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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月7日(火)

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26-19「魔石の流通とギルドの攻防」


 その後、商工会ギルドのメリッサさんが提案した魔石の転売目的の商人との取引停止について、特に誰からも意見は出なかった。


 考えてみれば、この会議に参加している者の中で、商工会ギルドの意向に異を唱える可能性のある者はいない。

 魔石の転売に関わっている人物がいないのだから、反対意見が出るはずもない。


 商工会ギルド以外の視点で考えれば、この場にいるのは冒険者ギルドだ。

 そう考えると、冒険者ギルドのサブマスターであるキャンディスさんが異を唱える可能性はあるだろう。


 しかし、冒険者ギルドが魔石の転売に手を貸すようなことはないだろう。冒険者ギルドがそんな批判の待ち受ける道を選ぶとは思えない。


 そう考えながらキャンディスさんを見ていたら、目が合ってしまった。


「イチノスさん、ご意見はありますか?」


「あります」


「お願いします」


「商工会ギルドの方針は理解しましたが、冒険者ギルドではどうされるのですか?」


「基本的に、冒険者ギルドに登録していない方々との取引は従来通り行いません。魔石だけでなく薬草も同様です」


 なるほど、魔石だけでなく薬草も冒険者ギルドを通じて市井に流通しているのだから、それも対象にするのだな。

 俺がポーションを作る際には生の薬草を使うが、飲み薬や粉薬を作る薬師などは自分たちで乾燥させた薬草を使うと聞いている。

 適切に乾燥された薬草ならば運搬も容易で、商人も転売を考えるだろう。


 だが、転売目的の商人がどこで乾燥させたか不明な薬草を購入するような薬師はまず皆無だろう。

 薬師は自分の作った薬に絶対の誇りを持っている。

 そんな怪しく曰くがついた薬草で薬を作ることはまず無いだろう。

 そうなると、冒険者ギルドがそうした転売目的の商人に供給を止めれば、薬草の値上がりも防げるのか⋯


 けれども、薬草の値段が上がらないのは難しい部分もある。

 薬草の値段が低いままでは、実際に薬草採取を行う見習い冒険者たちが得られる収入が増えないという事実があるからだ。


 これは薬草に限った話ではなく、魔石にも同じことが言える。

 魔石がもっと高くなれば、魔物を討伐する冒険者たちが得られる収入は増えるだろう。

 しかし、魔石の値段が高いままでは、俺やシーラのような魔導師は魔法円の売れ行きに影響を受けるし、東町の魔道具屋も魔道具の売れ行きに影響を受けるだろう。


 さらに、シーラが言っていたように、魔法円や魔道具を既に使っている人々にとって、魔石の価格が上がることは石炭や薪の値段が上がるくらい生活への影響が大きいだろう。


 そして魔石や薬草の値段が転売によって値上がりしていくのを受け入れ難いのは、感情的なものであり、転売で利益を得ている商人にその値上がり分を奪われているように感じるからだ。


 実際に薬草採取をする見習い冒険者や、魔物を討伐する冒険者に、その値上がり分の利益が還元されないのが問題なのだ。


 そうしたことを考えていると、シーラが口を開いた。


「キャンディスさん、メリッサさん。一部商人との取引を停止するという理念は理解しましたが、リアルデイルの街の人々への魔石の供給が気になります。製氷業者以外にも、精肉を扱う商店などが冷蔵のために魔道具を使っていると思いますが、そのような方々への魔石の供給はどう考えていますか?」


 これは、シーラの魔導師としての専門的な意見だ。先ほど応接室で彼女が述べていた考えに基づいている。


「メリッサさん、シーラさんのご意見についてはどうですか?」


 キャンディスさんが促すと、メリッサさんは興味深い見解を示した。


「商工会ギルドと冒険者ギルドが中心となり、東町の魔道具屋やイチノス魔導師のお店に対して、転売目的の商人に魔石を売らないよう協力をお願いするしかありません。各商店で使用される魔石の供給は続けながら、転売目的の商人を排除するための協力を求めたいと思います」


