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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月6日(月)

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25-7 『記憶力(きおくりょく)』


 シーラを迎える仕度をするからと告げて、俺だけ先に2階へ上がった。


 2階の書斎に入ってまず最初にしたのは、フェリスから預かっている『魔鉱石まこうせき』を入れた書斎机の引き出しに、鍵が掛かっているかどうかを確認することだった


 続けて、書籍を置いていた予備の椅子から書棚へ本を移動して、シーラが座れる場所を作った。


 他にシーラに見られて困る物が表に出ていない事を指差し確認してから、廊下へ出て階下へ声を掛けた。


「シーラ、良いぞぉ~」


 すると、サノスとロザンナ、そしてシーラの何かを話す声が聞こえて、続いて階段を上がる音が聞こえた。


「お邪魔しま~す⋯」


 書斎へ戻ってシーラを待つと、開け放った扉の向こうでシーラが申し訳なさそうな声を出した。


「片付いていないが、我慢してくれ」


 俺はシーラを書斎へ迎え入れ、普段から座っている椅子と予備の椅子を選べるようにシーラへ勧めた。


 それに応えて、書斎の中を見渡しながら入ってきたシーラが呟いた。


「イチノス君、私が2階に上がって良かったの?」


 これは階下したでサノスとロザンナに何かを吹き込まれたな(笑


「確かに2階にはサノスもロザンナも入れてないな。まあ、シーラなら問題無いだろう」


 シーラは無言のまま、書斎の棚に納めた本や黒っぽい石を入れた箱、それに魔法円を描く際に使う木板などを興味深そうに眺めている。

 まあ、同じ魔導師の書斎だから気になるのだろう。

 一通り棚を眺めたシーラの目線が落ち着いてきた。


「シーラ、気になるのか?(笑」


「ここは、イチノス君の魔導師としての工房でもあり研究室でもあるのね。ここは良い書斎だわ」


「褒めてくれてありがとう。色々と置いてるから、その付近にあるものには手を触れないで欲しいかな」


 そう告げると、シーラが持ち上げようとしていた『改良型魔石光スペクトラル計測器』に掛けられた布から、慌てて手を離した。


「まあ、とにかく座ってくれるか?」


 シーラが斜め掛けしていたカバンを予備の椅子に置いたので、俺はいつもの椅子へと座った。


「さて、まずは契約書からで良いよな?」


「うん、これが私に届いた契約書よ」


 そう言ったシーラが膝へ移したカバンから契約書を出してきた。

 それを受け取りながら、俺はギルドから預かった契約書をシーラの前に差し出した。


「俺が受け取ったのはこれだな」


「まずはお互いに受け取ったのに相違が無いことから確かめる?」


「そうだな、それから始めた方が良いだろう」


 やはりシーラは勘が鋭いな。

 預かった契約書を交換しただけで、最初に何をするべきかを察してくれた。


 互いに預かった契約書を、一言も喋らずに黙って中身を見て行く。


 チュンチュン


 また外で鳥達が鳴いているな。


 シーラの差し出してきた契約書と、俺が冒険者ギルドで預かった契約書、この二つに相違が無いかを洗い出すように読んでいった。

 1行ごとに、昼前に記憶に納めた契約書の文言と突き合わせて行く。


 結果的に、俺がギルドから持ち帰った契約書とシーラの差し出してきた契約書は同じだと判断した。


 ブツブツ


 シーラの契約書を読む声が聞こえる。

 その読み上げる箇所は契約書の後半だ。

 もう間も無く最後まで読み終えるだろう。


「ふぅ~」


 最後の一文に続いてシーラの息を吐く声が聞こえた。

 俺はそれまで読んでいた契約書を、そっとシーラへ差し出す。


「ありがとう」


 そう告げたシーラは、2枚の契約書を並べて1行づつの比較を始めた。まあこれが普通なんだよな⋯


 チュンチュン


 それにしても、今日は外で鳴く鳥の声が良く聞こえるな。


「同じね」


 全ての確認を終えたらしくシーラが口を開いた。


「そうだな、俺も同じだと判断した」


「それにしても、イチノス君は学校の時から変わらないわね」


「ん? 何が?」


「その『記憶力きおくりょく』の良さよ。もう自分の契約書は全て覚えてるんでしょ? その『記憶力きおくりょく』を私も欲しいわ」


 シーラの指摘のとおりだ。

 俺は昼前に契約書を読み込んだことで、その全般を記憶の引き出しに納めてしまったのだ。


「そうかな? シーラの『記憶力きおくりょく』も図抜けてるだろ。それでなければ、あれだけ良い成績は出せないだろ?」


「ううん。所詮は私の『記憶力きおくりょく』は普通の魔導師と同じ程度よ(笑」


「いや、そんなことは無いと思うぞ。例えばだけど、製氷業者の魔道具。あれに使われていた魔法円もシーラは覚えてるんじゃないのか?」


「それはイチノス君も同じ魔導師なんだから覚えてるでしょ? だから同じよ(笑」


 シーラと交わすこの記憶力談義も、魔法学校の時から変わっていないな。


 実は魔導師として必要な素養には


 ・魔素が扱えるか

 ・魔素が見えるか


 この2つに加えて3番目に『記憶力きおくりょく』がある。


 そしてこの『記憶力きおくりょく』が、使える魔法の種類、規模や継続性などを左右するのも事実だ。


「イチノス君は『記憶力きおくりょく』の話しも、サノスさんやロザンナさんにするんでしょ?」


「するんだろうな。但しこれは『魔素を見る方法』とは違うからな。それに本人の興味や努力、そして反復でも成し遂げれるからな。それでも『記憶力きおくりょく』が魔導師にとって大切なことだとは、教えるんだろうな」


「そうだよね、実際に魔法を行使する時にも大切なことだからね」


「サノスに魔法を教える時には、そうした流れで『記憶力きおくりょく』については教えるんだろうな」


「イチノス君、聞いて良い?」


「ん? なんだ?」


「相変わらず、イチノス君の『記憶力きおくりょく』は、魔法以外ではダメなの?(笑」


「ダメだな」


「そうなんだよね。イチノス君は、昔っから自分が興味の無いことは、まったく覚えようとしないよね(ニヤリ」


 シーラ、その緑色の瞳をたたえた顔は可愛いらしいが、『ニヤリ』な口元が鬱陶しいぞ。


「もしかして、相変わらず古代語は覚える気は無いの?」


「無いな」


「わかった覚えたくなったら教えて。私がしっかりと教えて上げるから(フフフ」


「そうだなシーラに教われば完璧だろうな(ククク」


「フフフ」

「ククク」


 どうしてこんな話で互いに笑い合うんだ?


 まあこれで契約書の件については、問題ないことが確認できたんだ良しとしよう。


「次は商工会ギルドからの伝令の件でいいか?」


「そうだね」


(カランコロン)


 シーラと次の話へ進もうとした時に、店の出入口に着けた鐘が鳴った気がした。


 シーラにも聞こえたのか、契約書を入れようとカバンへやった手を止めている。


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