表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/507

19-12 薄緑色の二つの石


 これは本当に魔石なのか?


 そこには薄緑色うすみどりいろの二つの石があった。

 俺の知識からすると、どう見ても魔石には見えず、むしろ何かの宝石に思える。


 ムヒロエはこれが魔石だと言うのか?

 俺はこんな魔石は見たことがないぞ。


 二つある石の色合いはどちらも透明感のある薄緑色うすみどりいろだ。

 そして、どちらもその表面が見事なほどに磨かれている。

 この磨かれた光沢感は、明らかに人が手で加工した代物だ。


 この光沢ある透明感と薄緑うすみどりの色合いが、二つの石が魔石に思えず、何かの宝石に思えている原因だろう。


 二つある石の片方は、先へ行くほど細くなっているが、先端は見事な曲線の丸みを帯びている。


 全体的には滑らかな曲線を描いており、その延長があればまるで半円を描いているかのように思える。


 対照的に、もう片方の石は全体が柔らかな丸みの曲線に包まれている。

 どちらかと言えば、丸い石のようにすら思える。


 この曲線に満ちた二つの石に不釣り合いなのは、どちらの石にも真っ直ぐな平面の部分を持っていることだ。


 二つの石の平面な部分を見比べて、あることが思い浮かんだ。


 これって割れたんじゃないのか?


 元々は一つだったものが、二つに割れたような気がしてきた。


 先ほど取り出した未記入の預り証の上に、二つの石を乗せて平らな面を合わせてみる。


 合わせてみた後の大きさは、預り証の横幅には収まるが、これが一つの魔石だったとすれば、かなりの大きさだ。


 明らかに店で扱っているオークの魔石よりも大きい。


 そもそも二つの石の一つずつがオークの魔石より一回りか二回り小振りな感じだから、二つを合わせたらオークの魔石よりも大きく感じるのは当然だな(笑


 それにしても、こうして合わせてみると変な形だ。


 まるで芋虫か何かのように思えるのは、この薄緑色うすみどりいろの色合いのせいだろうか?

 それとも、二つの石の組み合わせ方に問題があるのだろうか?


 俺はこんな形の魔石は見たことも聞いたこともない。


 これが魔石だと仮定すると、考えられるのは大きな魔石を削って磨き上げた物だろう。

 だが、それも二つに割れているということなのか?


 さて、ムヒロエはこの二つの石が魔石だと言っていた。

 本当に魔石ならば魔素が取り出せるはずだ。


 俺は、丸みの強い方を手のひらに乗せ、魔素を取り出すために意識を集中する。

 すると、滲み出るようにわずかな魔素が取り出せた。


 魔素が取り出せると言うことは、ムヒロエが言うとおりに、やはり魔石なのだろうか?


