表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月30日(月)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/507

18-21 ラトビア語


「魔石の鑑定を依頼するなら『魔石造りの名手であるリアルデイルのイチノスに頼め』とね?」


 俺は笑顔で告げてくるムヒロエの目を見つめた。

 その目は笑っておらず、どこか俺の動きを観察しつつも、俺を試すように感じた。


〉魔石造りの名手


 ムヒロエの口から出たこの言葉には、正直なところ、警戒心が湧いた。


 確かに、俺が調整した『魔石』は、魔素の取り出しやすさ=『使いやすさ』と、長期間にわたって使える=『持続性』の2点で高い評価を受けている。


 この『使いやすさ』と『持続性』の2点は、俺自身が魔石の調整を行う際に考慮している要素だ。


 そうした考慮から生まれた『魔石造りの名手』の称号であれば、俺としては喜ばしいものであり、特に気にすることはないだろう。


 だが、警戒すべきなのは『エルフの魔石』に関連して『魔石造りの名手』と俺を呼ぶときだ。


 この呼びかけをする者の中には、俺が『エルフの魔石』の製作者であることを特定しようと、故意に『魔石造りの名手』と呼びかける者が存在するからだ。


 俺が体内魔素を使って調整した『エルフの魔石』は、フェリスが人間種族の貴族同士の交流や交渉で使用していることは俺も知っている。


 『エルフの魔石』には、子孫繁栄に効果があるとされている。


 そうした『エルフの魔石』をフェリスから贈られた貴族たちは、母の贈り物を通じて子孫の繁栄と幸福を願っていると解釈するようだ。


 こうした微妙なやり取りから、『エルフの魔石』の贈り主であるフェリスの気持ちを汲み取り、人間種の貴族と良好な関係を築いているようだ。


 だが、こうした貴族同士の交流に用いられる『エルフの魔石』は、取り扱いに非常に注意が必要だ。


 それは『エルフの魔石』が、元々は国王の命令によって王国内での魔素充填が禁じられている『魔鉱石まこうせき』から生まれたものだからだ。


 それでも抜け道はある。

 フェリスの生まれ故郷である『エルフの里』で魔素充填された『エルフの魔石』ならば問題はない。


 なぜなら『エルフの里』は王国の管轄外にあると言えるからだ。


 しかし、実際に王国内で貴族たちが手にする『エルフの魔石』のほぼ全ては、王国内で俺の体内魔素で調整を施したものなのだ。


「イチノスさん、もしかして、私は失礼なことを口にしましたか?」


 ムヒロエが申し訳なさそうな顔で、申し訳なさそうな言葉を口にして来た。


いかんいかん。


 どうやらムヒロエの口にした『魔石造りの名手』の言葉に囚われて、俺は固まっていたようだ。


「いやいや、恥ずかしいだけですよ。その呼び名を面と向かって言われることは無いので(笑」


 そう応えて、ムヒロエの目を見直せば、先程まで宿っていた何かの含みは消えていた。


 そもそも、貴族でもないムヒロエが『エルフの魔石』絡みで俺へ問い掛けてくるとは思えない。


待てよ?


 もしかすると、ムヒロエはどこかの貴族の小飼かもしれないぞ?


 だが、ここでムヒロエを問い詰めても、確たる返事は得られないだろう。


 自らどこぞの貴族の依頼で『エルフの魔石』の製作者を調査しに来たとか、ムヒロエが口にするわけがない。


 しばらく泳がせるか?


