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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月15日(日)
35/456

3-5 女ドワーフがやって来た


 ここまで『魔石』や『魔鉱石まこうせき』、『魔骨石まこっせき』に思いを巡らせていたら尿意を催してきた。


 この店舗兼自宅は1階が店舗と作業場、作業場の奥に小さな台所とお手洗いを配置している。

 お手洗い脇の階段を上がった2階には、俺の寝室と書斎を置いている。


 催した尿意を済ませるために階下に降りて行くと、店舗の方からサノスと女性の話し声が聞こえる。

 多分、サノスが来客の応対をしているのだろう。

 俺を呼んでいないこと、話し声が女性であることから、サノスが作ったハーブティーの種を買いに来た客か何かだろう。


 お手洗いで用を済ませ、作業場の本棚に戻した『魔石指南書』と勇者の魔石を作る計画を簡単に記したメモを取りに行く。


 作業場の机には、サノスが模写を続けている描き掛の『魔法円』と、御手本にしている『魔法円』が置かれていた。


「どれどれ、今度は成功するかな?」


 そう思いながら、サノスが描いている『魔法円』に指を這わすが『魔素』が『引っ張られる』感じはしない。


 『神への感謝』が反応していないんだなと考えていると、サノスが声を掛けてきた。


「あれ? 師匠、どうかしました?」

「店の方から声がしたが、お客か?」


「ええ、母の日でハーブティーの種を買いに来たお客さんです」

「母の日?」


 サノスのその言葉でフェリスを思い出す。


「駆け込みですね。母の日の贈り物に花だけじゃ寂しいから買いに来たみたいですよ」

「母の日⋯ いつだ?」


 俺がそう言うと、サノスが軽くため息をついて、目を細めた顔を見せてきた。


〉師匠、明後日は母の日ですよ


 思い出した!

 フェリスの訪問で先触れが来た際に、サノスが言っていたじゃないか。

 あれが昨日⋯ 一昨日だから⋯ 今日が母の日じゃないか!


(カランコロン)


 サノスとそんな会話をしていると、再び店の出入口に着けた鐘が鳴り来客を知らせてきた。


「はぁ~い。いらっしゃいませぇ~」


 そう言ってサノスが小走りに店舗に戻って行く。


(いらっしゃいませ~何をお求めですか?)


 サノスが接客する声が聞こえる。

 こんなに頻繁に客が来るのか?


 母の日と言えば、母へ感謝の気持ちを込めて花束を贈るのが主だと思うが、花束だけでは物足りないと考えてハーブティーの種を添えるのだろう。


 少しだけ記憶を辿ってみると、俺はフェリスに母の日で贈り物をした記憶が乏しい。


 去年は贈っただろうか?

 贈っていない⋯


(ハーブティーの種ですね)


 店舗から漏れ聞こえるサノスの声からすると、やはりハーブティーの種を求めに来た客のようだ。


 いや、贈ってる。

 ⋯ 思い出したぞ、去年の母の日の1週間後に花束を贈っている。

 去年の母の日の1週間後に、俺はこのリアルデイルにフェリスを訪ねた。

 研究所を退職する相談をするため、休暇を取り王都からフェリスを訪ねてこの街に来たのだ。

 その際にフェリスの執事兼護衛のコンラッドに言われて、慌てて花束を贈っている。


 しまった!

 今年は何も準備をしていない。

 一昨日、フェリスが来るとわかっていたのだから、その際に渡す機会もあったのに俺は何もしていない。


 これはかなり不味い感じがする。

 今から花屋に手配して贈ってもらえるだろうか?


(ありがとうございましたぁ~)


(コロンカラン)


 店舗の方からサノスの声が聞こえ、店の出入り口の扉が開け閉めされる鐘の音が聞こえた。

 来客が帰ったのだろう。


 そうだ!

 サノスが昼御飯を買いに行く際に、花屋でフェリスへ花束を贈るお使いも頼もう。

 今日中に届かなくても、近日中に届くのなら許して貰えるだろう。

 許してくれると信じたい。


 俺はサノスに花屋へのお使いを追加で頼むため店舗へ向かおうとすると、再び店の出入り口に着けた鐘が鳴り来客を知らせてきた。


(カランコロン)


(いらっしゃいませ~何をお求めですか?)


 再びサノスの接客が始まった。

 今日はかなり盛況なようだ。


 接客中のサノスに追加のお使いを頼むのも悪いので、俺は当初の目的に戻ることにした。

 本棚から『魔石指南書』を取り出し、書き掛のメモを放り込んでいるカゴから、異母弟のマイクへ勇者の魔石を贈る計画を簡単に記したメモを取り出す。


(こちらは魔道師イチノス殿の店だろうか?)


 店舗の方から女性の声で俺の名が聞こえたが?


(ええ、魔道師イチノスの店です)


 サノスが俺の名を口にしている。

 俺の名を呼ぶと言うことは、俺に用事があると言うことだが⋯ 誰が来たんだ?

 今日は昼前に誰かが俺を訪ねてくる予定は無い筈だ。

 夕方に東国あずまこくから来た二人が再来店する予定だが、昼前に予定は無い筈だ。


 誰だろうとサノスが接客する店舗を覗くと⋯


 赤髪い髪を三つ編みで両肩に垂らし、茶褐色に寄った肌色の女性が見えた。

 身長はサノスよりも低い感じだが体格は良さそうで、所々に金属プレートが入っている軽装備を身に付けている。


 女性の冒険者か?

 着ている物を見ると、どこかで見た覚えがある感じだ。


 この感じは⋯ ドワーフか?

 研究所時代に見学に来たドワーフ達が、こんな感じの衣装を着ていた覚えがある。

 あの時のドワーフ全員が男性で髭をたくわえていたが、さすがにこの女性に髭はない。

 俺が今まで見たことがあるドワーフは、全てが男性だった。

 この女性がドワーフならば、俺は初めて女性のドワーフを見たことになる。


 ドワーフの女性ならばよく見て見たい思いもあり、手にした『魔石指南書』に簡単に記したメモを挟んで机の上に置き、店舗に顔を出すことにした。


「どうしたんだ? 呼んだか?」

「あ、師匠!」


 俺が店舗に顔を出すと、サノスが気付いて俺を見てきた。

 それに合わせて女ドワーフと俺の目が合った。


「いらっしゃいませ。私にご用でしょうか?」

「あなたがイチノス殿か?」


 女ドワーフが少し笑みを浮かべて、俺を品定めする視線を向けてきた。


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