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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月30日(月)

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18-2 無事にお湯が出ました


「師匠、お願いします」


 ロザンナと話しているとサノスが急かしてきた。


「サノス、ちょっと待ってくれ。ロザンナ、すまんが台所で使ってる魔石を持ってきてくれるかな?」


「はい」


 ロザンナが台所へ行っている間に、俺はサノスにシチュー皿を魔法円の上に置かせた。


 シチュー皿を魔法円の内円に収まるように丁寧に置くその様子は、この魔法円への期待の現れだろう。


 すると、直ぐにロザンナが台所に置いてある、普段使いのオークの魔石を手にして戻ってきた。


「イチノスさん、これですよね」


「おう、ありがとうな。座ってくれ」


 ロザンナがサノスの隣へ座ったところで、二人へこれからやることを話して行く。


「これからサノスが描いた魔法円を試すんだが、俺だけじゃなくロザンナにも試してもらう」


「えっ?! ロザンナがですか?」

「私がやるんですか?!」


 サノスが驚きロザンナは緊張を見せてくる。


「そうだよ、ロザンナ。サノスの描いたこの魔法円は完成度が高いから安心して」


「けど、この魔法円って⋯」


 ロザンナが躊躇いを含んで言わんとするのは、この作業机に置かれた魔法円が、違和感を覚えた魔法円の写しだからだろう。


「ロザンナが違和感を覚えた魔法円の写しだな」


「はい⋯」


「ロザンナはこれに魔素を流そうとして『引っ張られる』と感じたんじゃないのかな?」


「『引っ張られる』? う~ん⋯ そんな感じかもしれません⋯」


 そこまで話して、サノスが気がついたようだ。


「引っ張られる? あれだったんだ! ロザンナが言ってたのは『引っ張られる』感じのことだったの?」


「先輩、落ち着いてください。それにイチノスさんも、待ってください。イチノスさんや先輩の言う『引っ張られる』が何かを私はわからないんです」


 ロザンナの声を聞いて、俺は二人の会話を止めた。


「サノス、ちょっと待て」


「えっ?」


「ロザンナが感じた変な感じは大切なことなんだ。今は『引っ張られる』に止めてくれるか?」


「は、はぃ⋯」

「⋯⋯」


「じゃあ、俺からやるぞ」


「はい、お願いします」

「⋯⋯」


 サノスは自分の魔法円が試されることに、かなり前向きな感じだ。


 だが、俺の後に試すことになるロザンナは、幾何かの緊張を感じているようだ。

 ロザンナの緊張は、俺がやるだけでは解けず、その結果として何も得られない可能性が残るな。


 そんなことを思いながら、俺は左手をオークの魔石へ添え、右手は魔法円の魔素注入口へ添えて、敢えて欲しい湯温を口に出してみた。


「冷めきったお湯が欲しい」


「「?!」」


 東国使節団のダンジョウを真似てみた(笑


 これで少しでもロザンナの緊張が解ければと思うが⋯


 サノスとロザンナが微妙な顔をみせるが、ロザンナは緊張が解けていないな。


 それでも俺は、オークの魔石から取り出した魔素を、魔素注入口へ添えた指先へ集めて行く。


 すると、指先に集めた魔素が、スルリと魔素注入口へと移って行き、『神への感謝』から魔法事象が起きる際の光が放たれたのがわかった。


 途端に魔素注入口へ置いた指先から魔素が引っ張られると共に、胸元の『エルフの魔石』から魔素が出て行こうとする。


『そっちじゃなくて左手のオークの魔石だな』


 そう意識した途端に、オークの魔石から俺の左手へ、魔素が流れ込むのがわかる。


 オークの魔石から左手へ入ってきた魔素は、何の迷いもなく俺の胸元を通ると、魔法円のある右手へ向かって流れて行く。


 『神への感謝』が発動してから、魔石から魔素が取り出され、魔法円へと魔素が流れて行く。

