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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月7日(火)
423/467

26-18「再開発の影響」


 コンコンコン


「は~い」


 応接室にノックの音が響き、それにシーラが応えると扉が開いて、キャンディスさんが顔を出してきた。


「イチノスさんにシーラさん、お願いします」


 端的に告げるキャンディスさんの声に応えて、シーラと共に応接から立ち上がる。

 シーラの手には俺が渡した魔石入札の資料がまだ残っていた。


 もう終わった資料だから問題無いと俺は気にせず、シーラと共に応接室から出ると、廊下の反対側、会議室の扉が開かれたままだった。


 キャンディスさんに続いて会議室へ足を踏み入れると、タチアナさんとナタリアさんがワゴンの上で紅茶を淹れている。


 そして、大きなテーブルの向こう側、会議室の奥にメリッサさんとレオナさん、そしてカミラさんが座っているのが見えた。


 キャンディスさんが部屋の奥から詰めるようにカミラさんの隣へ座ったので、俺はシーラをより会議室の奥の席を勧め、自ら会議室の扉を閉めて、入口側の席へ腰を降ろした。


 皆が席に座ったところで、タチアナさんとナタリアさんが紅茶を配って行く。


 その間、メリッサさんとレオナさんを見るが、目を合わせてこない。


 これは何かありそうだと感じながらシーラへ目をやると、手持ち無沙汰なのか俺の手渡した資料に目を通している。


 皆に紅茶を配り終え、タチアナさんとナタリアさんが空いていた席に座ると、キャンディスさんが口を開いた。


「急な集まりとなりますが、主要な人物が揃った貴重な時間となっておりますので、これより西方再開発事業における冒険者ギルドと商工会ギルドの第1回合同会議を始めます」


 その言葉を受けて俺も含めた全員が会釈するように、頷くように軽く頭を下げた。


「なお、両ギルドのギルドマスターは本会合が急な開催となりましたことを含め、諸般の都合にて不参加となっておりますことを、ご理解ください」


「「「「うんうん」」」」


「さて、会合を始める前に皆様へ確認です。皆様は互いに名乗りを済ませていると考えておりますが、よろしいでしょうか?」


 そう告げたキャンディスさんが皆へ視線をやると、シーラが手を上げてきた。


「シーラさん、どうぞ」


 キャンディスさんの声を受けてシーラが立ち上がり名乗りを始めた


「改めて皆様へ名乗らせていただきます。この度、イチノス魔導師と共に魔法技術支援相談役に就任しました、シーラ・メズノウアと申します。リアルデイルの街では新参者ですが、よろしくお願いします」


 パチパチパチパチ


 シーラの名乗りを聞いて、全員が拍手を送った。

 もちろん俺も拍手を送った。


 その後、シーラの向こう側に座るキャンディスさんが改めて名乗ったことで、シーラ→キャンディスさん→カミラさん→メリッサさん→レオナさん→ナタリアさん→タチアナさんと、時計回りで会議室の全員が名乗っていった。


 順番に名乗りを済ませ、最後に俺の順番となった。


「魔導師のイチノス・タハ・ケユールです。皆様ご存じのとおりに、ハーフエルフです。母はリアルデイルの領主代行で、父は先の魔王討伐戦で亡くなったランドル・ケユールです。皆様がウィリアム様と『様』を着けて呼ばれている領主は叔父ですが、私はあくまでもリアルデイルに住む一般庶民です。つきましては普段は呼び捨てもしくは『さん』の呼称で問題ありません。それでも名称や呼称に迷われたならば『魔導師』の呼称で呼んでください。きっと誰も不敬罪は適用しませんので(笑」


(ククク フフフ)


 よし、笑い声が漏れ聞こえる。

 これなら皆が緊張を解してくれるだろう。


 そう思って皆の顔色を見るがメリッサさんとレオナさんは、どこか緊張を残した固い表情をしていた。


 俺が着席すると、キャンディスさんがメリッサさんとレオナさんを見て、合図するように軽く顎を引いた。


 途端にメリッサさんとレオナさん、それにカミラさんが立ち上がり、揃って頭を下げてきた。唯一メリッサさんが頭を上げると、謝罪の言葉を口にした。


「イチノスさんにシーラさん、『草案』の件ではご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」


 なるほどね。

 先ほど応接室でカミラさんは謝罪してきたが、レオナさんとメリッサさんはまだ謝罪の言葉を口にしていなかったな。


 これに俺とシーラはどう答えるのが良いのだろうか?


 そう思ったとき、シーラが机の上に置いていた俺の手を資料でつついてきた。これは、俺からの言葉を促しているのだろう。


「皆さんの謝罪を受け入れます。それに先ほど、キャンディスさんとカミラさん立ち会いで、シーラ魔導師と共に相談役としての契約書にサインを無事に済ませております。ここからはここにいる全員が私欲にとらわれず、領民のことを第一に考え、国家事業に寄与する思いで業務に努めましょう」


 出来る限り穏やかに応えたが、シーラを含めてこの場にいる皆は納得できただろうか。


 すると、キャンディスさんが軽く手を動かすと、カミラさんとレオナさんが着席した。しかし、メリッサさんは立ったままだ。


 まだ何か続くのか?

 そう思ったとき、口を開いたのはキャンディスさんだった。


「商工会ギルドのメリッサさんから西方再開発事業における喫緊きっきんの議題を提示いただきましたので、それについての皆様のご意見をお聞きしたいと思います。メリッサさん、どうぞ」


 どうやら謝罪について深く掘り下げないのが正解だったようで、次の議題へと話が進んだ。


「商工会ギルドのメリッサです。まず商工会ギルドとしての最終案からお話させていただきます」


 そこまで告げたメリッサさんが軽く深呼吸した。


「当面の間、商工会ギルドは、一部の商人との魔石の買取や販売を停止させていただきます」


 えっ?!


「現在、商工会ギルドでは冒険者ギルドから預かりました魔石について入札を行っておりましたが、これも中止とさせていただきます。理由については、魔石の転売による価格の高騰を防ぐためです」


 おいおい、話が見えてこないぞ。

 いったい何があって魔石の話が飛び出してきたんだ?


 もしかして昼前の商工会ギルドでの話はこれだったのか?


 メリッサさんの話に思考を巡らしていると、シーラが手を上げてきた。


「メリッサさん、一部の商人に対して商工会ギルドが魔石を扱わない意向であることは理解できました。その背景に魔石の高騰を口にされましたが、実際に魔石は値が上がり始めているのですか?」


「はい。現時点では隣領のランドル領と王都周辺での魔石の価格しか入手できておりませんが、確実に値上がっております」


 メリッサさんの説明を聞いてシーラが再び口を開いた。


「キャンディスさん、メリッサさんの調査結果に裏付けは取れていますか? 一部の断片的な調査結果で結論を導くのは危険だと思います」


「シーラさん、ご指摘をありがとうございます。本日まで冒険者ギルド独自の調査網で確認しましたが、先月月初より魔石の価格が上昇していることを確認しております」


 トントン


「その値上がりの理由まで調査は済まれていますか?」


 シーラが机を指で叩きながらキャンディスさんへ言葉を続けた


「はい。現時点で届いておりますのは、西方再開発事業が原因とされております」


 あぁ、何となくだが理解できるぞ。


 キャンディスさんの返答に俺は思わず納得てしまった


 あの魔王討伐戦と同じなんだ。

 王命で出された西方再開発事業。その実行で、人の動きが活発になり、経済が活性化した。


 それに連れて魔石の価格が上がり始めたんだ。


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