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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月6日(月)

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25-2 やるべきことを始めずに他のことを始めてしまう


 ヘルヤさんの接客をサノスに任せる話に続いて、今週の他の予定も二人へ伝えていった。


 その結果、ロザンナが書き上げてくれた予定は、俺の渡したメモ書きと大差のないものになった。


 6日(月)ヘルヤさんの来店予定

 7日(火)商工会ギルド 魔石の入札

      カレー屋で水出し

 8日(水)

 9日(木)商工会ギルド 入札結果

10日(金)店は休み

11日(土)

12日(日)


「じゃあ、今週、イチノスさんが不在なのは、明日の7日と9日の昼前ですね」


「ロザンナの言うとおりだな。だが、その下に書いてある、領主別邸からの返事で変わることも理解してくれるか?」


 そこまで告げ、ロザンナに渡したメモ書きを指差して、二人へ説明を続けていく。


「先方の予定に合わせて領主別邸へ行くことになるから、日にちが決まると、その日は店にいないと思ってくれるか?」


「わかりました」

「師匠、領主別邸へ行くのはやっぱり相談役の仕事ですか?」


 ロザンナは素直に頷いたのだが、メモ書きを眺めていたサノスが聞いてきた。

 何でサノスがそんなことを気にするんだ?


「まあ、そうだな。そう考えてくれるか? サノス、何かあるのか?」


「いえ、特にありませんが、師匠が忙しくなって店にいないことが増えているな~ と思ったんです」


 サノスから返ってきたのは、なかなかに鋭い指摘だが含みを感じるものだ。

 確かに、先月の今頃までは、俺がこれほど外出することはなかった。

 サノスはそうした比較をしているのだろう。


「そうだな、サノスの言うとおりだ。このところ店を空けていることが多いが、二人がきちんと店番をしてくれて助かってるよ」


「「うんうん」」


「さあ、店を開けて仕事を始めようか?」


「「はい!」」


 二人が元気に返事をして席を立ち、バタバタと動き始めた。


 俺はサノスとロザンナに後を任せ、壁に掛けた外出用のカバンから冒険者ギルドで預かった相談役の契約書を取り出し、2階の書斎へ向かった。


 昨夜、大衆食堂から戻った時に眺めようかとも思ったが、自身が酔っていることを自覚して、歯を磨いて寝室へ向かったのを、階段を登りながら思い出す。


 契約書を片手に書斎の扉に施した魔法鍵を解除し、書斎へ足を踏み入れた。書斎机の上に契約書を置き、窓に掛かったカーテンを開けると、明るくなった室内を見渡した。


 うん、変わりはないが、少し机の上を整理した方が良さそうだ。


 アイザックが届けてくれた小箱はともかく、机の上に置かれたその他諸々の小物が、なぜか気になる。


 商工会ギルドへの報告を書く際には気にならなかったが、契約書を読み込むには、少々、気が逸れそうな気がしてきた。


 書斎机の上に置かれた小箱やら小物やらを空いている棚へ移し終えたところで、『黒っぽい石』を置いた棚へ目が行った。


 領主別邸へ行く際には、あの『黒っぽい石』の一つでも持って行った方が良いのだろうか?


『これが欲しくて瓦礫を持ち帰りました』


 そんな説明をした方が良いのだろうか?


 いや、領主別邸へ出向く日程が決まってから考えよう。

 そう思い直したところで、自分の手が埃で汚れているのに気が付いた。

 これは少し雑巾で拭いた方が良さそうだ。


 階下へ降りて、棚や机を拭くための雑巾がないかと台所を探すと、すぐに見つかった。


 水瓶みずがめから水を出し、雑巾を濡らしてから絞って、書斎へ戻り、まずは机の上を拭いていくと、なかなかの汚れだ。


 最後に掃除したのはいつだろうか?