 この一連の仕組みが俺にとっては本当に不思議に感じる。


 何よりも不思議なのは、魔石へ触れていない者が『神への感謝』を励起させたとしても、『神への感謝』は魔素の要求をしてこないことだ。


 いったい、どんな仕組みになっているのかと幾多の学説が唱えられ、それらを実証するための実験が繰り返されたが、未だにどの学説も正解には辿り着いていない。


 そんな不思議な仕組みが『神への感謝』なのだが、その恩恵は多大なものといえる。


 何せ魔素を扱えない者でも、魔石を使って魔法円に記された魔法事象を起こすことが可能なのだ。


 ここまでの魔素の動きは、俺が魔素をより敏感に感じれるからわかることだ。

 他の魔素を感じられない者では、ここまで詳細にかつ具体的には感じないだろう。


 そう思っていると、サノスの描いた『湯出しの魔法円』に置かれたシチュー皿に水が湧き出した。


 俺は直ぐに魔素注入口から指を離し、サノスを称える言葉を口にする。


「サノス、おめでとう」


「うっしゃ~!」


パチパチパチパチ


「先輩、おめでとうございます。凄いです~」


 サノスが腕を突き上げて喜びを表し、ロザンナは拍手を混ぜて讃える言葉を贈った。


「これで湯出しの魔法円は2枚目だな」


 1枚目はダンジョウが買い上げたもので、この新たに描き上げた物はヘルヤさんの予約が入っている。

 そう言えば、最近はヘルヤさんの様子を、誰からも聞かないな。


「師匠、これでヘルヤさんに納品できますね」


「そうだな。後はロザンナに試してもらうんだが⋯ その前にサノスもやってみてくれ」


 俺はロザンナの緊張を解すためにも、サノスにも実行してもらうことにした。


「はい!」


 嬉しそうな返事と共に、サノスは魔法円を自分の方へと向ける。


 サノスは迷うこと無くオークの魔石を手にすると、魔素注入口へ指を添えた。

 途端に添えた指から魔素が流れ『神への感謝』が反応するのが見えた。

 そして、魔法円に乗せたシチュー皿へ湯が沸き出したのか軽く湯気が上がる。


 その湯気を見たところで、俺は手を出してサノスを制した。


「どうだ?」


「はい、前のと同じ感じです」


 サノスが明るく嬉しそうな声で答えてきた。


「後は微調整を忘れずにしような」


「はい、よろしくお願いします」


 サノスが実に素直に返事をしてきた。


 サノスが描いてギルドに売った『水出しの魔法円』と『湯沸かしの魔法円』は、どちらも作用域が微妙に中心からずれていたので、俺が微調整を施した。


 そして、この魔法円と同じダンジョウへ売った『湯出しの魔法円』も、やはり作用域が少しだけ高い感じがしたので、これも俺が微調整を施した。


 今回は、何処を微調整するか、どうやって調整するかも含めて、サノスへ教える事になるな。


 そうこうすると、サノスがお湯の入ったシチュー皿を手にして、溢さないように慎重に台所へと向かった。

 湧き出たお湯だか水だかを捨てに行くのだろう。


 そう言えば、サノスはワイアットからもらった自分の魔石を胸に下げてるよな?


 胸元の魔石と手を添えた魔石。

 どちらからの魔素を感じていたのだろうか?


 俺の場合は、自分で意図して左手を添えた『オークの魔石』からの魔素の取り出しに切り替えた。

 サノスの場合はどうしてるのだろう?


 ロザンナに教え終わったら、少し聞いてみるか⋯


 サノスの後ろ姿を見ながら、俺はロザンナへ声を掛ける。


「ロザンナ、これで安心したか?」


「え、えぇ⋯ 先輩もイチノスさんも出来てるので、魔法円に問題はないとは思いますが⋯」


 やはりロザンナは不安があるようだ。


 不安かも知れんが、ロザンナには乗り越えてもらおう。

 今回のロザンナが感じた物は、今後も『神への感謝』に触れる度に、何度も感じるであろうものだ。


 今は抱いているであろう不安を排除して、むしろ制御できるようにすることを教えて行こう。


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