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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月14日(土)
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2-11 東の国から口説きに来ました


「『水出しの魔法円』とは、全てがこの大きさなのだろうか?」


 坊主頭が微妙な口調で聞いてきた。


 先ほど髪を束ねた男が『水出しの魔道具』と言っていたことから、携帯用を求めに来たのだろう。

 だが、俺は敢えて家庭用を二人に見せた。

 この二人が『魔素』扱えるかわからないため、敢えて家庭用を出してみたのだ。


「もしかして、携帯用をお求めですか?」

「ああ、それでお願い出来るだろうか?」


 髪を束ねた男がそう答えた。

 やはり携帯用を求めに来たようだ。


「お二人とも『魔素』は扱えますか?」

「それは問題ない。拙者せっしゃわかも『魔素』は扱える」

「『魔素』なら問題なく使えるぞ」


 『拙者せっしゃ』? 『わか』?

 聞きなれない言葉だが、どこかで耳にしたことがある言葉だ。

 どこで耳にしたのだろう⋯


「わかりました。少々、お待ちください」


 俺は記憶を辿りながらも、二人にそう告げた。

 カウンターを離れ作業場に行くと、サノスは自分の椅子に座って作業机でハーブティーを楽しんでいた。


「サノス、すまんが携帯用のお客様だ。水出しを希望されている。ティーカップを2つと⋯ 水を捨てる器を準備してくれるか?」

「はい。直ぐに準備します」


 サノスが席を立ち台所に向かう。

 俺は棚にしまった箱から、一番小さいサイズの『水出しの魔法円』を取り出す。

 これは、昨日、ヴァスコとアベルに使ったものと同じものだ。

 続けて『空の魔石』が入った箱に手をかけて、一瞬、悩んだ。

 二人とも『魔素』が扱えると言っていたので不要だと判断した。


 店のカウンターに戻ろうとして、衝立越しに二人の様子を少し伺う。


 二人はカウンターの上で何かをしている。

 その手元を見れば、紙を折ったり開いたりして、何かを作っているようだ。

 四角い何かが出来たのか、坊主頭が『水出しの魔法円』の上に四角い何かを置いた。


 俺は歩みを進めて、店のカウンターに入ると、坊主頭が『水出しの魔法円』に『魔素』を流し始めた。

 『水出しの魔法円』に置かれていたのは、紙で折られた四角い小箱だった。

 その四角い小箱に、スルスルと水が溜まって行く。

 俺は思いきって声をかける。


「お待たせしてすいません」

「おお、いらしたのですね。勝手に試させていただいた。許されよ」


「いえ、構いません。どうぞお試しください」

「失礼」


 そう言って坊主頭が、何の躊躇いもなく四角い小箱に溜まった水を、一気に飲み干した。


「わ、わか! 毒味を!」


 同じ様に四角い小箱を折り終えた髪を束ねた男が、坊主頭を叱るように忠告する。


「うまい! ほれ、お前も試してみろ」


 そう言って坊主頭が一歩横にズレると『水出しの魔法円』の前を空けた。


しからば、それがしも失礼して。店主『魔法円』をお借りする」


 そう言ったかと思うと、手にした四角い小箱を『水出しの魔法円』に置いて『魔素』を流し始めた。

 四角い小箱に水がジワリと溜まった。

 坊主頭程ではないが、水が溜まったのを確認した髪を束ねた男が、四角い小箱に手を伸ばし、中の水を一気に飲み干した。


 二人の様子から、俺は二人が『魔石』を身に着けていると思い問いかけてみた。


「もしかしてお二人とも『魔石』をお持ちですか?」

「なに? 『魔石』とな?」


「ええ、お二人が『魔石』を身に付けておられるかと?」

「店主! この店では『魔石』も売っておるのか?!」


 水を飲み干した髪を束ねた方の男が、食いつくように聞いてきた。

 ちょっと煩い。


「なんだ、じいの『魔石』は切れ掛けか?」

「今朝方、魔道具が働かず、確認の際に『魔素』を使いきってしまったようで」


 髪を束ねた男の後ろから、坊主頭が『じい』と声を掛けた。


 俺は、その言葉でようやく思い出した。

 この二人が交わす言葉『拙者せっしゃ』や『わか』それに『じい』、それに『しからば』とか『それがし』。

 そして二人の会話の口調。


 これは東国あずまこくの使節団が使っていた言葉だ。

 魔法研究所時代に、東国あずまこくから来たという使節団が見学に来たことがある。

 その時に、こんな口調や言葉を使っていた。


 だとすると、この二人は王都の遥か東にある東国あずまこくから、西の辺境の一歩手前の、このリアルデイルの街までやって来たというのか?


「師匠、ティーカップと片手鍋をお持ちしました」


 その時、サノスがお盆にティーカップと片手鍋を乗せて持ってきた。


「これはこれは、なんと美しい女性だ!」


 サノスを見つけた坊主頭が、スーッとサノスに近寄り、サノスの手にしたお盆に手を添える。

 いや、お盆じゃなくて、お盆を持つサノスの手に自分の手を添えている。


 その坊主頭の様子を、髪を束ねた男が嗜めるように制する言葉を口にした。


わか!!」

「えっ? ナニなに?」


 サノスが慌ててお盆からティーカップと片手鍋を落とさないようにオロオロし始める。


「今日は恵まれた日だ、こんなに美しい女性に会えるとは!」

わか! お止めください!」


 坊主頭がサノスを見つめて囁き、それを髪を束ねた男が制止しようとして声を荒げた。

 そろそろじいと呼ばれた男の声が煩く感じてきた。


じい、この国の習わしを知らんわけではあるまい」

「知っております。知っておりますが人前で女性を口説くようなことをされるのはぁ~」

「えっ?! 私、口説かれてるの?!」


「以前に王国を訪れた際、女性に出会ったら褒めるのが習わしと教わったが、褒めるのが苦手な私は上手く褒めれなかった」

「わかっております! わかが苦手なのはじいが知っております!」

「???」


「そんな私が、本当に褒めたい女性に出会ったんだぞ。こんなに美しい女性は他におらん」

わか、お願いですからお戯れは、お止めください!」

「美しい女性だなんてぇ~」


 おい、じいさん。

 お前の煩い声が本当に耳障りだ。

 おい、坊主頭。

 お前の目は腐ってるだろ。

 おい、サノス。

 お前が喜ぶと話がややこしくなる。


「店主、すまんがこの美しい女性と語らいたい。しばし場と時を貸してくれんか?」

「美しい女性ってまた言われたぁ~」

わか、お願いですからぁ~」


「美しき女性よ、名はなんと言う?」

「さ、サノスです」


「なんと、その名まで美しい」

「いやぁ~ん。名前まで美しいだなんてぇ~」


「て、店主殿、どうかお女中じょちゅうを止めてくだされ⋯」

「⋯⋯」


 じいさん。

 俺を頼るな。自分で何とかしろ。


 サノス。

 頬を染める姿が似合わないぞ。


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