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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月8日(水)

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27-4「街の変遷と静かなひととき」


 あれからは何事もなく、領主別邸を目指して、リアルデイルの街並みを楽しむように歩を進めた。


 時にはこうして意識を解放し、この街を歩くのも良いものだ。


 やがて、リアルデイルの街を南北に貫く大通りへ出ると、目の前に広がる風景に少し心を動かされる。


 南北に伸びる通りの右手には、中央広場を囲む雑木林が見え、左手には北部市場の様子が垣間見える。


 北部市場は、南部市場や東部市場のような賑わいはなく、どこか静かな佇まいを保っている。


 北街道を通って石炭や木材が運び込まれるはずだが、それらはすぐ隣の工業街へと送られているからだろう。


 また、北部市場の奥にある北の関は運河口に近く、運河を経て積み荷が届いているようだが、その様子まではここから確認することはできない。

 

 俺は南北に走る大通りに馬車が通っていないのを確認し、素早く渡りきった。


 その先には、東町北──旧東町北の住宅街が広がっている。この一帯には、他よりも大きな家々が多い。


 どの家も生垣や垣根、または塀で囲まれており、庭の様子や家の全貌は外から見えにくくなっている。


 それでも、生垣や垣根の間や塀の上から、堂々とした家屋の姿をうかがい知ることができる。


 どこか「大きな家なんだぞ」と静かに主張しながらも、その大きさや庭の様子を見せない控えめさは、この東町北の習わしのようにも思える。


 そんな立派な家々を見上げながら、俺はコンラッドの話を思い出していた。


『かつて、このリアルデイルの街で幅を利かせていた大手の商会や商家が構えた家々、そして豪農と呼ばれた者達の家々は、今でも残っているんです』


 コンラッドから聞かされたリアルデイルの街の歴史に思いを馳せつつ、俺は東町北を抜け、貴族街へと向かってさらに歩を進めた。

 

 この東町北の大きな家々の中には、かつてリアルデイルの東方に広がる大農園地帯を取り仕切っていた豪農の家々の名残も見かける。


 その豪農も、ウィリアム叔父さんとの協議によって農地返還が行われたり、小作人への分譲が進められた結果、勢力を削がれていったとコンラッドから聞かされた。


 そうした豪農と呼ばれた者の家々は、数多くの小作人を抱えていたため、古代コンクリート製の二階建てで窓の多い宿舎を備えていることが多い。


 かつて小作人の宿舎として使われていたであろうその建物は、どことなく王都の研究所の寮に似ていて、懐かしさが込み上げてきた。思わず足を止め、その様子を眺めてしまった。

 そこには、既に人の住む気配は感じられず、どこか物置のような雰囲気が漂っている。


 今では、そうした豪農に関わっていた者達は東町北には住まず、新しく作られた新東町に早々と移り住んでいるとコンラッドから聞かされた。


 東町の拡張に伴い、畑に近い場所へと移動したのも頷ける話だ。


 そんなことを思いながら、俺は止めていた足を再び領主別邸へ向けて歩き出した。



 ん? この開けた庭園は何だ?

 いや、庭園というより、何かを提供する場所か?


 もう少しで貴族街の入口と言える場所に、それはあった。


 半年前、この道を通った頃には、ここには生垣か塀があり、こんな開けた庭園は見られなかったはずだが⋯


 通りに面した道から見えるのは、手入れの行き届いた庭園で、広々としていながらも整然としている。

 どうやら周囲を囲っていた生垣が取り払われたことで、以前とは雰囲気が大きく変わったようだ。


 その目を惹く庭園には、白木のテーブルと椅子が整然と並び、大きな日除けが穏やかに影を落としていた。


 もしかして、これは紅茶や珈琲を出す『カフェ』と呼ばれるものかもしれない。

 そのカフェは、まるで隠れ家のようにひっそりと佇み、周囲の喧騒から切り離されている。


 暑さを感じるほどの日差しの下、訪れる者に静かで安らかなひとときを提供しているかのようにすら見える。


 王都にいた頃、貴族街の外れだか手前だかに、こんな感じの店があった気がする。

 王都のあそこは、貴族街に勤めるメイドや、そのメイドのお相手の騎士達が過ごしていた場所のような気がする。

 そういえば、研究所に勤めていた同僚の男女を見かけた記憶もあるな。


 それにしても、リアルデイルの街に、こんな店が出来ているとは思いもしなかった。


 改めて周囲を見渡すと、庭園の中へと誘う小道の前に、控えめな黒木の三角看板が置かれていた。


 三角看板に近寄って見てみると、こんなことが書かれた紙が貼られていた。


 ┏━━━━━━┓

 ┃カフェ   ┃

 ┃11:00~┃

 ┗━━━━━━┛


 それだけ?

 店名も書かずに店の形態と営業時間だけ?


 随分と控えめな感じだが、それがまたこの東町北の街並みに溶け込んでいるように思えてきた。


 改めて庭園の奥へと誘う小道を目で辿れば、緑の蔦に覆われた窓の多い二階建ての建物らしきものが見える。

 あれは小作人に使わせていた宿舎のような気がする⋯


 そうか、元豪農の家を使って庭を整備し、カフェにしたのだな。


 なかなか趣のあるカフェではないか。


 このカフェは、ただの飲食の場ではなく、心を休めるための特別な空間であるように感じた。

 外の喧騒を忘れ、ゆったりとした時間が流れているのだ。


 今日は難しいが、またの機会に訪れるため、周囲の建物や道順でこの場所を記憶する。

 北側のもう一本向こうが外周通りであり、東側のもう一本向こうが貴族街へ向かう商工会ギルド前の南北に走る通りだと気がついた。



       北

      ┃ ┃貴族街

  ━━━━┛ ┗━━━━━

西 外周通り        東

  ────┐ ┌─────

      │ │新東町北

   ○  │ │

  カフェ │ │

      │商│

      │工│

      │会│

      │ギ│

      │ル│

      │ド│

      │↓│

       南



┏━━━━┓     ┏━━━━┓

┃工業街 ┃     ┃貴族街 ┃

┣━━━━┻北━━━━┻━━━━┫

┃     ↑    │    ┃

┃ 西町北 │旧東町北│新東町北┃

┃     │    │    ┃

西←────○────────→東

┃     │    │    ┃

┃ 西町南 │旧東町南│新東町南┃

┃     ↓    │    ┃

┗━━━━━南┳━━━┳━━━━┛

       ┃南町 ┃

       ┗━━━┛


 俺が住むのは西町北である。

 『西町』は西町北と西町南を合わせた全体の呼び名だ。

 『東町』は西町北や西町南と同じように南北を付けて呼ばれるのだが、街の中央寄りが旧東町で、街の外側寄りが新東町となっている。


───


 今回のエピソードは、リアルデイルの街をイチノスが歩いて紹介するような感じになっています。


 格別にイベント的なことは起きませんが、新たに出来たカフェを見つけるイベントだと思ってください。


 そして、リアルデイルの街が変わりつつあることを表現するために書いています。(いいわけ)


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