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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月28日(土)

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16-8 ダンジョン突入は⋯


 石扉の向こう側は『部屋へや』と表現するのが妥当な気がする。


 右側半分が開かれた石扉の前に立ち、大広間の天井の穴から差し込む光で眺めるその『部屋へや』は、石扉とそれを支える柱以外は古代遺跡の外壁と同じ石積の壁になっていた。


 『部屋へや』には一切の明かりが無い。

 壁にも天井にも明り取りの窓や穴は無く、半分開かれた石扉から届く明かりだけが頼りの薄暗さだ。


 薄暗さの中、目を凝らして『部屋へや』の大きさを推し測れば、冒険者ギルドの受付カウンターのあるホールと同じくらいだろうか。


 そんな『部屋へや』を見渡して、まず俺が不思議に感じたのは、この『部屋へや』には角が見当たらないことだ。


 いや、角がないと言うよりは、明らかに丸い感じがする。

 古代遺跡の外壁と同じ様な石積で丸く造られている。


 その丸い感じから、背後の大広間=『大ホール』に対して『小ホール』との呼び方も考えた。

 だが『部屋へや』の呼び方の方が何故か妥当な気がする。

 これは『隠し部屋』を期待するブライアンに感化されているからだろうか?(笑


 そして『部屋へや』の中央には、周囲に瓦礫が散らばった、真っ黒な穴=ダンジョン入口がある。


 ダンジョン入口は『部屋へや』の薄暗さも手伝って、俺には闇への入口に見えてしまう。


 アルフレッドとブライアンは、そのダンジョン入口付近で松明を暗闇の中へ入れたり出したりして、ダンジョン入口の奥の様子を見ようとしていた。


 そんな二人の様子を石扉付近から眺めていると、隣で同じ様に眺めていたワイアットが呟いた。


「まあ、あそこまで行ってるなら、見張ってるのと同じか⋯」


 ワイアットの呟くとおりに、ダンジョン入口へ二人が既に張り付いているのなら、二人で見張っているのと同じだ。


 よくよく考えれば、この古代遺跡の中での危険は、皆で入ってきた古代遺跡入口からの魔物の侵入。

 それに目の前のダンジョン入口からの、魔物がこんにちわ。

 この2つぐらいしか考えられないのだ。


 これでワイアットも少しは懸念が晴れただろう。


 そんなワイアットへ、俺は黒っぽい石の並びを跨いで『部屋へや』へ入る際に何を感じるかを促す。


「ワイアット」


「ん?」


 俺の指差す先には、黒っぽい石がうっすらと埃を纏って並んでいる。


「イチノスが言ってたのは、これの事だよな?」


「そうだ、頼むぞ」


「おう、スゥ~」


 返事と共に軽く深呼吸したワイアットが右足から一歩踏み出した。


 ん?

 黒っぽい石の並びを跨いだままで、ワイアットが動きを止めた。


 何かを感じたのだろうか?


 プルプル

 ワイアットが首を振りながら俺を見る。


 ダメか⋯

 何も感じないようだ。


「何も感じないぞ?」


「わかった⋯ ありがとうな。変な事を頼んで、すまんかった」


「まあ、このぐらいなら、いつでも言ってくれ(笑」


 そのままワイアットは、アルフレッドとブライアンが覗き込むダンジョン入口へと向かった。


 さてこうなると、俺一人での検証になるな。


 俺は細心の注意を払って、ワイアットと同じように右足から、黒っぽい石の並びを跨いで行く。


 うん⋯ やはり感じるぞ。

 この『何かを越える』感覚だ。


 念のために踏み入れた右足を戻し、もう一度、右足で跨ぐ。


 あぁ⋯ やはり感じる。

 この『何かを越える』感じ⋯


 右足を戻し、今度は左足で踏み入れてみる。


 うん⋯ やはり感じる。

 この『何かを越える』感じ。


 この感覚を、言葉で具体的に誰かへ伝えるとすれば、どんな言葉を用いれば伝わるのだろうか?


