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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月6日(月)

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25-8 ヘルヤさんへの接客


(カランコロン)


 シーラと次の話へ進もうとした時に、店の出入口に着けた鐘が鳴った気がした。


 シーラにも聞こえたのか、契約書を入れようとカバンへやった手を止めている。


((は~い いらっしゃいませ~))


 サノスとロザンナの声が聞こえる。

 やはり来客が来たようだ。


「フフフ、サノスさんとシーラさんが接客してるのね」


「そうだな、二人に任せれば大丈夫だろう。それで、シーラは商工会ギルドからの伝令を受け取ってるんだよな?」


「うん、その伝令だけど⋯ この街は凄いね」


 シーラがそう告げながら、膝に乗せたカバンの中を漁り始め、商工会ギルドの封筒を出してきた。


「この街が凄い?」


「だって、私がお姉さまの所へお世話になったその日に、商工会ギルドから伝令が届くんだよ」


「あぁ、それか(笑」


「それか? イチノス君は何か知ってるの?」


「シーラは、商工会ギルドや冒険者ギルドへの会員としての登録は済んでるんだよな?」


「それはやったよ。保証人が3人でしょ? サルタンに居た時には、そんな仕組みじゃなかったから、ウィリアム様とフェリス様、それにコンラッドさんが保証人になってくれたけど?」


