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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月4日(土)

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23-23 一日が終わろうとする


 夕陽に染まる景色の中、店を出て家路に着いたサノスとロザンナが女性街兵士と挨拶を交わす。


 それが済むと互いに軽く手を振り、それぞれの家の方へと向かった。


 そんな二人の様子を店舗の窓から眺めていた俺は、二人の姿が街並みへ消えたところで明日の定休日に備えて店の窓に備えたブラインドを全て降ろした。


 一気に暗くなった店内は静寂が深まり、街のざわめきも遠くなる。


 さあ、明日の準備を済ませて、今日の疲れを落とすために風呂屋へ行こう。

 風呂屋の後は大衆食堂でエールだな。


 俺はそう心に決めて、店の出入口に掛けた札を閉店を示す側へ返した。


 作業場へ戻り、机に置いていたブライアンからの伝令の封筒を開くと、冒険者ギルドの印の入った用紙が2枚出てきた。


 1枚目はブライアンからだ。


イチノスへ


 昨夜はすまなかった。

 急遽どうしても外せない用件で行くことが出来なかった。

 今度一杯奢るから許してくれ。


 ブライアン


 ククク 義理堅いな。

 誰でも急に用事が入るのは当たり前だ。

 たまたまあの時に、ブライアンは大衆食堂へ来れない用事が飛び込んで来たのだろう。

 また大衆食堂で顔を合わせた時にでも、一杯奢らせよう。


 そう思いながらもう1枚を開いて、俺は軽く固まってしまった。


 Cienījamais "Ičnos" kungs.


 ~以下翻訳~


 大変申し訳ございませんが、明日の日曜日の予約をキャンセルさせていただきたく存じます。

 何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。


 また改めて、イチノス様のご都合の良い日程で、再度の予約をお取りさせていただければと存じます。


 敬具

  ムヒロエ


 ククク 洒落がきついぞムヒロエ。

 どうしてエルフ語で書いた手紙なんだ?


 ムヒロエはエルフ語で書いた手紙でも、俺に伝わると判断したんだろう。


 だが考えてみれば、少し救われた気もする。


 あの正体不明の薄緑色の石について、ムヒロエを目の前に話し合う事態が回避されたのだ。


 俺の明日の用事は昼前に商工会ギルドへ出向き、指名依頼の報告を済ませる以外にやることはなく、ゆったりと過ごせそうだ。


 そもそも、ムヒロエからの魔石の鑑定依頼は、時刻すら決まっていなかったし、俺も自ら決める動きをしていなかった。

 そうした心の引っ掛かりから、俺は解放されたのだ。


 それに、ムヒロエの持ち込んだ薄緑色の石の正体さえ、俺はわかっていない。

 俺としてはフェリスに鑑定を願ったのだが、意味不明な呼び出しが返って来てしまった。


 逆に考えれば、これで領主別邸のフェリスに会いに行き、フェリスの鑑定結果を聞いて、ムヒロエと話し合いができる。


 ん?

 と言うことは、領主別邸へ出向くことが確定したのか?


