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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月5日(日)

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24-12 南街道の地図


 その後の話し合いで、俺からの調査隊への依頼は、ウィリアム叔父さんへの報告が済んでから改めて冒険者ギルドへ出すことで落ち着いた。


 その話し合いの中で、現段階での古代遺跡の様子や、冒険者ギルドで計画している調査隊の日程を知ることができた。


 今の古代遺跡のある魔の森では、サカキシルに集まった冒険者達を動員して、あの西街道から古代遺跡へ藪漕ぎした獣道を整備している最中だと言う。


 そして次の調査隊は、6月20日の月曜から27日の月曜の1週間で計画しているそうだ。


 そうした話しに区切りが着いたところで壁の時計へ目をやれば、既に4時を回っていた。


「じゃあ、イチノスさんの依頼の件は、ウィリアム様への報告の結果待ちで良いわね」


「では、私はイチノスさんの報告を支援する連絡を準備します」


「そうね。カミラさん、よろしくね」


 キャンディスさんが話し合いの締めを唱える言葉を口にして、カミラさんがそれを追いかけると応接から立ち上がった。


 カミラさんがそのまま急ぎ足で退室したところで、タチアナさんも腰を上げようとした。


「じゃあ、私も⋯」


「いえ、タチアナさんは少し残って」


「俺はいいですよね?」


「いえ、イチノスさんも残って欲しいの。魔物の出現傾向で気になることがあって、二人にはもう少しだけ話を聞いて欲しいの。直ぐに済むから」


 そんなキャンディスさんの言葉で、もうこの後は風呂屋へ行って大衆食堂に寄って帰宅の流れが決まった気がした。


 俺とタチアナさんが見守る中、再びキャンディスさんが自身の執務机から何かを手にして応接へ戻ってきた。


 彼女の手には、まるで子供が落書きでも描いたような紙が握られている。


 キャンディスさんは、その紙を応接机へそっと置いた。


   リアルデイル

 │   ││

 西   ││

 ノ   ││

 川  X││

 │ XX││X

 │ XX││

 │ XX││

 │  X││

 │   ││X

 │   ││

    サウル


 これは地図か?

 随分と大雑把な地図だな(笑


 それでも、記されている街の名前から、南街道とその周辺の地図だとわかった。


「これって、南街道の地図ですか?」


「そうなの。今回の再開発事業では、王都からの開拓団が東街道を整備しながらリアルデイルへ来るでしょ? リアルデイルからは、ストークス領への南街道とジェイク領への西街道の整備なんだけど、西街道の整備は馬車軌道が主体になるのよ」


 キャンディスさんがつらつらと、今回の街道整備の話をしてくる。

 これは、タチアナさんへの再説明を混ぜているのだろう。


「それで、この『X』を着けたところが、南街道で魔物が出たとされている場所なの」


 なるほどね。

 キャンディスさんは、そうした視点で整理を始めてるんだ。


 改めて置かれた図を眺めていくと、南街道の西側、西ノ川寄りに『X』が多いのに気が付く。


 だが俺は、その気付きは口にせずに問い掛ける。


「キャンディスさん、これがどうしたんですか?」


「西街道はジェイク領から来た方々が整備を進める形で目処が立ちそうだけど、南街道をどうするかを考えてたの」


 なるほどね。原案はギルマスのベンジャミンが考えて、それをキャンディスさんへ丸投げでもしたんだろう。


「それで、西街道と同じで魔物の討伐を考えるので、ギルドに残っている記録から魔物が出た場所に印を着けてみたの」


「西街道の整備に目処が着いたら、南街道もやるんですね」


 キャンディスさんの説明にタチアナさんが進んで応えている。


 そんな会話を二人が始めたので、この先も俺がこの場に残る理由は無くなったなと感じてしまう。


 ここから先は、キャンディスさんとタチアナさん、それにカミラさんを交えて意見を交わして欲しいな。


「イチノスさん、何かを感じませんか?」


「えっ? う~ん まあ魔物が集まっている箇所というか見つかった箇所が集まっているぐらいですかね⋯」


 急に問われて、そんな返事しか出来ない。


「タチアナさんは?」


「う~ん イチノスさんと同じですね」


「やっぱりそうした感じしか無いわよね。引き留めてごめんなさいね」


 キャンディスさんの言葉で俺は応接から立ち上がった。

 空かさずタチアナさんも立ち上がろうとしている。


「じゃあ、これで失礼しますね」


「はい、イチノスさんの吉報をお待ちしています(笑」


 キャンディスさんも応接を立ち上がり、お辞儀を添えて丁寧な挨拶をしてきた。


 すると顔を上げたキャンディスさんが、タチアナさんへ思わぬ声をかけた。


「タチアナさん、洗い物は私がやっておくわ」


「えっ? 良いんですか?」


「時間を取らせてしまったお詫びよ」


「じゃあ⋯ お願いします」


 そうこうしてタチアナさんと一緒に執務室を出ると、階段を上がってくる足音がしてカミラさんの姿が見えた。

 どうやらカミラさんは用を済ませに行っていたらしいな。


「お疲れ様でした~」


 そう軽く挨拶をしたカミラさんが執務室へ飛び込んで行く。


 その様子を見届けた俺とタチアナさんは、逆に廊下を進んで階段を下りて行った。


「イチノスさん、聞いて良いですか?」


「ん?」


 階段の踊り場でタチアナさんが立ち止まって問い掛けてきた。


「イチノスさんが持ち帰った瓦礫って、何かの価値があるんですか?」


 タチアナさんは、なかなか鋭い指摘をしてくるな。

 さて、どう答えればタチアナさんが納得してくれるか⋯


「実は昨日のあの後、今度の調査隊の段取りを任されたんです⋯」


 一瞬、俺が答えを探していると、タチアナさんは呟くように言葉を続けた。


「そうなんですか? それは大役たいやくですね」


「えぇ、カミラさんやキャンディスさんが支えてくれると言うんですが⋯」


 あぁ、これはタチアナさんは悩んでるな。

 『大役たいやく』なんて、迂闊な言い方をしない方がよかったな。


「大丈夫ですよ。タチアナさんなら出来ますよ」


「そうですか⋯ なんか不安なんですよね⋯」


 今のタチアナさんは、漠然とした不安を感じているんだろう。

 出てくる質問は鋭いが、若干、心ここにあらずな感じだ。


 申し訳ないが、タチアナさんの心のケアまで俺は面倒を見切れないぞ。

 それに、調査隊の編成や在り方は、冒険者ギルドとしての仕事だ。

 俺が何かを言う立場ではないんだよな⋯


「タチアナさん、先ほどの質問に答えても良いですか?」


「あぁ、そうでした」


「あの瓦礫は、私の魔導師としての興味が強いんです」


「魔導師としての興味ですか?」


「えぇ、しかも私が個人的に感じた事なので、上手く皆さんへ伝えられないんですよ」


「はぁ⋯」


「価値と言う点で答えれば、本当に古代コンクリート製の瓦礫ですから、その付近に落ちている瓦礫と同じですよ」


「う~ん⋯ そんな物をイチノスさんは大変な思いをして持ち帰ったんですか?」


「ククク それが魔導師イチノスが抱く価値観なんですよ」


「う~ん⋯ 私にはわからないですね(笑」


「はい、多分ですが同じ魔導師のシーラでもわからないでしょうね(笑」


「シーラさんでもわからないんですか?」


「ククク そうなんですよ。同じ魔導師ですが、興味を抱くのは全く別な事が多いんですよ」


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