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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

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19-14 ローズマリー先生とのお話し


「ねぇ、イチノスさん。ロザンナに魔石を持たせるのは、まだ早いのかしら?」


「⋯⋯」


「でも、魔素循環を覚えるには、やっぱり魔石を持たせた方が良いわよね?」


 先生、言ってることが少し矛盾している気がします。


 しかし、魔素循環をロザンナに教える話は、俺が言い出したことだ。

 それに、ロザンナが魔素循環を学んで良いかを先生に確認するように伝えたのは、俺なんだよな⋯


 これは今日の昼前に、ロザンナに従業員用として魔石を渡したことを、正直に伝えた方が良いかもしれない。


「先生、それなんですが⋯ 実は今日の昼前に、ロザンナに店で使う魔石を渡したんです」


「あら?!」


「店で従業員として使うための魔石が必要だろうと考えて、ロザンナに持たせる事にしたんです」


「イチノスさん、お代はお幾らですか?」


 そう答えた先生が、自身の膝の上に乗せたカバンから財布を取り出そうとするのを軽く制して、俺は話を続けた。


「いえ、お代は受け取れません。今回、ロザンナに持たせたのは、あくまでも店の従業員用としての魔石ですので、気にしないでください」


「そ、そうは言っても⋯」


 先生の手は止まらず、自身のカバンから財布を取り出し、今にも魔石の代金を支払おうとする勢いだ。


 先生のそうした様子に気付いてはいるが、俺はそれを無視して話を続けて行く。


「それに、先生も言われるとおりに魔素循環を覚えるには、魔石を身に付ける必要があります」


「そうよね。けど、魔石は高いからイチノスさんの負担にならないかしら」


「先生、既にロザンナから聞いていると思いますが、今のロザンナは『水出しの魔法円』の型紙を作っています」


「えぇ、それはロザンナから聞いてます」


「まもなく型紙が出来上がるので、次は実際に魔法円を描きます。その際に、魔素循環を使う必要があります」


「まあ、そうね。魔法円を実際に描くなら必要よね。それでも従業員だからって魔石を貸し出すなんて⋯」


「先生、従業員として働いてくれるロザンナが、魔素循環と魔素の扱いを覚えてくれれば、私の店としても『魔法円』の製造で助かるんですよ」


「う~ん イチノスさんの言うとおりな気もするけど⋯」


 よし、ロザンナに従業員用の魔石を持たせたことに、少しだが、先生が理解を示してくれた気がするぞ。

 もう少しで、手にした財布もカバンへ戻してくれるだろうか?


