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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

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19-11 ムヒロエ来店


 俺への来客ならばと作業場へ戻ると、バタバタと足音を立ててサノスが店舗から作業場へ戻ってきた。


「あっ! 師匠、ブライアンさんとお客さんです」


「ブライアンとお客さん?」


 ブライアンはわかる。

 土魔法の魔法円を求めて店へ来てくれたのだろう。

 そんなブライアンが、誰かを一緒に連れてきたということか?


「師匠に似ている感じで⋯」


 サノスの言葉で、ブライアンがムヒロエを連れて来たのだと直ぐにわかった。


「わかった、俺が出るから」


 サノスと入れ代わりで店舗へ向かうと、ブライアンとムヒロエが立っていた。


「おぅ、イチノス!」

「やあ、イチノスさん」


「珍しい組み合わせだな(笑」


「カカカ」「ハハハ」「ククク」


 互いに笑いが出たところで、俺から切り出した。


「ブライアンは、あれを買いに来てくれたのか?」


「いや、まだ女房から許可が出ないんだよ(笑」


 俺が暗に土魔法の魔法円のことを問い掛ければ、女房の許可という言葉で弾かれてしまった。


「それで、ムヒロエにイチノスの店を教えに来たんだ」


「はい、昨日も聞きましたが、アルフレッドさんの宿屋から本当に真っ直ぐですね」


「これなら迷わないだろ?」


「えぇ、教えてくれてありがとうございます」


 ムヒロエがブライアンへ礼を告げれば、当のブライアンは少し照れ臭そうな顔を見せたかと思うと店の外へ目をやる。


 それに釣られて俺も店の窓から外を見れば、冒険者らしき格好をした二人が店の外で立っていた。

 外に立つ二人の横顔には、冒険者ギルドで見掛けた記憶がある。

 ヴァスコやアベルと同じ様に、この春に冒険者になった1年目な気がする。


「イチノスさん、昨夜は楽しい時間をありがとうございました」


 急にムヒロエが昨夜の話を出してきた。


「いえいえ、私は途中で抜けてすいませんでした」


「ハハハ、イチノスが抜けてからが面白かったんだぞ(笑」


 ムヒロエの投げかけに答えれば、ブライアンが追いかけてくる。

 そんなブライアンの言葉に、何がどう面白かったのかと問い掛けたくなるが、堪えた。


 昨夜の俺は3回目の尿意を感じたので、ムヒロエを残して先に退散することにした。


3回目の尿意で席を立つ


 これは、俺が酒を呑む際に設けている一つの仕来たりだ。

 酒の席で3回目の尿意を感じたら、その場を抜けることにしているのだ。


 ブライアン達には、以前にそうした俺の仕来たりを話している。

 そのおかげか、用を足しに立って戻って来たところで、俺が酒の席を離れるのを皆が素直に許してくれた。


 だが、ムヒロエは残った。

 いや、正確には3人に捕まった感じだった。


 いわば昨夜の酒宴では、調理される魚が俺からムヒロエに代わった感じだ。


 あの時のブライアン達は、ムヒロエが語る王都からリアルデイルへの旅の話に聞き入っていたな。

 ブライアン達が特に興味を示したのは、ムヒロエが隣のランドル領のダンジョンへ行った話になったからだ。


 ワイアットもアルフレッドも、そしてブライアンも、ムヒロエの語るランドル領のダンジョンの話しに聞き入っていたな。

 ついには隣の長机に座っていた連中まで、ムヒロエのダンジョン話しに聞き入っていた。


 俺の出自に絡みそうなランドル領の話であること、それにダンジョンに興味の薄い俺は、そこで3度目の尿意で席を立ったのだ。


「それで、昨夜に話したように、イチノスさんに魔石の鑑定を依頼したいのです」


 ムヒロエが、自身の抱える願いをぶつけてきた。

 俺も、ムヒロエからエルフ語を話せる理由を改めて詳しく聞き出したい。


 だが、今のこの時間と言うか、時刻と言うか、今日これからは避けたい。


 そろそろ着替えて就任式へ出る準備に入る時間だし、ムヒロエが『エルフの魔石』について探りを入れてくるとしたら、ここにはブライアンがいるし、作業場にはサノスやロザンナもいる。


 そんな状況で『エルフの魔石』へ探りを入れられるのは避けたい。


「ムヒロエさん、魔石の鑑定では、依頼主であるムヒロエさんの知りたいことを詳しく聞き出す必要があるんです」


「はぁ?」


 俺の答えに、ムヒロエは気の抜けた返事をしてくる。

 もしかして、ムヒロエは『エルフの魔石』についての探りを入れに来た訳ではなく、純粋に魔石の鑑定を依頼しに来たのだろうか?