 店を開けてから書斎机の上を掃除した記憶がないな。

 サノスの言葉ではないが、余裕のある先月にでも掃除をしておくべきだったな(笑


 そんな後悔を抱えながら、二度ほど台所と書斎を往復し、書斎机と棚の埃を拭きあげた。


(カランコロン)


 この後は腰を据えて契約書を読み込もうと台所で雑巾を洗っていると、店の出入口につけた鐘が鳴った。今日最初のお客さんだろうか?


「「は~い いらっしゃいませ~」」


 サノスとロザンナの条件反射な声が台所でも聞こえた。


 バタバタと、一人分の足音が店舗へ向かう。

 二人のどちらかが応対したのだろうと思いながらも、俺への用件の可能性を考えて作業場を覗くと、ロザンナが残っていた。


 ロザンナは相変わらず、魔素ペンを片手に眉間に皺を寄せている。


(イチノスさんに伝令です)


 店舗から聞こえるのは、俺への伝令を知らせる声だ。


(少々お待ちください)


 声と共に、サノスが作業場へ戻って来た。


「あっ、師匠、商工会ギルドから伝令が来てます」


 商工会ギルドから伝令?

 何の用件だ?


 そう思いながら、サノスと入れ替わりで店舗へ顔を出すと、赤と白の縞模様のベストを着た少年がカバンを斜め掛けし、白い封筒を手にして立っていた。


「イチノスさん こんにちわ」


 この少年は、先週の中頃に製氷業者との打合せの伝令を持って来た少年だ。


「こんにちは、誰からの伝令かな?」


「商工会ギルドのメリッサさんから、イチノスさん宛の伝令です」


「わかった受け取ろう」


 伝令と共に差し出された受け取り証を見ると、『承諾』『保留』『拒否』の欄があり、先週と同じで返事を要する伝令だとわかった。


「もしかして、返事が必要な伝令か?」


「はい、お願いできますか?」


 少年の返事に急いで封筒を開けると、こんな手紙が入っていた。


魔法技術支援相談役

 イチノス 殿


 ベネディクト・ラインハルト氷商会への視察および指名依頼の完了報告をありがとうございました。


 そのベネディクト・ラインハルト氷商会から、定期保守契約の相談が来ております。

 つきましては、以下の日時で会合を持ちたく、ご連絡をさせていただいた次第です。


 日時:6月7日(火)11時

 場所:商工会ギルド


 リアルデイル商工会ギルド

 担当 メリッサ


「イチノスさん、返事をお願いできますか?」


 少年がそう告げて、店のカウンターに置かれた受け取り証を差し出してきた。


 明日の11時とは、何ともメリッサさんの意図を感じるな。

 明日は、魔石入札のために俺は10時に商工会ギルドへ行く予定だ。

 メリッサさんはその後に、製氷業者との会合を開こうとしていないか?


 それに、製氷業者との定期保守契約を結ぶ話しならば、シーラと相談した上で考えて行きたいんだが⋯


「イチノスさん、返事はどうしますか?」


「ん? そうだなすまんが⋯ 『拒否』でお願いできるか?」


「わかりました。それなら、受け取り証の『拒否』にサインをお願いします」


 受け取り証の『拒否』へサインをしようとして手が止まる。


 いや、もしかしてこれはメリッサさんの心遣いじゃないのか?

 俺が商工会ギルドへ出向く手間を減らすために、この日時で会合を設けようとしている可能性もあるぞ。

 いかんな。どうも今の俺は、メリッサさんに良くない感情を抱いている気がする。

 それに、もしかしたらシーラにも同じ伝令が行ってる可能性がある。


「すまんが、ちょっと教えてくれないか?」


「はい、何ですか?」


「昨日か今日、俺と同じ相談役のシーラ魔導師に、商工会ギルドのメリッサさんから伝令が出てるかな?」


「はい?」


 少年の頭に疑問符が浮かんだ。

 そうだよな。そんなことまで、この伝令を持って来た少年が知っているわけがないな。


「いやすまんな、変なことを聞いて」


「いえ気にしません。返事をお願い出来ますか?」


 俺は、少年の促しに応えて『保留』にサインをした受け取り証を手渡した。


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