』

 いつものように水が湧き出した。

 各色毎のメーターの針は頻繁に動いた。


 まず魔素量の差に注目してみる。

 水の湧き出す速度は明らかに『魔鉱石まこうせき』の方が早かった。

 これは『魔鉱石まこうせき』の方が『エルフの魔石』よりも取り出された魔素量が多いことを示している。

 けれども各色毎のメーターの針は動かなかった。

 即ち『魔鉱石まこうせき』からは『魔石光ませきこう』が出ていないと言うことか?


 確認の為に『魔鉱石まこうせき』を手にしてみると、ギラリギラリと俺を睨むような『魔石光ませきこう』が出ている。


 『魔鉱石まこうせき』の放つ光を確認しようと集中して覗き込むとギラリと光る。

 その眩しさに少し目を細めれば、光が治まる。

 再び『魔鉱石まこうせき』の具合を見ようとすると、再びギラリと眩しく光り始める。


 どう言うことだ?


 この現象に悩みながら、水量計を見ると既に満杯に近い。


 もう一度試したいが『魔鉱石まこうせき』を試すと確実に水量計から水が溢れ出すだろう。

 俺の住む店舗兼自宅、この書斎と寝室のある2階には水回りがない。

 仕方なく水がこぼれないように水量計を外して階下へと運んで行く。


 階段を降りきり、台所へ向かい水量計の水を捨てていると店舗の方から話し声が聞こえた。

 きっとサノスが接客中なのだろう。


 この先の実験も考えて、水を捨てる大きめの鍋か何かがないだろうかと探す。


(コロンカラン)


(ありがとうございました~)


 店舗の方からサノスが接客を終えた声が聞こえた。


 台所の棚を開け閉めして、手頃な大きさの器か鍋を探しているとサノスが声を掛けてきた。


「師匠、何をしてるんですか?」

「大きめの鍋か何かがあった気がして⋯」


「何に使うんです?」

「いや、水を捨てる大きめの容器が欲しいんだよ」


「無いと思いますよ。両手鍋が一番大きいですから」


 そんな会話をしながら振り返ってサノスを見れば、『温めの魔法円』に乗せられたオークのトリッパが入った両手鍋を指差していた。


「後は、そこにある片手鍋ぐらいです」


 サノスの指差す先を見れば、お茶を入れた時に使った片手鍋だった。


「う~ん。もっとこう大きなのが欲しいんだよ。そうだな⋯ バケツみたいなのはないかな?」

「⋯⋯」


 俺の言葉にサノスが一瞬固まってから、恐る恐る聞いてきた。


「し、師匠、そんな大きいのに⋯ ためて2階から運ぶんですか?」

「ああ、何回分になるかわからないから、大きめのバケツが良いかな?」


「それって⋯ 階段で下ろす最中に転んだら悲惨ですよ」


 言われてみれば、その通りだ。

 『魔鉱石まこうせき』を試して湧き出す水量を考えれば、バケツでも間に合わないかも知れない。

 バケツに満杯の水を持って階段を降りるのか?

 この店舗兼自宅の階段はそれほど広くない。

 バケツに満杯の水を下ろす最中に階段で転んだりしたら、それを掃除するだけで一苦労だろう。


「そうだな、サノスの言うとおりだ。バケツじゃ運ぶのが大変そうだ。片手鍋にしよう」

「師匠! やめてください!」


「えっ?!」

「そういうのに片手鍋を使うなんて、絶対にダメです! 専用のを買ってきますから、それまでは我慢してください」


「はぁ?」

「何て言いましたっけ⋯」


 サノスが片手鍋はダメだとか、専用のを買ってくるとか言い始めた。

 どうにもサノスの言っていることが理解できない。

 『水出しの魔法円』で湧いた水を捨てるだけなのだが、片手鍋じゃダメなのか?

 専用ってあるのか?

 『水出しの魔法円』で出した水をためる⋯ 水瓶みずがめか。

 そういえば『水出しの魔法円』が普及する前は、各家庭の台所に水瓶みずがめが置かれていたはずだ。


「いや、サノス。専用って水瓶みずがめだろ? なおさら2階から運べないだろ」

「み、水瓶みずがめにためるんですか?! ダメです! 絶対にダメです!」


 そこまで話して、サノスが大きな勘違いをしていることに、俺は気がついた。


登場人物

 サノス

舞台

 イチノスの店舗兼自宅

  2階

   書斎

  1階

   台所

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