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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

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19-16 就任式は小サロンで


 青年騎士アイザックと共に小サロンへ向かって廊下を進んで行くと、メイド服を纏った二人の女性が小サロンの前に立っているのが見えた。


 遠目に見ても小サロンの両扉は開け放たれており、その扉の両脇にメイド服の女性が立っている。


 この二人のメイドは、俺がここに居た頃に見掛けた記憶がない。

 俺がここを出てから雇われたか、ウィリアム叔父さんに同行して来たメイドだろう。


 そんな二人のメイドの軽い会釈を受けながら、俺は店舗の倍ぐらいの大きさの小サロンへと足を踏み入れる。

 そこには誰もおらず、長机が前後に2台に肘掛けの無い椅子が3脚ずつ、そして演説台が1台置かれていた。


 その様子は、俺がここに身を寄せていた頃とは全く異なっている。

 この小サロンは、元々は客室の一つとされていたのを、談話室の様式に変更した物だ。

 以前は丸テーブルが2台置かれていた筈だが、ウィリアム叔父さんが来たことで装いを変えたのか?


「イチノス様、護身用で武器などをお持ちであれば、こちらでお預かりします」


「そうだな、出してなかったな」


 青年騎士アイザックの言葉に応えて、手にしていた布袋を長机へ置き、魔導師ローブに隠し入れていた伸縮式警棒を取り出す。

 取り出した伸縮式警棒を青年騎士アイザックが受け取ると、いつの間にか小サロンへ入ってきた先程のメイドの一人へ手渡した。


「どうする? ローブも渡すか?」


「いえ、コンラッド殿から『魔導師の着るローブは正装の一部だ』と言われております」


 これはコンラッドの配慮だな。

 ウィリアム叔父さんという親族と会うわけだから、俺から魔導師ローブまで預かる必要は無いと判断したのだろう。


 俺は長机の上に置いた布袋を青年騎士アイザックへ渡してフェリスへの伝言を添えた。


「それとこれだが、中味の石について俺が知りたがっているとフェリスに伝えて欲しい」


「石なんですか? フェリス様への届け物では無いんですね?」


「あぁ、俺からの頼み事だと言ってくれれば伝わるだろう」


「イチノス様、フェリス様へお渡しするとなると、中身を確かめる事になりますが⋯」


 青年騎士アイザックが布袋を閉じている紐をへ目を落としながら呟いた。


 そうだよな、その必要があるな。

 出来れば青年騎士アイザックや、ここにいるメイドには中身を見せない方が良い気がする。


「すまんが、中身を確かめるのはコンラッドに確認してもらえるか?」


「そうですね。まずはコンラッド殿にお伺いを立てます」


 すると、伸縮式警棒を受け取ったメイドが壁際に置かれていた手押しのワゴンへ向かう、ワゴンに俺の渡した伸縮式警棒を置き、それを青年騎士アイザックの側へと持ってきた。

 青年騎士アイザックは俺から受け取った布袋を、ワゴンの上の伸縮式警棒と並べて置いた。


 ワゴンに手を掛けたメイドが青年騎士アイザックと顔を合わせて軽く頷き、俺に軽く会釈するとそのままワゴンを押して小サロンから退出して行った。


 俺は椅子に座って、青年騎士アイザックへ問い掛ける。


「アイザック、就任式はどこで行うんだ?」


「ここで予定しています」


「ここで?」


「コンラッド殿からは、そう伝えられています」


 コンラッドから伝えられているなら、これ以上を青年騎士アイザックへ問い掛けても何も答えられないな(笑


「イチノス様、少しお聞きしても良いですか?」


「ん?」


 急に青年騎士アイザックが問い掛けてきた。

 何か俺に聞きたいことがあるのか?