 まあ、『勇者の魔石』の件でコンラッドに会いに行くのもあるから、まとめて済ますことにしよう。


 よし、商工会ギルドの指名依頼の報告書をさっさと書き上げて風呂屋へ行こう。


 ◆


 2階の書斎へ戻った俺は、早々に商工会ギルドへの報告書を書き終えた。


 それを改めて外出用のカバンに放り込み、届いた伝令を整理して、アイザックが届けてくれた小箱をどうするかで迷った。


 ムヒロエが来るまでだと考え、暫くは書斎机の上に置くことにした。


 その後、風呂屋へ行く準備を済ませ、書斎の扉に忘れずに魔法鍵を掛け、階下へ外出用のカバンを戻して一息入れる。


 これでいつもの位置に全てが戻ったことを確認した俺は、タオルと財布を手に急ぎ足で店を出て、何事もなく風呂屋へと辿り着いた。


 店の前

 ↓

 元魔道具屋

 ↓

 風呂屋手前のガス灯の下


 この3回の街兵士への王国式の敬礼を淡々とこなした俺は、迷うことなく風呂屋へ飛び込んだ。


 何人か見知った顔に軽く会釈しつつ


 蒸し風呂

 ↓

 水風呂

 ↓

 広い湯船


 そんな風呂屋でのいつもの順番を楽しんだ俺の体は、エールを求める体に仕上がって行く。


 夏へと向かうこの時期は、湯上がりにもう一度水風呂で汗を引かせるか迷うが、そこはこの後のエールを考えて軽く水を浴びる程度でとどめた。


 着替えを終えた俺は、再びガス灯下の街兵士に軽めの敬礼を済ませ、無事に大衆食堂へと辿り着く。


 ここまで都合4回の敬礼も何故か煩わしい気がしない。

 これも明日を含めたこの先の予定が軽くなったからだろう。


「イチノスさ~ん、いらっしゃーい」


 大衆食堂へ足を踏み入れれば、給仕頭の婆さんがいつもの声で迎えてくれた。


 そんな婆さんの顔を見て、シーラの言葉を思い出す。

 失礼な言い方だが、顔に年齢相応の皺を備えた婆さんが『キャサリン』という可愛らしい名前だとは驚きだ。


「エールでいいね」


「そうだな、まずはエールで頼むよ」


 婆さんの出してくる手にいつもどおりに最初の一杯分の支払いを渡すが、木札が出てこない。


 ん?


「どうせ、お代わりするんだろ」


 その言葉に従って、突き出された手にお代わり分の代金を払うが、やはり木札は出てこない。

 婆さんの顔を見れば、若干、険しい眼差しを店の奥へと向けている。


「婆さん! 火酒を頼む!」

「俺もだぁ~」

「俺も頼むぞぉ~」


「はいよ~ 火酒が3つだね~」


 婆さんを呼ぶ聞きなれない野太い声の主は、店内の一番奥の長机のようだ。

 店内はこの時間でも混んでおり、空いている長机は1つか2つ。


「串肉と夕飯も食べるんだろ」


「そうだな、まとめて頼むよ」


 そう答えて代金を払って、ようやく婆さんが木札を渡してきた。

 今日の昼食でも座ったいつもの長机には、二人の先客が着いていたが半分が空いている。

 俺が一人で長机を使うのも悪いので、先客の二人へ断りを入れて相席することにした。


「すいません、こちらの空いてるところで相席しても良いですか?」


「は、はい」

「どうぞ、どうぞ」


 先客二人は革の胸当てを着けており、冒険者のような感じの服装だが、どこか若い感じがする。

 冒険者としての経験は、それほどは重ねていないのだろう。


 二人とも記憶に無い顔で、どちらもアイザックと同い年ぐらいだろうか。


 席について改めて婆さんを呼んだ店内一番奥の長机へ目を向ければ、たくましい肩や二の腕を出しながらも革のベストを身に付けた、がっしりとした体躯の3人が見えた。


 彼らの容姿を確かめると、顔には大きな鼻が誇らしげにそびえ立ち、長目の降ろした茶髪と見事な髭⋯


 もしかしてドワーフか?

 これは少し嫌な予感がするな。


 ドン


「まずは最初のエールね」


 そう告げながら婆さんが、1杯目のエールを俺の前に置いてきた。


「おう、ありがとう」


 そう答えて差し出された婆さんの手へ木札を渡すと、婆さんは直ぐに厨房へと戻って行った。


 ゴクゴク


 俺は躊躇うことなく、エールを一気に乾いた喉へと流し込めば、風呂屋で出来上がった体にエールが染み渡って行く。


 プハァ~

 今日も一日が無事に終わった感じだな。


 ─

 王国歴622年6月4日(土)はこれで終わりです。

 申し訳ありませんが、ここで一旦書き溜めに入ります。

 書き溜めが終わり次第、投稿します。

 ─


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