 足先を入れただけでは何も感じないのだが、体の中心が黒っぽい石の並びを過ぎると、あの『何かを越える』感覚がやって来る。


 更に不思議なのは、足と体を戻す際には何も感じないことだ。


 『何かを越える』感覚だから、足と体を戻したならば、越えた先から戻ってくる感覚、そこから出る感覚があるのだろうかと思ったのだが、そうした感覚は起きないのだ。


 だが、これで俺が抱いている疑問の一つが解消でき⋯ 更なる疑問が湧いてしまった。


 この黒っぽい石が何かだ。


 それと、あの大広間を縁取る黒っぽい石の並びでも、同じ事が起きるか否かだ。


「イチノス⋯」


 何度か黒っぽい石の並びを跨ぎ直している俺に、アルフレッドが声を掛けてきた。


「さっきから何をやってるんだ?(笑」


 ククク⋯ そうだよな(笑

 俺が『部屋へや』の出入口の石扉の付近で、出たり入ったりしているのを見たら、不思議に思うよな(笑


「いや、ちょっと気になってな。そっちはどうなんだ?」


「松明とロープだ」


「松明とロープ?」


「ダンジョンの奥が暗いんで、松明をロープで吊るして、中を照らすんだ」


 そこまで告げたアルフレッドが、何も気にせずに黒っぽい石の並びを跨いで、荷物の方へと向かって行った。


 荷物へと向かうアルフレッドの後ろ姿を見つつ、大広間へと目が行く。


 今すぐにでも、大広間を縁取る黒っぽい石の並びでも、同じ様に『何かを越える』感覚が起きるかを試したい気もする⋯


 そう思いながらも、足元の黒っぽい石の並びを松明で照らして、見直してみる。


 ん?


 この黒っぽい石の並びは『部屋へや』の丸みに沿って並べてるのか?


 俺はその事に気が付いて、松明を片手に黒っぽい石の並びを追いかけ、『部屋へや』の中を歩いてみた。


 出入口の石扉付近では、石扉から片腕ほどの距離に黒っぽい石が並んでいる。

 それを時計回りに追いかけ、石扉から離れて石積の壁へと向かうと、石積の壁との距離は両腕を広げたぐらいの距離で並んでいる。


 んん? これって⋯


 『部屋へや』の半分ほどまで黒っぽい石の並びを追いかけて、俺は強い確信を得た気がする。


 この黒っぽい石の並びは円を描いてないか?


 この『部屋へや』の角がなく丸みのある石積の壁に沿って、黒っぽい石が並んでいるのなら⋯


 これって、明らかに円を描いているよな?


「ワイアット、あれって階段になってるよな?」


 黒っぽい石の並びを追いかけて『部屋へや』を半周ほどした時に、ワイアットとブライアンの声が聞こえてきた。


「そうだな。あの奥に見えるのは階段だな。あそこまで降りたら登って来れないだろ?」


「確かに、あそこからこの高さだと手を掛けて上がるのは、まず無理だな」


「ブライアンは、今すぐにでも入りたいのか?(笑」


「う~ん⋯」


 その会話から、今すぐにでもブライアンがダンジョンへ突入するのは無くなった感じがする。


「ブライアン、ダメだ。ロープが無い!」


 そんな会話を聞いていると、石扉の方からアルフレッドが松明を片手に飛び込んできた


「持ってきたつもりだったんだが、入口の罠を張った時に使ってたんだ」


 アルフレッドが真っ直ぐにブライアンとワイアットの元へと向かう。

 そんなアルフレッドへブライアンが微妙な言葉を返した。


「いやいや、ワイアットと話したが今日は無理だ」


「諦めるのか?」


「おっ? じゃあ、アルフレッドが入ってみるか?(笑」


「おいおい、俺でもこの深さは無理だろ(笑」


「ゴブリンは上がってきたみたいだぞ?(笑」


「ワイアット、俺とゴブリンを一緒にするな!(笑」


「ハハハ」「カカカ」「ガハハハ」


 どうやらアルフレッドとブライアンは、ダンジョンへの突入は諦めたようだ。


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