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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月31日(火)

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19-1 二日酔いだが普段と変わらぬ朝

王国歴622年5月31日(火)

・薬草採取解禁(護衛付き)

・麦刈り1日目

・商工会ギルド魔石入札の公表

・魔法技術支援相談役就任式


トントントン


 何かを叩く音で眠りから覚めて行く自分を感じる。


「師匠、おはようございます〜」


 続くサノスの声で目が覚めた。

 今朝のサノスは、ロザンナのように階段を叩いて俺を起こそうとしているのだろう。


 ベッド脇の置時計を見ると、既に8時を回っている。


 深酒をした翌朝特有の頭痛とだるさが襲ってきた。

 酒の魔法は、その時の楽しみとは裏腹に、翌朝の苦悩をもたらすな。


 そして、昨夜は確かに飲み過ぎたなと、自覚が鮮明になって行く。


 カーテン越しに窓ガラスを越えてくる外の光は、既に明るさを増しており、日が昇っていることを感じさせた。


「師匠、おはようございます〜」


 再びサノスの声が聞こえてきた。


「起きてるぞ〜」


 ここで返事をしないと、サノスは本当に2階へ昇ってきそうだ。

 サノスのことだから2階へ昇って来たら、迷わず寝室の扉をノックしてくるだろう。


 着替えを済ませて階下に降り、用を済ませて作業場へ行くと、サノスが御茶を淹れる準備をしていた。


「師匠、おはようございます」


「サノス、おはよう」


あれ?


 ロザンナはどこにいるんだ?

 裏庭で水でも撒いているのか?