 試しに先の丸みが小さい方からも魔素を取り出してみる。

 うん、やはりわずかだが魔素が取り出せる。


 両方の石を改めて触ってみたが、その手触りは周囲が綺麗に研磨されているために至極滑らかで、手触りだけでは魔石かどうかは判断できない。


 もう一度、割れたと思われる部分を詳しく見て行く。


 オークの魔石が割れたときに見られる、若干の繊維質のような物も見当たらず、むしろ固めの何かの鉱物が綺麗に割れたようにも思えてくる。


鉱物⋯


 待てよ、これって⋯


 一種の『魔鉱石まこうせき』な気がしてきた。


 だが、俺の知っている『魔鉱石まこうせき』とは明らかに色合いが違う。


 今まで幾度と無く『エルフの魔石』を作り出すために『魔鉱石まこうせき』に触れているし、物を見てきているが、その全てが黒なのだ。


 二階の書斎机の引き出しに隠し持っている『魔鉱石まこうせき』も全体が黒い。


 だが、黒でありながらも魔素を含んでいる状態では『魔石光ませきこう』呼ばれる輝きを持っている。


 もっとも、その『魔石光ませきこう』も内部の魔素が枯渇するほどに、輝きは小さくなりよりいっそう黒い石にしか見えない代物に変わって行く。


 それでも『魔鉱石まこうせき』であるか否かは判断がつけられる。


 ヘルヤさんが見せてきたような魔素が枯渇して黒い石な状態に至ったとしても、その表面の独特な感じから『魔鉱石まこうせき』と見分けることは可能だ。


 だが、この二つの石は薄緑色うすみどりいろだし、表面は丁寧に磨かれているし、この割れたと思われる断面が明らかに俺の知っている『魔鉱石まこうせき』と感じが違う。


 『魔鉱石まこうせき』が割れると、その断面は鋭利な刃物を思わせる状態が得られる。

 けれども、このムヒロエが置いて行った石の断面からは、そうした物を一切感じない。


 この二つの石が一種の『魔鉱石まこうせき』ならば、こうして店のカウンターに出し続けてておくわけには行かないぞ。


 俺は急いで布袋に二つの石を入れて閉じ、預り証に二つの石の特徴を書き込もうとして、ふと、窓の外へ目が行った。


あれ?


 ブライアンもムヒロエも新人の冒険者見当たらない。


 そこに見えたのは、二人の女性街兵士と黒塗りの馬車だった。


 従者台に立っていた騎士服を纏った男が止まった馬車から飛び降り、女性街兵士の方へと歩み寄る。


 あの騎士服を纏ったのは、明らかにアイザックだ。

 もう迎えに来る時間なのか?!


 俺は書き込んでいない預り証を戻し、ムヒロエが置いていった布袋を手にする。


 再び窓の外を見れば、アイザックが女性街兵士と何かを話している感じだ。


 もしかして少し早く来たのか?

 アイザックが時間通りに迎えに来たのに、俺の準備が終わっていないとなると、そうしたことをアイザックは上司のコンラッドに伝える可能性がある。

 そうなると、後々にコンラッドが何かにつけて『遅れないように』と小言を口にする口実を与えてしまう。


 ともかくここで、青年騎士アイザックと迎えの馬車を待たせるのは良くない。


 着替えるために2階へ向かおうとしたが足が止まった。


 あの馬車にシーラが乗っていたりしないよな?

 昨日の青年騎士アイザックの伝令ではシーラが乗っていたが⋯


 いや、見るからに青年騎士アイザックは二人の女性街兵士と話し込んでいる。

 あの馬車にシーラが乗っていたら、護衛役であろう青年騎士アイザックは女性街兵士と話し込むことは無いだろう。


 そう思い直し、着替えるために2階へ向かおうと作業場へ入ると、サノスとロザンナは相変わらず自分たちの作業に集中していた。



 2階の寝室で、ウィリアム叔父さんの公表へ出席したのと同じ服装に着替えを終える。


 伸縮式警棒を手にして、少し考えた。


 この警棒を持って行っても、領主別邸へ入る際に預けることになるだろう。

 だが、領主別邸へ向かう道中、何者かの襲撃を受けた際の事を考えて持って行くことにした。


 そして、ムヒロエから預かった布袋を手にして再び少し考えてしまった。


 2階へ上がった際に書斎の机に入れることも考えたのだが、これが俺の知らない『魔鉱石まこうせき』ならばフェリスに訊いてみるしかない。


 領主別邸へ持って行く事に迷ったが、着替えてから考えようと寝室まで持って来てしまったのだ。


う~ん


 やはりフェリスに見せて、これが何かを意見してもらおう。


 魔導師ローブと伸縮式警棒、それにムヒロエから預かった布袋に入れた『魔鉱石まこうせき』らしきもの。

 それなりの荷物になってしまったが、これらを手にして階下へ降り、作業場に入って時計を見れば2時になろうとしていた。


 手にしたローブを作業場の自席に掛け、伸縮式警棒と布袋を机へ置くと、サノスとロザンナが俺に気が付いた。


「イチノスさん⋯ その服って⋯」


「ククク 前にも見てるよな?(笑」


「師匠、ローブを着てください!」


 サノスが席を立ち上がり、ローブへ手を掛けようとした。


「いや、すまん。もう迎えが来てるんだ」


 俺はサノスを軽く制して、ゴブリンの魔石を入れた箱を棚から取り出す。

 適当に選んだ『ゴブリンの魔石』を警棒の持ち手に入れて蓋をして行く。


カランコロン


 その時、店の出入口に着けた鐘が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