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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月8日(水)

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27-3「交番所の微笑みと伝説の影」


 パトリシアさんを見送った二人の女性街兵士は、中肉中背な方が交番所の中へと消えていった。


 通常の業務に戻った感じだな。そう思った瞬間、残った小柄でふくよかな感じの女性街兵士が、俺に視線を向けて微笑んだ気がした。


 俺もその微笑みに応えて、交番所へと足を向ける。すると、明らかに彼女の顔は笑顔だった。


「おはようございます」


「イチノスさん、おはようございます」


 互いに軽く敬礼で挨拶を交わし、まずは昨日連行された商人の件について打診する。


「昨日は、サノスとロザンナが、ご迷惑をおかけしたようで、すいません」


「いえいえ、気にしないでください。迷惑行為をしたのはあの商人ですから。むしろサノスさんやロザンナさんに何事も無くて良かったです。それに私達を頼ってくれて、助かりました」


 サノスとロザンナが頼って助かった?


 どこか微妙な言葉だな。彼女の言葉使いは気にしない方が正解なのか?


「まだ暫くは、癖のある商人や見知らぬ連中が店に来る可能性があります。今後もご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」


「そうなんですよね。実は先ほど、パトリシア副長からその件について伺ったんです」


「パトリシアさんから?」


「ええ。何でも、他の街から来た連中がイチノスさんの店に迷惑をかけそうだから、暫くは注意してくれと指示されたんですよ」


 これはありがたい配慮だ。

 多分だが、パトリシアさんはシーラから何らかの話を聞いたのだろう。


 例えば魔石の転売目的の話を聞いて、商工会ギルドや冒険者ギルドでの警戒、そして東町の魔道具屋や俺の店で何らかの問題が起こる可能性を察してくれたのだろう。


 と言うか⋯

 既に俺の店で実際に問題が起きかけて、商人がこの女性街兵士に連行されたというか、お世話になっているんだよな。


「イチノスさんは、今日はどちらへ?」


「今日はですね⋯ これから、領主別邸です」


 昨日お世話になった恩に押されて、正直に今日の行き先を告げた。


「今日は店に戻らないと思いますので、申し訳ありませんがよろしくお願いします」


「お任せください。それでですね、イチノスさんにちょっとお聞きしても良いですか?」


「はい、なんでしょう?」


「エルミアさんって、領主別邸にお勤めでフェリス様の専属の女性執事じょせいしつじさんですよね?」


 急に何の話をして来るんだ?


 それでも、彼女の言うとおりだと思い直した。


 コンラッドが執事長 兼 フェリスの護衛ならば、エルミアは家政婦長であり、いわば家庭内の執事であり、『女性執事じょせいしつじ』と言われても納得できる。


 さらにエルミアは、俺が魔法学校へ放り込まれるまでの乳母であり、教育係でもあった。


 彼女の言う『女性執事じょせいしつじ』がそうした役割のことを言うのであれば、確かにそうかもしれない。


「すいません。『女性執事じょせいしつじ』の役割まではわかりませんが、エルミアさんが家政婦長であることは間違いないですよ」


「そのエルミアさんは、礼儀作法の先生なんですか?」


「はい?」


 更なる問い掛けに、俺は思考が停止しそうになった。


「実はですね、今月から礼儀作法の講義が始まってるんですが、講師にエルミアさんの名前を見つけたんです」


 う~ん、俺には理解できない話をされている気がする。


「その礼儀作法の講義と言うのは⋯」


「あぁ、私達女性街兵士がフェリス様の警護に着くために受けるんです。騎士学校でも礼儀作法の講義はあったんですが、エルミアさんの講義は伝説だとパトリシア副長から聞かされてるんです」


 エルミアの講義が伝説?

 ちょっと待ってくれ。

 俺にそんな話をすると言うことは、俺がエルミアの礼儀作法の講義について何かを知っていると思っているのか?


「すいません。『伝説』というぐらいですから、エルミアが何かしたんですか?」


 思わず『伝説』という言葉と、エルミアが騎士学校で何を教えていたのかが気になって、変な問い掛けを返してしまった。


「あれ? イチノスさんは知らないんですか?」


「すいません。私は何も聞いていないんです。それって、いつ頃の話ですか?」


「私は知らないんですが、ちょっと待ってください」


 そう言って彼女は交番所の中へ向かった。その後ろ姿を眺めながら、自分の発した言葉に後悔の念を感じた。

 どうやら交番所の中の同僚に、騎士学校でのエルミアの伝説が、いつ頃の事かを確かめに行ったのだろう。

 俺としては、そろそろ領主別邸へ向かいたいのだが⋯


 そんな思いが頭をよぎると、交番所の奥から中肉中背の女性街兵士が出てきて、その思いが一瞬で終わった気がした。


 彼女たちはサノスやロザンナ、それに俺の店を不審な連中から守ってくれている。

 職務とはいえ、そんな彼女たちに手間を取らせてしまったのだ。それを無碍にするわけにもいかないし、問い返したのは俺なんだよな⋯

 

 ◆


「じゃあ、いってきます」


「「いってらっしゃ~い」」


 二人の女性街兵士から解放されて、俺は領主別邸へ向かう道を歩み始めた。


 エルミアについて二人から色々と問われたが、俺が話せたのは魔法学校へ放り込まれるまでの幼い頃の思い出と、王都の別邸へ足を向けた時のフェリスに付き添うエルミアの様子ぐらいだ。

 他には、ここ1年ぐらいの領主別邸でのエルミアの様子は伝えられたが、それも家政婦長としてのエルミアの様子でしかない。


 実際に二人が知りたかったのは、騎士学校で礼儀作法を教えていた頃のエルミアの話だ。


 これについては、二人が騎士学校に在籍していた時、既にエルミアは礼儀作法の講師を降りていて、実際にエルミアの講義を受けていなかった。

 そのため、逆に『伝説』と呼ばれるエルミアの逸話を俺が聞く立場になってしまった。


 そして、その逸話の元は、実際に騎士学校でエルミアの礼儀作法の講義を受けていた、パトリシア副長だと言うのだ。


 結果的に、女性街兵士達にはエルミアの人となりについては俺の話を参考にしてもらい、騎士学校時代の伝説や逸話については、後でパトリシア副長から改めて聞き出してもらうことで話は終わった。


 先ほどの女性街兵士たちとのやりとりを振り返りながら、俺は領主別邸へ向かうため東町北方面へと足を進める。


 今日は商工会ギルドへ向かう際に通る中央広場を避け、まずはリアルデイルの街を南北に走る大通りに出ることにした。この道順は店を開くときにも何度も通った馴染みのある道だ。


 それにしても、騎士学校と人々の繋がりには驚かされる。街兵士副長のイル・デ・パン、通称イルデパンも以前は騎士学校で教鞭を執っていたと聞く。


 もしかしたらエルミアが騎士学校で礼儀作法の講師だった頃に、イルデパンと面識があったのかもしれない。

 そんなことを考えても仕方がないと思いつつも、想像が膨らんでしまう。


 それに加えて、冒険者ギルドのギルマスであるベンジャミンも、確か騎士学校の出身だったはずだ。

 そうなると、その兄で街兵士長官のアナキン・ストークスも、同じく騎士学校でイルデパンに鍛えられた経験があるのだろう。


 もしそうだとしたら、かつての学校の先生が今や自分の部下という関係になるのか⋯


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