 確かに、両ギルドへの登録での保証人制度は、ランドル領とその周辺が主流だから、サルタン領で過ごしていたシーラが知らないのも無理はない。


「その人達がシーラの登録の保証人になったら、ギルドは注目すると思わないか?」


「えっ? あぁ⋯ いや、待って。それでも引っ越した直ぐなんだから、今の私の住まいまではわからないと思うんだけど?」


 シーラはなかなか鋭い点を突いてくるな。


「それは街兵士だよ」


「街兵士?」


「今のシーラは街兵士副長のパトリシアさんの所にお世話になってるんだろ?」


「うん」


「シーラも俺も相談役に就任しただろ?」


「うん そうだけど?」


「保証人に領主と領主代行が名前を並べている上に国家事業の相談役に就任した。シーラはそんな重要人物となったから、街兵士達に護衛や警戒の通達が出てるんだよ」


「えっ?!」


「シーラはここ数日は街兵士に挨拶を重ねてるよな? 例えば氷室へ行った時に街兵士に敬礼で挨拶したりしただろ?」


「いや、あれはお姉さまから、街兵士に敬礼されたら返してやってくれって言われたし⋯」


「今日もここへ来る途中に敬礼されただろ?」


「うん⋯ お姉さまのところからここまで何人もの街兵士さんに敬礼されたし、お店の向かいの女性街兵士さんにも敬礼されたけど、あれはアイザックさんが一緒にいたから⋯」


 やはりシーラは店へ来る途中でアイザックに会ったんだな(笑


「そうして街兵士の挨拶に応える度に、護衛対象のシーラを何処で見掛けたかを街兵士達は共有してるんだよ」


「待って待って、護衛対象って⋯ 私はそんな身分じゃないよ」


「ししょ~ ヘルヤさんがいらしてますぅ~」


 階下から俺を呼ぶサノスの声が聞こえた。


「シーラ、すまんが客が呼んでるようなんだ」


「あっ、それなら私も一緒に降りる」


 そう応えたシーラと共に書斎を出て階下へと降りていった。


「イチノス君 借りるね」


 階下に降りるとシーラはそう告げて小走り気味に用を済ませに行った。


 俺は作業場へ向かうと、ロザンナが作業机の上を片付けている。


「ロザンナ すまんな」


「いえ、大事なお客様ですから、直ぐに片付けます」


 そんなロザンナの返事を聞きながら店舗へ顔を出すと、見覚えのある街娘姿のヘルヤさんをサノスが接客していた。


「おう! イチノス殿」


「ヘルヤさん、お久しぶりです」


「そうだな久しぶりだな。ちょっと仲間を迎えに行ってたんだ。その節は助かったよ」


 ヘルヤさんが、サノスの顔をチラリと見ながら告げてきた。


 多分だが、ヘルヤさんは『エルフの魔石』の件を、サノスの前では口に出来ないのを理解して言葉を選んだのだろう。


「そうですか、それは良かったです。今日はご予約をいただいた『湯出しの魔法円』のお渡しですよね?」


「おう、その件もあるんだが、別件で相談があるんだ」


「別件で相談ですか?」


 そこまでヘルヤさんと会話を交わしたところで、彼女の視線が俺から外れて作業場の方へ向かった気がした。


 これは作業場の片付けが終わり、ロザンナが準備ができたと顔を見せたのだろう。


「ヘルヤさん、詳しいお話を伺いたいのですが、その別件はサノスや店の従業員が同席しても問題ない話でしょうか?」


「おう、問題ないぞ(ニヤリ」


 暗に『エルフの魔石』の話じゃ無いよな?

 そう念を押すと、ヘルヤさんの口元に理解を示す『ニヤリ』が見えた。


「実はな、水出しと湯沸かし、それにできれば氷を作れるやつが欲しいんだ。イチノス殿の店なら⋯」


「ヘルヤさん「あります!」」


 俺の隣で話を聞いていたサノスが声を出し、さらには作業場の方からロザンナの声が聞こえた。


 そんな二人を軽く手で制してヘルヤさんへ告げて行く。


「わかりました。奥でお話をお聞かせください。サノスにロザンナ、ヘルヤさんを奥へご案内してくれるか?」


「「はい! 喜んで!」」


 おい、お前らは別の何かに喜んでないか?(笑


 ◆


 その後、作業場にヘルヤさんを案内し、普段はロザンナが座っている席に着いてもらった。


 サノスとロザンナには、俺とシーラが座っていた席に着かせた。


 3人が座ったところで、俺は席には着かずに立ったままで切り出す。


「ヘルヤさん、大変に申し訳ありませんが、現在2階で別件の打ち合わせ中なのです。そこでまずはご予約をいただいた『湯沸かしの魔法円』のお引き渡しを先にさせていただきたいのです」


「そうか、イチノス殿は多忙なのだな。それなら日を改めた方が良いのじゃないのか?」


「いえ、ヘルヤさんには昨日も足を運んでいただいたと聞いております。度々、ヘルヤさんにご足労をいただくわけには行きません」


「ま、まあ⋯」


「そこでまずは、ご予約をいただいた『湯出しの魔法円』のお引き渡しをさせてください」


 そこまで告げて、俺は軽くお辞儀をして強く願う姿勢を見せてみた。


「ま、まあそうだな」


 よし、俺の言い切る言葉にヘルヤさんが頷いたぞ。


「実はご予約をいただいた『湯出しの魔法円』ですが、こちらのサノスが描いおります」


「なんと?! サノスさんが作ったのか?」


 ヘルヤさんの言葉にサノスが軽くお辞儀で応えた。


「はい。ヘルヤさんの予約ならば、是非とも製作したいとサノスが申し出たのです」


「そうか。サノスさん、ありがとう」


 良い流れだぞ。

 ヘルヤさんが俺の意図に乗ってくれた感じだ。


「つきましては、現物の引き渡しはサノスの方からご案内をすることでお願いします」


「それは、実際の製作者であるサノスさんと話が出来ると言うことだな?」


「はい、そのとおりです」


「それは私としても全く問題ないぞ。私の工房でも、同じように作成者が依頼主へ引き渡しするのだ。理解できるぞ」


「ご理解をありがとうごいます」


 良し。

 完全にヘルヤさんが流れに乗ってくれた。


「では、サノスはヘルヤさんへお渡しする湯出しを準備してくれるか?」


「はい!」


「ロザンナは、その湯出しでお出しするお茶の準備を頼めるか?」


「はい!」


 元気に返事をした二人が席を立ち、サノスは棚から『湯出しの魔法円』を取り出して机に置いて行く。


 ロザンナは台所へ向かい、お茶の準備を始めた。


「では、ここからはサノスが担当しますので、何なりと要望や質問をお伝えください」


「わかった サノスさんよろしくな」


「はい、お任せください」


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