 これは、俺の店でも転売目的の商人を排除して欲しいということだな。


 サノスやロザンナにも、この点をうまく伝える必要がありそうだ。魔石を大量に買いに来る商人をどう躱すか考えねばならない。

 まずは魔石の販売停止だな。これは明日の朝にでも二人へ伝えれば間に合うだろう。


 トントントン


 再びシーラが指で机を叩く音がして、確認するように話を続けた。


「それでは、イチノス魔導師のお店や東町の魔道具屋では、従来通りの商売を続けられるということでしょうか?」


「商工会ギルドとしては、そのように考えています」


「冒険者ギルドはどうですか?」


「冒険者ギルドも同様です。ただし、冒険者ギルドはイチノス魔導師のお店や東町の魔道具屋に魔石を供給する立場です。両店舗から要請があれば、従来通りの価格で魔石を供給し、営業が続けられるよう配慮します」


 従来どおりの価格ならば問題ないな。


 すると、メリッサさんとキャンディスさんの言葉を聞いて、シーラが椅子に座り直した。


「もう一歩踏み込んで、冒険者ギルドのキャンディスさんに質問してもよろしいですか?」


「どうぞ」


「冒険者自身が、魔石の転売をしている商人と直接取引を行うことは抑止できますか?」


「シーラさん、そこまでは冒険者ギルドでも商工会ギルドでも抑止できません。しかし、そうして得られる魔石は少量であり、市場価格に大きな影響を与えるとは考えていません」


 なるほど。冒険者たちの小遣い稼ぎは黙認するということか。


「わかりました。そうなると、魔石の転売に力を入れている商人は、冒険者ギルドや商工会ギルドの目をかいくぐって活動するしかなくなり、無用な高騰は避けられるのですね?」


「はい、そのように考えています」


「キャンディスさん、メリッサさん、明確なご回答をありがとうございます」


 シーラも含め、皆が納得して頷いたところで、キャンディスさんがポツリと呟いた。


「もう、あの魔王討伐戦の時のような混乱は勘弁ですからね」


「うんうん」


 その呟きが聞こえたのか、タチアナさんが深く頷いたのが印象的だった。


「では、ここまでの話をまとめて、後ほど議事録を作成し回覧を願いますので、皆様のご確認をお願いします」


 そう会合の終わりを告げたのはレオナさんだった。続いて、メリッサさんが予想していた言葉を口にした。


「イチノスさん、魔石の入札に参加していただきましたが、このような結果になり、申し訳ありません」


「いえ、気にしないでください。さまざまな事情が絡んでいますし、今回は入札ですから、結果が出なかっただけと考えれば良いのです」


「ご理解をありがとうございます」


 再び頭を下げたメリッサさんが顔を上げると、今度はシーラに話しかけた。


「シーラさん、この後はお時間ありますか?」


「えっ?」


 思わず皆で時計を確認すると、ちょうど5時になろうとしていた。


「この後に、商工会ギルドで今回の件についての取りまとめ行いたいのです。それにぜひともシーラ魔導師にご協力をお願いしたいのです。馬車で来ておりますのでお送りすることもできます」


「ククク シーラ、頑張ってな(笑」


 俺はそうシーラに声をかけて、帰り支度を始めながら後は風呂屋に行って大衆食堂でエール⋯


『風呂屋』と『大衆食堂』?


 思い出した!


「すみません、私から1点、皆さんへお伝えすることがありました」


「「「?!」」」


 俺の声掛けで、会議後の雑談や会議室からの退室準備、紅茶の片付けに移っていた全員が動きを止めた。


「実は昨日、風呂屋で見習い冒険者たちからお願いされたことがあります」


「見習いたちからですか? それはぜひお聞かせください」


 タチアナさんが良い感じの声を出してくれた。そう思いながら、俺は昨日の風呂屋での見習い冒険者との件や、その後の大衆食堂で開いた説明について話し始めた。


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