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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

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19-6 取調べを受ける商人達


コンコンコン


 再び応接室の扉をノックしたアキナヒは、扉を止めていた器具を外し、応接室の中へ入ると静かに扉を閉めた。


 そんなアキナヒを眺めていると、いつの間にかメリッサが応接から立ち上がっていた。


「イチノス殿、本日も商工会ギルドへ足を運んでいただき、誠にありがとうございます」


 メリッサへ座るように勧める仕草をしたアキナヒが、挨拶と共に頭を下げてきた。

 しかし、メリッサは応えずに立ったままだ。


 アキナヒはメリッサの様子に気づいているはずだが、そのまま応接へ座ると言葉を続けた。


「まずは『イチノス殿』と『殿』で呼ぶことをお許しください」


 アキナヒの口調は丁寧で、前回のような平身低頭の様子も、どこかゴリ押しするような様子も感じられない。


 この感じが、本来のアキナヒの雰囲気なのかもしれない。


 メリッサは何かを言いたそうな顔をしているようにも見えるが、応接に座ったアキナヒは気にせずに言葉を続けた。


「イル殿からイチノス殿は固い敬称を避けられると聞いておりますが、一朝一夕に変えることは難しいのです。どうかご理解を願います」


 まぁ、仕方がない。

 本人が変えられないのを無理に変えろとは言えない。


「お気遣いをありがとうございます。ですが、私からは『さん』で呼ばせていただくことをご容赦ください」


「私はいっこうに構いません」


 そう応えたアキナヒが立ったままのメリッサへわずかに目をやった。

 それに気付いた俺はメリッサへ告げておく。


「メリッサさんは気がねなく『さん』で呼んでくださいね」


「はい、お心遣いに感謝します」


 メリッサの答えを耳にしたであろうアキナヒが軽く頷くと口を開いた。


「イチノス殿、魔石の入札についての説明はメリッサから受けていただけたでしょうか?」


「はい、滞りなくメリッサさんから聞かせていただきました」


「では、イチノス殿からの宿題へ話を進めたいのですが、よろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


 そこまで話したところで、アキナヒが明らかにメリッサを見て何かの合図をすると、メリッサもそれに応えて軽く頷き退室を告げてきた。


「イチノスさん、私はこちらで失礼します。魔石の入札への参加を心よりお待ちしています」


「はい、7日の火曜日、10時にメリッサさんをお訪ねしますのでよろしくお願いします」


 そう応えると、明かりが灯ったような顔をメリッサが見せてきた。


 そんなメリッサが軽く礼をして退室して行き、一方のアキナヒは黙したままだ。


バタン


 メリッサが退室し、応接の扉を閉めたところで、アキナヒが今日の本題を口にする。


「イチノス殿からの宿題は2つと認識しております」


 アキナヒの言うとおりに、俺から商工会ギルドへ求めたのは2つだ。


1.商人達への周知徹底

 ウィリアム叔父さんの公表の件で俺の店へ商人達が突撃しないように、商工会ギルドとしての商人達への周知徹底。


2.より具体的な商工会ギルドとしての対策

 周知徹底に加えて、より具体的な商工会ギルドとしての対策を施すこと。


 アキナヒはこの2点について述べているのだろう。


「イチノス殿からいただきました2つの宿題への具体的な回答へ進む前に、申し訳ありませんが、イチノス殿の感想を聞かせていただきたいのです」


「感想を聞かせる? ですか?」


 アキナヒは、何の感想を俺に求めているんだ?


「はい、メリッサの感想をイチノス殿から聞かせて欲しいのです」


「えっ? メリッサさんの感想ですか?」


 アキナヒは何を言っているのだろうか?

 思わずアキナヒの顔を見つめれば、至って真面目な顔をしている。


 もしかしてアキナヒは、メリッサの鑑定眼のことを問い掛けているのだろうか?


