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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月6日(月)

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25-5 ランチの始まり


 店舗から持ってきた椅子をどこに置くか一瞬迷ったが、シーラの『そこにしましょう』という一言で、いつも俺が座る席の隣に置いた。


 若干、狭くなるが、まあ、ここに置くのが一番妥当だな。

 サノスとロザンナの席は、変わらずに作業机を挟んだ俺の向かい側だ。


 シーラが昼食に持ってきてくれたのはバゲットサンドだった。

 それをサノスとロザンナが台所で切り分けて、シチュー皿へ盛り付けて出してくれた。


 そんなバゲットサンドに合わせて、サノスとロザンナが準備した飲み物は熱い紅茶で、実に良い組み合わせだ。


 俺とシーラは紅茶は熱いままでいただいたのだが、サノスとロザンナは早々と俺が貸し出した製氷の魔法円を取り出してアイスティーにしていた。


 その様子を隣に座って眺めていたシーラが問い掛けてきた。


「イチノス君、サノスさんとロザンナさんが使ってるのって『神への感謝』が無いから、イチノス君が描いたのだよね?」


「そうだな、新作の魔法円として描いてみたんだ。二人に貸し出して使い勝手を調べてもらってるんだよ」


 そこまで答えると、今度はサノスに向かってシーラが問い掛けた。


「サノスさんは、今は製氷の型紙を描いてるわよね?」


「はい、そうです」


「2つの魔法円に触れてて、迷わない?」


 ん? シーラが面白いことを言い出したな。


「2つに触れて、迷う? ですか?」


 サノスが答えながら、首を傾げて俺を見てきた。俺に答えろと言うことか?


 そう思ったが、むしろ俺はそこから魔法学校時代のあることを思い出した。


「シーラ、まだサノスは型紙を描いてる最中だから、それほど迷わないと思うぞ」


「私はイチノス君が描いた水出しで迷ったどころか、寝れなくなったわよ」


「ククク そうだな。そんなこともあったな(笑」


 やはりシーラが言いたいのは、魔法学校の時のあの事のようだ。

 なんとも懐かしい話をシーラが持ち出してきたな。


 魔法学校時代に、『神への感謝』を備えない『水出しの魔法円』を描いたのだが、それをシーラが目敏めざとくく見つけたのだ。

 その『魔法円』をじっくりと眺めたシーラから出た言葉は『後学のために貸してくれ』だった。

 断る理由もないので貸したのだが、翌日にシーラが寝坊して遅刻して来たのだ。


「シーラさん、聞いて良いですか?」


 今度はロザンナが手を上げて聞いてきた。


「シーラさんは、水出しの何に迷ったんですか?」


 なるほど、水出しを描いている真っ最中のロザンナとしては気になる話なのだろう。


「それはね、イチノス君が描く魔法円は『神への感謝』が無いでしょ?」


「「うんうん」」


「これは学校時代の話なんだけど、私がイチノス君の描く『神への感謝』が無い魔法円を見た時に凄い衝撃を受けたの」


「「へぇ~」」


「実際に魔素を流すときちんと水も出るでしょ? その事で凄く悩んだのよ」


「「⋯⋯」」


「それまで私が知ってる魔法円は全部が『神への感謝』を備えてて、それが当たり前だったのよ」


「「⋯⋯」」


 いくぶん熱く語るシーラの話を、サノスとロザンナは黙って聞いている。

 どこで口を挟むか、迷っているのだろうか?(笑


「それでね、イチノス君が描いた魔法円を借りて自分の部屋に戻って、色々と比較してみたの」


「比較してみた? シーラさん、それってイチノスさんが描いて店で売ってるのと、私が描いてるようなのを比べたってことですか?」


「そう、自分で描いた『水出しの魔法円』とイチノス君が描いたので、違いが知りたくて一晩中調べたの」


 ロザンナのなぞるような言葉にシーラが素直に答えた。

 すると、それまで黙って聞いていたサノスが再び手を上げた。


「すいません、シーラさん。違いがあるのはわかりますけど、何に迷ったんですか?」


 サノスの問いかけにシーラが俺を見つめている。ここで俺から何かを言えというのか?

 仕方がないな。サノスとロザンナの現状をシーラに伝える機会だと考えて気持ちを切り替えよう。


「サノスにロザンナ」


「「はい」」


「二人は魔法円に流れる魔素は見えるか?」


「「うっ!」」


 二人がそれぞれ異なった表情で一瞬固まったが、俺はそれを無視してまずはロザンナへ問い掛ける。


「ロザンナは、まだ見えないんだよな?」


「はい、見えるようになりたいんですが⋯」


 俺はロザンナの返事に頷いて、隣に座るサノスへ問い掛ける。


「サノスは集中すると見えるんだよな?」


「はい、魔石を握って集中すると見えます」


 俺はサノスの返事にも頷いて言葉を続けた。


「二人とも落ち着いて聞いてくれるか?」


「「はい」」


「俺の描いた水出しも『神への感謝』を備えた水出しも、確かに見た目は違うが、水を造り出す原理は同じなんだ。シーラが言わんとしているのは、魔法円に流れる魔素の流れ方とか、魔素がどう動いて行くか、そして魔素がどう働いて行くか、そうした違いがあるということなんだ。この違いは、魔法円に流した魔素が見えないと気づかないことなんだよ」


「「??」」


 サノスとロザンナの頭に疑問符が浮かび、首を傾げている。

 俺の説明では二人の疑問は解消できないか⋯


 これは二人の疑問を解消するのは大変だな。

 まったく、シーラはどうしてこんな話を投げ込んできたんだ?


「シーラ、サノスとロザンナはまだそれほど魔素が見えていないから、違いや原理を学ぶのは直ぐには難しいんだよ」


「??」

「?!」

「⋯⋯」


 シーラは首をかしげた。

 サノスは複雑な顔をしている。

 ロザンナは黙った。


 三者三様に半ば固まった状態で、最初に再稼働したのはシーラだった。


「イチノス君、聞いていい? サノスさんとロザンナさんに魔素の見方を教えてないの?」


「教えてないな」


「ふーん 教える気は無いの?」


 シーラが窘めるような口調で俺に詰め寄ってきた。

 それに答えず、俺は残りのバゲットサンドを紅茶で流し込むと、机の向こう側から強い視線を感じた。

 サノスとロザンナが俺を見ている気がするのだが⋯


「シーラさん、魔素を見れるようになる方法があるんですか?」


「あるわよ。私も最初は見えなかったけど、その方法に気付いて練習して見えるようになったの」


 とうとうロザンナが核心を突く質問をし、シーラがそれに答えた。

 そういえば、学校時代にシーラはそんなことを言っていたな。


「師匠、確実に魔素が見れるようになる。そんな方法があるんですか?」


「イチノスさん、そういうのは弟子入りしないと教えてくれないんですか?」


 おいおい

 そこで俺に飛び火するのかよ?!

 てっ⋯ 何で二人が揃って目を細めてるんだ?


「ロザンナ、弟子入りした私にも師匠は教えてくれないんだよ」


「センパイ、それはひどい話です」


(ククク)


 シーラ 笑い声が漏れてるぞ。


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