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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月29日(日)

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17-7 謝罪の押し付け


 頑なに頭を上げようとしないアキナヒへ俺はもう一度告げた。


「アキナヒさん。頭を上げてください。頭を下げられたままでは話が出来ません」


「いえ、イチノス殿からお許しをいただけるまで、この頭を上げるわけには行きません」


ふ~ん


 ならばイルデパンに少し聞いてみるか⋯


「もしかしてイルデパンさんは、既にこうしたアキナヒさんからの謝罪をされたのですか?」


「おや? イチノスさんは気になりますか?(笑」


 そう告げたイルデパンが口角を上げた。


 これは、イルデパンもアキナヒから類似の謝罪をされたのだろうと勘付いてしまう。

 イルデパンとしては、アキナヒから同じ様な謝罪の言葉が出たが、納得まではしていないのだろうと察してしまう。


 もしかしたら、俺が来たことを告げに来た女性職員によって、アキナヒからイルデパンへの謝罪劇が中断されたのかもしれないな⋯


「えぇ、気になりますね。こうして頭を上げず、謝罪を押し付けられても⋯」


「ククク 『謝罪の押し付け』ですか?(笑」


「はい、アキナヒさんはイルデパンさんへも謝罪したのですか?」


「ククク イチノスさんは面白いことを言いますね(笑」


「そうですか?(笑」


 イルデパンは微妙な言葉を重ねて、アキナヒが謝罪をしたかを答えないな。


「どちらにせよ、イチノスさんは商工会ギルドのギルドマスターである、アキナヒさんの謝罪を受け入れないのですね?」


 イルデパン、随分と厳しい返しだぞ。

 頭を下げたままのアキナヒに、頭を上げる機会を与えない気か?


 それにイルデパンの言葉には何かの含みを感じるな。


 これは俺の想像でしかないが、イルデパンは何らかの駆け引きをしていないか?


 例えばだが⋯

 俺がアキナヒの謝罪を受け入れれば、連行した商人を解放するとか?


 そんな駆け引きをしている感じがしてきた。


 いずれにせよ、この状況ではアキナヒとの話し合いも出来ないし何も進まない。


 それならば、俺は自分の用件だけを伝えて、この場は退室した方が良さそうな気がしてきた。


「この場をお借りして、私から話をしても良いですか?」


「どうぞどうぞ(笑」


 イルデパンの考えが読み切れないが、ここは自分の考えだけを告げて退室しよう。


「私としては、今後も商人の方々が店へ来て問題を起こさないことを願っています。いや願うと言うよりは約束して欲しいですね」


「なるほど!」


 イルデパン嬉しそうな顔をするな(笑


 そんなイルデパンの顔を無視して、俺は商工会ギルドの立場を考慮した言葉を続けて行く。


「商工会ギルドでは、商人の方々の行動を具体的に抑制する事は不可能なのは理解しています」


「うんうん」

「⋯⋯」


 俺の言葉にイルデパンが頷くがアキナヒは頭を上げない。


「それでもアキナヒさんが言われたとおりに、商人の方々を商工会ギルドが導かれることは期待しています」


「うんうん」「⋯⋯」


 俺はイルデパンの頷きを無視して、来月からの『相談役』の件を告げて行った。


「ご存じのとおりに、私は領主であるウィリアム様に命じられ、来月から魔法技術の『相談役』の任に就くことになりました」


「月曜のウィリアム様の公表の件ですね?」


「はい。その『相談役』については、店で対応する気は一切無いのです」


「それは、イチノスさんの店へ商人の方々が訪問するのを避けたいのでしょうか?」


 おっとイルデパン。

 俺の気持ちを理解しているな(笑


「そうですね。店へ訪問してきた方々の対応は、店番をしてくれる方々が最初に対応するのです」


「ククク そう言うことですか(笑」


 イルデパンが俺の言葉で納得した返事をするのは、アキナヒへ聞かせるためか?(笑


「私としては店の従業員を大切に思っています。未成年の従業員ですが、自分達の将来を考えて私の店で働いているのです」


「うんうん」「⋯⋯」


「そうした方々を応援する意味も込めて、店主である私への訪問客で煩わしい思いをさせたく無いのです」


「イチノスさん ありがとうございます」


ん?


 イルデパン、そこで礼を口にしたら孫娘のロザンナ絡みになって⋯


 いや、少しわかってきたぞ。


 イルデパンが制服では無いこと、そして俺を『さん』で呼ぶのは、あくまでも私用で商工会ギルド訪れていることを告げたいのか?


 だとすれば、俺が考えた連行された商人の解放を、イルデパンが駆け引きの条件にしていると考えたのは的外れだな。


 あくまでも、イルデパンは私用で来ているスタンスなのだ。


 こうしたイルデパンの公私の分別をつける姿勢は、俺も見習うべきだな。

 服装まで気を使いつつ、それとなく公務の立場を匂わせるやり方は、俺も見習うべきことだろう。


ん?


 服装まで気を使う?


 それって⋯ 俺の場合は『相談役』の任に臨む時には魔導師服を着るのか?!


 やめよう、今この場で考えることじゃない。


 俺は自分の気持ちに整理を付ける意味で、未だに頭を上げないアキナヒへ言葉を掛ける。


「アキナヒさん、公私を混ぜた感じですいませんが、まずは商人の方々への周知徹底をお願いします」


「は、はい⋯」


 頭を下げたままで、か細い声でアキナヒが答えた。


「私としては、謝罪よりは対策を望んでいます。商工会ギルドで、どの様な対策をされるのか?」


「はい⋯」


「明後日、私は魔石の入札へ参加するため、再度、商工会ギルドへ来る予定ですので、その際にアキナヒさんの考えられた対策を聞く時間を貰えますか?」


「は、はい⋯」


(ククク)


 そこまで話して、笑い声を漏らしたイルデパンへ目をやると明らかに目が笑っていた。


「イチノスさん、これで終わりですか?」


「はい、私の意向は伝えましたので」


「もしや、この後にご予定があるとか?」


「えぇ、実はこの後に、冒険者ギルドへも足を運ぶのです」


「それはやはり『相談役』の件ですか?」


 ダンジョン発見の詳細報告が主たる要件だが、ここは同意しておこう。


「そうです。『相談役』の件、店では面談を受け付けない件は、冒険者ギルドへも伝える必要がありますので、これから足を向ける予定なのです」


「ククク これから冒険者ギルドですか?(笑」


 少し、イルデパンの含み笑いが気になるぞ?


「ええ、昼過ぎにギルマスのベンジャミン・ストークス殿と会う予定です」


「ククク イチノスさんの話を聞いたベンジャミン殿の顔を見てみたいですな(笑」


 そう言って、イルデパンが頭を下げたままのアキナヒへ目をやった。


 イルデパン、そんなに楽しそうな顔をするな(笑


 さて、これで俺の意向は伝え終わった。

 アキナヒは頭を下げたままだが、退室しよう。


「アキナヒさん、今日はお時間をいただきありがとうございました」


「は、はい⋯」


「それでは、これで失礼します。イルデパンさんは?」


「私は、もう少しアキナヒさんと話をして行きたいと思います」


 なるほどね。

 ここまでの俺の対応も使って、イルデパンはアキナヒともう少し話をするのだな。


 俺は応接から立ち上がりながら、応接机に置かれたティーカップへ目が行った。


 アキナヒの前には飲み掛けの紅茶があるが、イルデパンの前には手付かずのティーカップが置かれていた。


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