「アキナヒさん、私が何かを言った方が良いのでしょうか?」


「はい、魔導師であるイチノス殿ならば、隠し通すことはできないと思っています」


う~ん


 やはりアキナヒは、メリッサの鑑定眼のことを言わんとしているのはわかった。

 しかし、感想を求められても⋯


ん?


 メリッサの鑑定眼について、俺が気づかないとアキナヒは思っているのか?

 だとしたら、ここはもう少し慎重にアキナヒの言葉を引き出すべきだろう。


「アキナヒさん、メリッサさんの⋯ 能力と今日の本題に何か関係があるのでしょうか?」


「はい、イチノス殿からの許可がいただけるなら、メリッサを窓口にしたいのです」


 この問いには、これまた困惑させられ続く言葉が出てこない。


 俺が返事をしないからか、アキナヒが言葉を続けた。


「魔法技術支援相談役であるイチノス殿への商人達からの質問の取りまとめと、実際にイチノス殿との連携をメリッサに任せたいのです」


はぁ?


 俺は、ますますアキナヒの言葉が理解できなくなってきた。


 そんな俺の顔色に気づいたのか、アキナヒが力を込めて説明を続けてくる。


「イチノス殿が気づかれたとおりに、メリッサには特別な能力があります」


「はぁ、そのようですね⋯」


 しまった!

 思わずアキナヒの言葉に同意してしまった。


「彼女の能力に掛かると、商人達は嘘や隠し立てが困難になるらしいのです」


 アキナヒが微妙な言い回しで言葉を続けてくる。


「実際にメリッサは、昨日さくじつ、イル殿の所での取り調べにも協力しております」


「アキナヒさん、ちょっと待ってください」


 俺は少し状況の整理がしたくなり、思わず手を出してアキナヒの話を止めた。


 メリッサの鑑定眼は事実なのだろう。

 イルデパンの捜査だか取り調べにも協力したと、アキナヒは述べている。


 そんなメリッサを商工会ギルド側の担当者にして、俺との窓口にすると言うことだよな?


 そしてそれが俺からの宿題への回答と言うことか?

 そんなことが商工会ギルドとしての回答になるのか?


 俺としては商工会ギルドが商人達を制御してくれればそれで良いのだが⋯


 いや、それも思い直すと随分と曖昧な要求だよな。

 ここは一歩下がって、アキナヒの説明を聞いて、俺が理解を深めよう。


「どうぞ、続けてください」


「はい、続けさせて⋯」

「アキナヒさん、商工会ギルドとしては相談役への案件はメリッサさんが取りまとめを行い、それに私やシーラが答える形式になるのですね?」


 アキナヒの言葉に被せて、俺の理解できた範囲を告げていく。


「はい、今後も多数上がって来るであろう魔法技術支援への相談事については、メリッサが相談者と面談をした上で、相談役であるイチノス殿とシーラ殿に取り掛かっていただく流れと仕組みを作りたいのです」


 これはありがたい話なので、頷いておこう。

 俺は無言で軽く頷くと、アキナヒが話を続けた。


「実は今も、イチノス殿へ向けた『魔法でなんとかなりませんか?』というような相談事が、ギルドへ持ち込まれているのです」


「その持ち込まれた案件を、メリッサさんが選別されているのですね?」


「はい、持ち込んだ商人とメリッサが面談を行って、相談者の真意を問い掛けています」


 段々とアキナヒの話が理解できてきた。

 そして商工会ギルドのアキナヒやメリッサの努力が見えてきた。


 俺から出した意見は、商工会ギルドの努力に目を向けていない一方的なものだ。

 ただ、店を襲撃した商人を敵視しているだけだ。


 商工会ギルドでは、既に商人たちをメリッサの鑑定眼を使ってなだめめていたのだろう。


 そうした商工会ギルドの意図が全ての商人たちに深く届いていれば、俺の店を訪れる商人は皆無だっただろうし、大衆食堂で待ち伏せをする商人も現れなかったのだろう。


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