「シーラ様とは、ご学友だったとお聞きしました」


 あぁ、その件か(笑

 青年騎士アイザックにしてみれば、何度かシーラの護衛についているから気になるのだろう。


「そうだよ。シーラとは魔法学校時代の同級生なんだ」


「それは驚きですよね。やはり世の中は狭いんですね(笑」


 青年騎士アイザックが言いたいのは、自身の騎士学校時代の先輩達が、リアルデイルに多数いることに繋がる話だな。


「確かに俺も驚いているよ。まさか王国の西の果てに近いと言われるリアルデイルの街で、魔法学校時代の学友と同じ仕事に就くとは思わなかったよ(笑」


「そうですよね。私も先輩達とリアルデイルで会うとは思いもしませんでした(笑」


 そんなやり取りをしていると、小サロンの外に立っているメイドが佇まいを直し、廊下の先へ向き直って頭を下げた。

 これは誰かが来たことを意味しているな。


「アイザック、誰か来たみたいだ」


 俺の言葉で青年騎士アイザックが姿勢を正し、入口に立つメイドと目線を合わせる。


 するとメイドがコクコクと軽く2回、顎を引いた気がする。

 これは二人の人物が来ている合図だ。


 このメイドは、なかなか青年騎士アイザックと連携が取れている。

 コンラッドとエルミアの教えの成果なのだろう。


 メイドが視線をやる廊下の先が見える位置へと青年騎士アイザックが移動する。


「ベンジャミン殿とアキナヒ殿です」


 青年騎士アイザックがボソリと呟き、二人を迎える為に俺も座ったままだが姿勢を正した。


 メイドが頭を下げると、ベンジャミンとアキナヒが小サロンを覗き込むように入ってきた。


「やあ、イチノス殿。既にいらしてたんですね」


「イチノス殿、ご苦労様です」


 ベンジャミンとアキナヒが明るい口調で声をかけてきた。


「お疲れ様です。今日は出席していただきありがとうございます」


 一応、俺の就任式でもあるから、それに出席してくれる二人へ礼を述べるのは間違っていないよな?


「いえいえ、むしろ私達の配慮が足りなかったことを思い知らされました」


 俺の礼の言葉にアキナヒが低姿勢な感じで応えてくる。


〉配慮が足りなかった


 アキナヒは何の事を言っているのだろうか?

 気にはなるが、ここで何の事かと問い掛けるのは適切じゃない気もする⋯


 青年騎士アイザックの話だと、二人は別件でウィリアム叔父さんと打ち合わせだった筈だ。

 その打ち合わせでの事を言っているのだとは思うのだが⋯


「ウィリアム様と打ち合わせだと聞きましたが?」


「そうなんだよ。しっかりと絞られたよ(笑」


 ベンジャミンが俺の隣に座りながら答えると、青年騎士アイザックへ目をやった。

 これは青年騎士アイザックが二人の動向を俺へ伝えたのを咎めたいのか?


 いや違うな。

 ベンジャミンからすれば青年騎士アイザックは騎士学校の後輩だ。

 年齢的に同時期に騎士学校にいたことは無いだろうが、この目線は先輩と後輩で交わされる目線なのだろう。

 どうやら騎士学校の先輩と後輩には、俺の思いもよらない何かがあるようだ(笑


 さて、ここまでのアキナヒの口調とベンジャミンの反応からすると⋯


 まさかとは思うが、アキナヒが言っていた、魔法技術相談役に就く俺とシーラの業務内容だか待遇だかの件で、ウィリアム叔父さんから絞られたのか?


 確かアキナヒは、ベンジャミンと冒険者ギルドで話し合うと言ってたよな?

 そこで固めた素案を、この領主別邸でウィリアム叔父さんに伝えて絞られたのか?


 そしてその直後に俺とシーラの就任式に出席か?


 そこまでぶっ続けでは、ベンジャミンもアキナヒも疲れるだろう(笑


「失礼します。間も無く、フェリス様とシーラ様がお見えになります」


 先程とは別のメイドが小サロンへ入ってきて告げてきた。

 このメイドも、俺がここに居た頃には見掛けたことのない顔だ。


 そんなメイドの言葉に、青年騎士アイザックが俺達へ軽く会釈して、小サロンの入口へ向かう。

 それと入れ替りで、それまで廊下に立っていたメイドが小サロンの中へ入ると、俺達へ軽く会釈をして空いている椅子の並びを整え始めた。


 その様子に、椅子に座っていた俺達3人が慌てて席を立ち、小サロンの壁際へ寄ると、視界の端で青年騎士アイザックが敬礼をしているのが見えた。


 これはすぐそこまで、フェリスとシーラが来ているのだろう。


 二人のメイドに目を戻せば、椅子の並びを直し終えて壁際に立ち、装いを正してフェリスとシーラの入室を待機していた。


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