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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月15日(日)

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3-10 緑茶を味わいながらハーブティーの話をする


カランコロン


 そこまで話したところで、来客を知らせる鐘が鳴った。


「はぁ~い。いらっしゃいませぇ~」


 お客様の来店を告げる鐘にサノスが直ぐに反応した。

 サノスは食事を中断して、店に飛び出して行く。


(いらっしゃいませ~何をお求めですか?)


 サノスの接客する声を聞きながら俺は食事を続け、ハーブティーの種の在庫とポーションの在庫を考えてみる。


 ポーションは月に20本売れれば良い方だ。

 今の在庫は10本程度だとサノスは言っていた。

 今月は月初めに20本を作って、月半ばの今日で在庫が10本なら売れ行きとしては順調だろう。

 一方のハーブティーの種は、ポーション1本分の薬草で2つは作れるはずだ。

 ハーブティーの種は、俺の知る限りは毎月5個ぐらい売れ残る。

 先ほどサノスが在庫は5つと言っていたから、既に今月の予定分を売り切ろうとしていることになる。

 いや、先月からの繰り越し在庫も含めれば今月は既に倍に近い売れ行きなのだろう。

 確かにサノスの言う通りに、在庫が5つでは次にポーションションを作る月末まで持たない可能性がある。


 どうする?

 少し早いがポーションを作って、ハーブティーの種用に薬草を回すか?

 そもそも今日明日で薬草が手に入るのか?

 いや、そんなことをしたら主客転倒だ。

 あくまでもポーション作りで使った薬草を再利用したのが、ハーブティーの種だ。

 

コロンカラン


(ありがとうございました~)


 どうやらサノスの接客が終わって、お客様が帰られたようだ。

 俺が呼ばれなかったと言うことは、サノスのお客様なのだろう。


 作業場に戻ってきたサノスが嬉しそうに言ってきた。


「師匠、ハーブティーの在庫が3になりました。ポーションの在庫は10でした」

「また、サノスのお客様だったのか?(笑」


「ええ、バッチリ宣伝が効いたみたいです(グッ」


 サノスが『宣伝』と言う言葉を口にし、サムズアップを見せてきた。


「宣伝? 何かやったのか?」

「雑貨屋と花屋のオバサンに頼んだんです。母の日の贈り物に迷う人がいたら、ハーブティーの種を勧めてくださいって(ニッコリ」


「なるほど⋯」

「それで、さっき花屋に寄った時に花屋のオバサンに言われたんです」


「⋯⋯」

「『サノスちゃんのおかげで、雑貨屋のオバサンからお礼を言われちゃったよ~』って、笑ってました(笑」


 サノス。俺の知らない花屋のオバサンの物真似を披露されても、俺は笑えないぞ。


「次に雑貨屋に寄ったんです。そしたら今度は雑貨屋のオバサンから、私がお礼を言われちゃいました(てへ」


 昼御飯の続きを食べながら、サノスが嬉しそうに話してくる。

 サノスは自分で考えた作戦が良い方に向かったことが実に嬉しそうだ。


「サノスにしては名案だな(笑」

「師匠! そんなに褒めないでくださいよぉ~(ニヤニヤ」


 こいつ、俺の言葉の意味をわかって言ってるのか?



「師匠に飲んで欲しいお茶を手に入れたんです。直ぐに準備しますから、ちょっとだけ待ってくださいね」


 早目の昼食を食べ終えると、そう言い残してサノスが急ぎ足で洗い物を台所に運んで行く。


 お使いの途中に寄った雑貨屋で、何か面白いお茶でも見つけたのだろう。

 しばらくすると、サノスが両手持ちのトレイに普段使いのティーセットを乗せて運んできた。

 そのトレイには、いつもと違って例の片手鍋がトレイに乗っている。

 フェリスが訪問した際に俺が手にした片手鍋だ。


「師匠、片手鍋に湯を出してください」


 そう言ってサノスが『湯出しの魔法円』を置いて、片手鍋にティーカップを入れて出してきた。

 なるほど、湯出しの段階でティーカップを温めるのだとわかる方法だ。


 俺はサノスの指示に従い『湯出しの魔法円』に、ティーカップ入りの片手鍋を置く。

 『魔法円』に右手を添えて、胸元の魔石を左手で確かめながら『お湯が欲しい』と願うと『魔素』が通るのがありありとわかる。

 途端に片手鍋にスルスルとお湯が湧き出した。

 片手鍋の8分目まで湧いたところでサノスに目をやれば、ティーポットに濃い緑色の茶葉を入れていた。


「もしかして緑茶りょくちゃか?」

「ええ、香りがかなり良いそうです」


 俺が問うとサノスが笑顔で答える。

 このリアルデイルのある王国では、お茶と言えば100年ほど前から始まった『紅茶こうちゃ』が好まれている。

 東国あずまこくとの交易で入ってくる『緑茶りょくちゃ』も飲まれるが、主流は『紅茶こうちゃ』だ。


 サノスがティーポットの準備を終えると、片手鍋に湧いたお湯を静かにティーポットに注いで行く。

 片手鍋の中のティーカップがカタリと音を立てたところで、サノスは熱そうにティーカップを取り出した。

 ティーカップを取り出した片手鍋の湯を全てティーポットに注ぐ頃には、いかにも緑茶りょくちゃの香りが漂い始める。


「香りが今までの緑茶りょくちゃより強いのか?」

「口にすると、よりわかるそうです」


 そうした言葉を交わしていると、サノスがティーカップにお茶を注ぎ始めた。


「どうぞ、飲んでください」


 サノスの勧めに従いティーカップを手元に寄せると、緑茶りょくちゃ独特の香りが俺に迫ってくる。

 見た目は今まで嗜んでいた緑茶りょくちゃとは違い、実に綺麗な透き通るような薄緑色だ。

 香りと色合いに心を踊らせながら一口含めば、東国あずまこく緑茶りょくちゃ特有の香りが強く感じるし、口の中のトリッパを洗い流す味が広がる。


「『やぶきた』と言う銘柄だそうです」

「やぶきた? 聞いたことがない銘柄だな。これは俺好みの味と香りだ」


「やっぱり師匠はこの手のお茶が好きなんですね」

「ああ、どちらかと言えば、紅茶こうちゃよりも緑茶りょくちゃが好きだ。何よりこの一杯のような香りと味が好きだな」


「師匠の好みに合って何よりです」


 そんな会話をサノスとしながら、食後のお茶を楽しんだ。


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