「ただですね、ロザンナとしては普段から身に付ける魔石を欲しがっているような気がするんですよ」


「あら?」


「そうした、ロザンナが求める普段から身に付ける魔石については、先生と一緒に店へ来て選んでいただいて、購入してもらった方が良い気がしています(笑」


「フフフ そうね。その方が良いかもね(笑」


 そうした会話を重ねたところで、ようやく先生は取り出した財布をしまってくれた。

 どうやら、先生は俺の提案した落としどころに気が付いてくれたようだ。


 先生は頷きながら財布をカバンへ戻してくれたが、ロザンナに関わる会話は終わらなかった。


 今度は、サノスとロザンナに貸し出した『製氷の魔法円』のお礼を告げて来たのだ。


 『製氷の魔法円』については、先生も実際に試したようで、『これからの暑くなる季節には良いですね』と褒め言葉が添えられた。


 そうした言葉で締め括られると、再び、ロザンナに魔素循環を教える話に戻り、そのことについても先生から礼を告げられた。


 そうした会話を重ねていた時、馬車の速度が落ちてきた。


 先生も、馬車の速度が落ちたことに気付いたのか、個室の窓から外へと目をやる。

 俺も同じ様に外の景色を眺めれば、『貴族街きぞくがい』を囲う壁が見えた。


 リアルデイルの街の北部には、貴族とその貴族に仕える人々が住む、背丈を越える壁に囲われた『貴族街きぞくがい』と呼ばれる地域がある。


 この壁に囲まれた『貴族街きぞくがい』は、市井の一般庶民が足を踏み入れることはなく、とても静かな場所だ。


 この『貴族街きぞくがい』には、俺が以前に半年ほど身を寄せたウィリアム叔父さんの別邸があり、その別邸に普段はフェリスが住んでいる。


 また、この『貴族街きぞくがい』にはリアルデイル南方のストークス家の別邸と、以前にリアルデイル北部を治めていたといわれる旧男爵家の別邸がある。


 それらの別邸以外には、各貴族を世話する従者や使用人、そして騎士団の人々などが住んでいる家々が建ち並ぶのが『貴族街きぞくがい』だ。


 そんな貴族街きぞくがいを囲む壁の手前で馬車が止まった。


(イチノス様とローズマリー様である!)


 幾分叫ぶような青年騎士アイザックの声が聞こえ、再び馬車が動き出した。

 どうやら貴族街きぞくがい入口に立つ衛兵による検問のようだ。


 動き出した馬車の窓からは、王国式の敬礼をする複数の衛兵の姿が見えた。


 俺が領主別邸に身を寄せていた頃にも検問所はあったが、複数の衛兵の姿を一時に見ることはなかった。

 この衛兵の多さは、明らかにウィリアム叔父さんとその弟であるジェイク叔父さんの二人が、領主別邸にいることを表しているのだろう。


 検問所を越えた馬車は、貴族街きぞくがいの奥へと進む。

 ウィリアム叔父さんの領主別邸は、貴族街きぞくがいの一番奥にある。


 そういえば、店を開く際にこの道をよく歩いたなと思い出していると、俺の向かいに座した先生が衣服の皺を伸ばすように整え始めた。

 その機を察したように馬車の速度が落ちて行った。


 俺も先生を見習って、畳んでいた魔導師のローブを広げ、袖を通したところで『冷風の魔法円』へ魔素を流す。


 少し個室内が暑かったので、強目に魔素を流せば、魔導師のローブから流れ出た冷風が馬車の個室内の気温も下げていく。


「便利よね、そのローブ(笑」


 冷風に気が付いた先生から俺のローブを称える言葉が聞こえた。


「今日は暑いのでもっと早く出せば良かったですね。気が利かなくてすいません」


「イチノスさんのローブは、他にも着けてるの?」


「えぇ、それなりに着けてますね(笑」


 先生は世間話程度に聞いていると思うのだが⋯


 俺の知識と記憶では、治療回復術士もローブを纏うことがある。

 そういえば今日の先生は、治療回復術士が纏うローブを持っていない。


「先生は、治療回復術士のローブは着て無いんですね?」


「フフフ 私はもう引退した身だから(笑」


 先生の言葉で思い出した。

 魔法学校時代に、入学式で先生は真白なローブを着ていたし、先輩達の卒業式でも先生は真白なローブを着ていたな。


 魔導師のローブは自分で描いた魔法円をローブに備えるのが習わしで、治療回復術士のローブには『回復の魔法円』を備えている話は聞いたことがあるんだが⋯


「先生は教壇に立たれていた頃はローブを着てましたよね?」


「あら、イチノスさんは覚えてるのね(笑」


 若干惚けた感じで先生が応えてきた。


「やはり、あのローブには『回復の魔法円』を備えたんですか?」


「フフフ 回復や治療の魔法円をローブに備えるのは教会の司教さんよ。私みたいな治療回復術士は、むしろ診察や診療する時に着る白衣に備えるのが多いわね」


 そうだ、思い出した。

 魔法学校在学中に治療回復術士を目指した学友が、卒業間際に一生懸命に白い布に魔法銀の糸で魔法円を刺繍していた。

 出来上がったのを白衣に縫い付けると言ってたよな。


 そうしたことを思い出していると、馬車が再び速度を落とした。


 どうやら領主別邸に到着したようだ。


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