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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月15日(日)

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3-9 彼女は高名な彫金師でした


「驚きました。まさか高名な彫金師のホルデヘルク殿ご本人とは!」


 ヘルヤさんと熱い会話を重ねた若い街兵士が店に戻ってきて、熱い言葉で俺に語り続けている。


 いつになったら若い街兵士は黙るのだろうかと思いながら、俺は興味の無い彼の話を聞き続けている。

 いや『聞かされ続けている』が正しい表現だろう。

 そろそろ俺のつくり笑顔も限界が近付いてきた。


「お話の途中ですいませんが、ご用件を願えますでしょうか?」

「あっ、す、すいません。イチノス殿に語るなどと言う大変に失礼なことをしてしまいました。どうか、どうかご容赦を願います」


 どうやら若い街兵士は俺の素性を思い出したようで、平謝りな態度を見せてきた。

 そんな若い街兵士に俺は優しく声を掛ける。


「私の素性は気にせずに。この店に足を運んでくれたということは、店で扱う品をお求めと思ってよろしいでしょうか? そうであれば私には大切なお客様です」

「あ、ありがとうございます」


 なぜか若い街兵士が緊張し始め、その緊張が俺に強く伝わってくる。


カランコロン


 店の出入口に着けた鐘が鳴った。

 見ればサノスが両手で籠を持ちながら店に入って来た。

 どうやら全てのお使いを終えて、戻って来たようだ。


「いらっしゃいませ~」


 来客である若い街兵士に気付いたサノスが声を掛ける。

 サノスの声に、若い街兵士の俺に対する緊張が解けた気がした。

 若い街兵士は、両手で籠を持つサノスに近寄り声を掛ける。


「お嬢さん、私がお持ちします」

「えっ? は? いえ⋯」


 サノスは若い街兵士の申し出に答えながらも俺を見てくる。

 これは俺に台所へ運べと訴えているのだろう。

 サノスの持つ籠には、きっとシチューが入った両手鍋とパンの類いが入っているのだろう。

 それを若い街兵士に持たせたら、彼を店の奥の作業場や台所に連れて行く必要がある。

 サノスはそうしたことを懸念して、俺に目線で訴えてきたのだろう。


「いえ、お客様に荷物持ちなどさせられません。サノス、私が奥へ運ぶからお客様のご要望を伺ってくれるか?」

「はい。お客様、どういった物をお求めでしょうか?」


 俺がカウンターから出て、サノスの両手から籠を受け取ると、直ぐにサノスは接客を始めてくれた。


 サノスがお使いで連れて帰ってきた籠を作業場の奥の台所まで運ぶ。

 作業机に残されていたヘルヤさんに出したティーセットも台所へ運んで、全ての洗い物を済ませるとサノスが台所に顔を出してきた。


「師匠、洗い物まで⋯ すいません」

「気にするな。それより、お客様は大丈夫なのか?」


「はい。私のお客さんでした」

「私のお客さん?」


「ハーブティーの種です」

「ふっ。それで私のお客さんか?(笑」


 サノスの表現に思わず笑ってしまった。


「師匠。少し早いけど、お昼ご飯にしますか?」

「そうだな、朝も食べてないから早目に食べるか」


「じゃあ、直ぐに温めますね」


 そう言ったサノスは俺と入れ替りで台所に入り、籠からパンや両手鍋を出し始めた。



 作業場のいつもの席にサノスと向い合わせで座り、早目の昼食を取りながらサノスのお使いの成果報告を聞く。


 ちなみにサノスが買ってきたシチューはオークのトリッパだった。

 トリッパは通常は牛の胃袋を使う、言わば内臓料理だが、辺境の歴史を持つリアルデイルの街では、豚の魔物であるオークの内臓が使われている。

 リアルデイルに来た時に食べてから、俺はこの味に嵌まっている。

 王都でもオークのトリッパは食べられるが、新鮮な内臓が手に入らないのか、下処理が甘いのか臭みが強い感じがした。

 それがこのリアルデイルで食べてみると、臭みを感じなかったのだ。

 やはり地方料理は地方で食べるのが相応しいと学んだ料理だ。


 サノスのお使い報告は花屋から始まった。


「最初に花屋に寄って注文しました。フェリス様に花を贈りたいと伝えたら、直ぐに受け付けてくれました」

「ハーブティーの種もか?」


「ええ、何も問題なく受けてくれました。面白い話しもありましたよ」

「待て。その話しは長いのか?」


 サノスの口ぶりから、長そうな話しで脱線しそうな感じがして待って貰った。


「な⋯ 長いかな?」

「今聞いた方が良ければ聞くし、花屋の次が大衆食堂で終わるんなら聞いても良いが⋯」


「花屋の次は雑貨屋とギルドです。最後が大衆食堂ですね」

「ギルドにも寄ったのか?」


「ハーブティーの種が売り切れそうなんです」

「??」


 一瞬、サノスの言っていることが理解できなかった。

 店に置いているハーブティーの種は、俺がポーション作りで使用した薬草をサノスが再利用で作ったものだ。

 サノスの言うハーブティーの種が売り切れそうと言うのは⋯


「もしかして、店に置いているポーションも売り切れそうなのか?」

「ポーションの在庫は10を切ってないですけど?」


「ハーブティーは?」

「残り5です」


 うーん。

 予想外にハーブティーの種の売れ行きが良い気がする。

 いや、フェリスに出したり、このところ気軽に使い過ぎて在庫切れしそうなのか?


「茶の葉が切れてたんで雑貨屋で買って、次にギルドで今月の薬草の入荷日を確認したんです。そうそう、雑貨屋で面白い話がありましたよ」

「サノス、ちょっと待ってくれ。ポーションの在庫があるなら薬草の入荷は急がないぞ」


 俺がポーションの在庫と、ハーブティーの種の売れ行きを考えていると、サノスが続きを報告し始めた。

 慌ててサノスの話を止めると、サノスが首を傾げてくる。


「花屋に寄って注文を済ませた。次に雑貨屋で茶の葉を買ってきた。ギルドで薬草の入荷日を確認した。最後に大衆食堂でシチューとパンを買ってきた。これであってるな?」

「コクコク」


「サノスとしては、ハーブティーの種の在庫が切れそうで心配だと言うことだな?」

「コクコク」


カランコロン


 そこまで話したところで、来客を知らせる鐘が鳴った。


登場人物

 若い街兵士

 サノス

舞台

 イチノスの店舗兼自宅

  1階

   店舗

   作業場

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