「サノス、ロザンナは裏庭か?」


「はい、ロザンナは裏庭で水やりをしています」


 やはり裏庭で薬草菜園の世話をしているようだ。


 サノスがマグカップに御茶を注ぐ光景を静かに眺め、自分の喉の渇きを実感した。


 これはまさに、深酒をした翌朝の典型的な症状だ。

 大衆食堂を出て帰り道、酔い醒ましの回復魔法を自分に掛けながら歩いたが、店に戻る頃には明らかに酔いが残っていた記憶がある。


 既に酔っている状態での酔い醒ましの回復魔法は効果が薄いものだとわかっていた。

 店に戻った時、水を一杯飲めば少しは違ったのだろう。

 しかし、眠気に負けてそのまま2階へ上がって寝てしまった。


「師匠、どうぞ」


 サノスが御茶の入ったマグカップを差し出す。

 それを受け取り、一口含んだ苦味が、昨夜の飲み過ぎと、早めに自身へ回復魔法を掛けなかった後悔の味わいと重なった。


 しかし、口の中を爽やかにするその味わいは、新しい日の幕開けを象徴しているようにも感じる。

 御茶の温かさが喉を潤し、酔いが次第に覚めていくこの感覚は、今日の就任式へ挑む意欲を示しているかのようだ。


バタン


 台所の扉が閉まる音が響く。

 ロザンナが水撒きを終えたのだろう。


バチャバチャ


 台所で手を洗う水音が耳に響く。

 耳が余計に音を拾うのか、それともそうした生活音へ意識が向くのか、これは明らかに二日酔いの兆候だと俺は感じた。


「イチノスさん、おはようございます」


「ロザンナ、おはよう」


 手を洗い終えたロザンナが、作業場へ入るなり、朝の挨拶をしてきた。


 そんなロザンナの声が頭に響く。

 やはり俺は明らかに二日酔いだ。


 ロザンナが席に着いて御茶を一口飲んだところで、昨日の雑貨屋のその後を問い掛けて行く。


「昨日は、途中で姿を消してしまったが、特に問題は無かったよな?」


「桶を探すのに夢中で、すいませんでした」

「女将さんから聞きましたから大丈夫です」


 どうやら、あの後、女将さんが二人を助けてくれたようだ。


「ロザンナ、結局、桶は見つかったんだよな?」


「はい、今日の昼過ぎにロナルドが配達してくれるそうです」


 そこで俺は、昨日の日当をまだ二人に支払っていないことに気づいた。


「二人とも、昨日の日当がまだったよな?」


 二人へ問い掛けながら、俺は店の売り上げを入れているカゴを手にした。


 するとサノスとロザンナが互いに顔を見合わせ、ロザンナが口を開いた。


「イチノスさん、昨日の日当は貰ってますよ?」


「えっ?」


「師匠、忘れたんですか?」


「え、えっ?」


 俺は手にしたカゴの行き場が無くなり固まってしまった。

 固まった俺を、サノスとロザンナが凝視している気がする。

 するとサノスが微笑みを含んだ顔を向けてきた。


「師匠、今日は戻らないんですよね?」


「あぁ、昼過ぎに迎えが来て⋯ たぶん戻らないと思う」


「じゃあ、今日の日当は先払いですか?(笑」


「ククク そうだな。今日の日当を払っておこう」


 俺は銀貨を1枚、今日の日当の先払いでサノスへ渡して行く。


「ありがとうございます」


 サノスが礼を言うのを聞きながら、もう一枚の銀貨を手にする。


「それと、明日の分も前払いだ」


「えっ?」


「要らないのか?(笑」


「いります、いります!」


 サノスが受け取ったところで、もう一枚の銀貨をカゴから取り出した。


「ロザンナにも、今日と明日の分を渡しておく」


「はい、ありがとうございます」


 サノスは嬉しそうに、受け取った銀貨を自分の財布へしまって行く。

 一方のロザンナは、財布すら出そうとしない。

 もしかして、ロザンナは、サノスとの日当の違いを気にしているのか?


 そんな疑念が頭をよぎった。

 その瞬間、ロザンナが思わぬ言葉を口にした。


「イチノスさん、お願いがあります」


 ロザンナは、渡された日当の銀貨を手にしたままで俺を見て話を続けた。


「魔石を売ってください⋯ その⋯ 分割になりますが⋯」


「えっ? う~ん⋯」


 ロザンナの願いに俺は思わず唸ってしまった。


 ロザンナの日当はサノスの半分で、1日に銅貨5枚だ。

 その日当で魔石を手に入れるとなると、1ヶ月以上はタダ働きになる。

 日当の全てを魔石の支払いに当てるなど、俺としては受け入れられない。


 朝の御茶で少し軽くなった頭痛が、ぶり返しそうな感じだ。


「ロザンナ、確認して良いか?」


「はい、何でしょう?」


「そもそもロザンナは、普段から魔石を身に着けてないよな?」


 俺の言葉に反応したサノスが自分の胸元へ手をやる。

 確かにサノスは普段から、父親のワイアットに貰った『オークの魔石』を身に着けている。


 そんなサノスの動きをチラリと見たロザンナが答えてきた。


「えぇ、身に着けてません。魔石を使うのは家で水出しをする時と⋯ イチノスさんの店で御茶を飲む時に使うぐらいです」


 そう言ったロザンナが、机の上に置かれた普段は台所で使っている『オークの魔石』を指差してきた。


 果たしてロザンナに、サノスのように普段から身に着ける『魔石』を持たしても良いのだろうか?


 ローズマリー先生やイルデパンは、どう考えているのだろう?


「ロザンナ、魔石を手に入れる話はローズマリー先生やイルデ⋯ 祖父母には相談したのか?」


「しました。昨日、家に帰ってイチノスさんから言われた『魔素循環まそじゅんかん』の件を祖母に話したんです」


 なるほど、直ぐに話したんだな。


「そうしたら、祖母が私に魔石を持たせて良いかを、祖父に確認してくれたんです」


 まあ、魔素循環まそじゅんかんを覚えるなら、魔石を身に着けている方が覚えやすいといえば覚えやすいからな⋯


「祖父は『イチノスさんに任せたらどうだ?』と言って、祖母も『それもそうね』と納得してました」


うーん⋯


 ロザンナの話を聞く限り、ローズマリー先生もイルデパンも俺に丸投げしている感じだな(笑


「ロザンナ、ローズマリー先生は『魔素循環まそじゅんかん』を覚えることについて、何か言っていたか?」


「それですが、祖母も『ロザンナが魔素循環まそじゅんかんを覚えるなら魔石を身に着けていた方が良いわねぇ~』と、言ってました」


「そうか⋯ そうなると⋯」


 俺はそこまで答えて、まだ少し重い頭の中で状況を整理する事にした。


 ロザンナが普段から魔石を身に着けるのに、ローズマリー先生もイルデパンも反対はしていない感じだ。

 それに、ロザンナが魔素循環まそじゅんかんを覚えるなら、魔石を身に着けた方が良いだろうと、ローズマリー先生は考えている感じだな。


 先ほど意識した魔石の価格とロザンナのタダ働きは⋯ 


 今は、一旦、脇に置いておこう。


 そうした前提やら状況を考えると、ロザンナに魔石を持たせることについては、特に問題は無い感じだよな?


残るは⋯


 ロザンナに持たせる魔石の選別になるのか?


 ローズマリー先生は、普段から家で使っている魔石に、体内魔素での魔素充填を行っているような感じの話をしていたな。

 ロザンナに身に着ける魔石を渡したとして、ローズマリー先生はロザンナに魔素充填を教えるのだろうか?


いやいや


 ロザンナが普段も身に着ける魔石を、俺が持たせるのか?


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