「そのためには、ムヒロエさんとお話しを重ねる必要があるんです」


 俺はやんわりと、今日、この場では都合が悪いと伝えると、ムヒロエが察したような返事を返してきた。


「あぁ⋯ イチノスさんは、今日これからは、お忙しいと言うことですね?」


「えぇ、今日はこの後に予定がありまして⋯」


「そうだよ! イチノスはこれから就任式だよな?(笑」


 ブライアンが俺の就任式の件を思い出したように告げてくるが、どこか含み笑いがあるぞ。

 これは、自分が味わった昨日の経験を俺にも味合わせたい思いなのか?


「ハハハ 実は私もこの後に予定があるんです」


えっ?


「明日からの麦刈りで、この後、ブライアンさんの実家へ挨拶に行くんですよ」


 そう言ってムヒロエがブライアンへ目をやると、二人で頷き合っている。


「ムヒロエ、さっきの石をイチノスに預けていったらどうだ?」


「そうですね。イチノスさん、預けて行くんで観といて貰えます?」


 そう言ったムヒロエが、手にした布袋をカウンターの上に置いてきた。


「それで、何時いつならイチノスさんは都合がつきそうですか?」


「ちょ、ちょっと待ってください」


 そこで俺は、ここ数日の予定を思い出す。

 確か、5日の日曜は店が休みで、その日ならサノスもロザンナも店に居ないよな?


 店に誰も居なければ、ムヒロエが『エルフの魔石』に探りを入れてきても、何とかなるだろう。


「すいません、ムヒロエさん。少し先になるんですが、5日はどうですか?」


「5日は日曜ですね。それでお願いします。それまで、麦刈りに精を出しますよ(笑」


 そう答えたムヒロエが、ブライアンへ目をやれば、ブライアンが頷いて答えてきた。


「多分、大丈夫だろう。親父は今度の日曜は教会へ行くと言ってたから。ムヒロエ自身から伝えてくれよ(笑」


 そこまで口にしたブライアンが、何かに気付いたかのように店の外へ目をやった。


「はい、そうしたことは私から⋯」


 ムヒロエも言葉を途中で止めて、ブライアンの目線に釣られるように店の外へ目をやる


 俺も釣られて店の外へ目をやれば、先ほどの若い冒険者に向き合うように、二人の女性街兵士が立っていた。

 あれは、女性街兵士が警備のために質問でもしているのだろう。


 俺はそう割り切って、窓の外からカウンターの上に置かれた布袋へ視線を戻してムヒロエに問い掛ける


「ムヒロエさん、預かりを出しますか?」


「「⋯⋯」」


 二人とも店の外の様子を見詰めて返事がない。


「ムヒロエさん、預かりを出しますか?」


「あっ、いえ、さっきブライアンさんにも中を見て貰ってるんで大丈夫ですよ。ねえ、ブライアンさん」


 俺がムヒロエに魔石の預り証の事を問い掛けると、慌ててブライアンを引き合いに出してきた。


「お、おぅ、すまん、イチノス頼む。ちょっと外で揉めてる感じなんだ」


「「えっ?」」


 ブライアンの言葉に再び店の外へ目をやると、二人の女性街兵士が若い冒険者へ詰め寄っていた。


カランコロン


 ブライアンが慌てて店を出て行く。

 それを追うように、ムヒロエも店を出て行った。


 窓から見える店の外では、二人の若い冒険者に、同じように二人の女性街兵士が質問を重ねている感じだ。


 俺もどうするか迷ったが、ブライアンが女性街兵士と冒険者の間に入って何かを説明している。

 まあ、これで何かあったら、どちらかの女性街兵士が店へ来るだろうし、ブライアンが店へ戻ってくるだろう。


 俺はそう割り切るように考えて、ムヒロエがカウンターの上に置いていった布袋に手を掛けた。


 外から触る限り、2個の魔石が入っている感じだ。


 預かった物を確かめるのが先だなと考えて、俺は店で扱う預り証を取り出し、預かる魔石の特徴を記すために巾着になっている布袋の口紐を解いた。


 そして俺は、袋の中を見て固まってしまった。


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