「じゃあ、ムヒロエさんはこの魔石の鑑定が目的で、私に会うためにリアルデイルへ来たんですか?」


「そうですね。イチノスさんならこれを鑑定してくれるだろうと思って来ましたね」


 そうか、それならばムヒロエの願いを受け入れる形で泳がせて本来の目的を引き出そう。


 そうすれば、ムヒロエとの接点を維持して彼がエルフ語を話せる理由も知ることができるだろう。


「は~い、お待たせ~」


 ムヒロエと話している最中、オリビアさんがお代わりのエールを持って現れた。


「お~、待ってました。イチノスさん、改めて乾杯しましょう(笑」


「そうですね(笑」


 木札をオリビアさんに渡し、再びムヒロエとエールを交わした。


「串肉はちょっと待ってね~」 


 オリビアさんに言われて気が付いた。

 お代わりのエールと一緒に注文した串肉がまだ来ていない。

 どうやら店が混んでいて厨房も忙しいようだ。


 オリビアさんが席を離れたところで、それとなく俺はムヒロエに問いかけた。


「ムヒロエさんは、どこから来たんですか?」


「私ですか? どこから来たかと問われると微妙なんですよ(笑」


 微妙?


 俺としては、ムヒロエが東の関から来たと聞いているので、隣領のランドル領から来たかを尋ねたかったのだが、言葉が足りなかったか?


「先ほど東の関でと言ってましたから、ランドル領から来られたんですか?」


「あぁ、そのことですね。生まれ故郷を聞かれたかと勘違いしてしまいました。ハハハ(笑」


 まあ、確かにムヒロエの生まれ故郷も気になる。

 さっきの風呂屋でムヒロエが口にしたエルフ語もあるからな。


「私は王都の向こう、サルタン領でしたか? そこから王都を越えて、イチノスさんが言われたランドル領を通ってここまで来たんです」


「じゃあ、ムヒロエさんはサルタン領の出身なんですか?」


 俺は真っ直ぐに聞いてみた。


「う~ん、出身というと生まれ故郷のことですよね?」


 まあ、出身といえば生まれ故郷のことを指すよな。


 どうもムヒロエの出身がどこかの話になると、うまく噛み合わない。

 もしかして、ムヒロエは既に酔っているのか?(笑


 いずれにせよ、ムヒロエがエルフ語を口にした件を確認しよう。


「先ほど、風呂屋でエルフ語を口にしましたよね?」


 俺は心に引っ掛かっていたことを素直に聞いてみた。


「あぁ、あれですか? すいません、つい生まれ故郷の言葉が出てしまいました」


 だが、ムヒロエから返ってきた言葉は信じられないものだった。


 生まれ故郷の言葉?


 もしかして、ムヒロエはエルフの里で生まれ育った人間種なのか?


 いや、人間種がエルフの里で生まれ育ったなんて話は聞いたことがないぞ。

 俺の知る限り、フェリスから聞く限り、人間種がエルフの里で生まれ育った話は聞いたことがないぞ。


「じゃあ、ムヒロエさんは王国以外、例えば、エルフの里に近い生まれだったりとか?」


 この可能性ならあると俺は思った。

 エルフの里に近い地域なら、エルフ語を話せる可能性もあるだろう。

 それでも、生まれ故郷の言葉というのはあり得ない。


 そう思ったのだが、ムヒロエはまったく別の話をしてきた。


「いやぁ~なんか嬉しいなぁ。イチノスさんはこの言葉がわかるんですね」


「えぇ、わかりますよ」


「Šī valoda ir manas dzimtenes valoda.」

(この言葉は私の生まれ故郷の言葉です)


 ムヒロエの言葉に、俺は固まりそうになってしまった。


 エルフ語が生まれ故郷の言葉?


 ムヒロエは人間種だよな?

 人間種のムヒロエの生まれ故郷がエルフの里だと言うのか?


「Cik man zināms, šo valodu sauc par latviešu valodu.」

(私の知る限りこの言葉はラトビア語と呼ばれています。)


はあ?


 今、ムヒロエは『ラトビア語』と言ったよな?

 ムヒロエが貴族の小飼だとか、そうした話が全て消し飛びそうなことだぞ。


「お待たせ~」


 そこまで話したところで、オリビアさんが串肉を持って現れた。


「「「おー!!!」」」


 パチパチパチパチ


 大衆食堂全体に歓声と拍手が響き渡る。


 その様子に振り向けば、アルフレッドとブライアンが予約席の前に立ち、食堂内の冒険者たちからの声援に応えるように手を上げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