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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月14日(土)

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2-5 サノスの希望と届け物

 

「昼までは昨日の続きだ。俺は『魔石』への調整をするから静かにな」


「はい♪︎」


 元気に答えるサノスの口調から、魔導師としての修行を始めれる嬉しさが伝わる。

 そして俺が書斎から持ってきた机の上に置かれた本に、サノスの視線が行く。

 俺はその視線を無視して、本棚にその本を片付けた。


 互いに作業机で黙って昨日の続きをして、作業の切りが良いところで昼食にした。

 作業机の上を片付け、サノスが両手鍋で買ってきたシチューを食べる。

 食後にサノスお手製のハーブティーを飲んでいると、サノスがしびれを切らして聞いてきた。


「師匠、修行ではどんな『魔法』を教えてくれるんですか?」


「最初は、簡単な『魔法』だな?」


「簡単って言うと?」


「『湯沸かし魔法』からが良いと思う」


「ゆ、湯沸かしですか?」


「ああ、湯沸かしだ」


 サノスの口ぶりから、何故なぜに『湯沸かし魔法』なのか? と不満気な印象を受ける。


「嫌か?」


「嫌じゃないですけど⋯」


 サノスは『水魔法分析論』を読んで『湯沸かし魔法』に挑戦して『魔力切れ』した過去がある。

 それを思い出して嫌がっているのだろうか?


「師匠、今、私が取り組んでるのは『湯沸かしの魔法円』なんですけど⋯」


「あぁ、そうみたいだな」


「それなのに『湯沸かし魔法』ですか?」


「ククク、不満そうだな(笑」


 今のサノスは、作業場で俺の向かい側に座って『湯沸かしの魔法円』に挑んでいる。

 昼食前の作業でも、サノスが挑んでいたのは『湯沸かしの魔法円』の模写だ。

 この店で働くようになって『魔法円を描いてみたいです』と言うので挑ませた。


 最初に『水出しの魔法円』に挑ませて成功した。

 続けて『湯沸かしの魔法円』に挑ませて失敗した。

 この2枚の複合として『湯出しの魔法円』に挑ませて成功し、フェリスが来た際にコンラッドが使ってみせた。

 そして再度挑戦しているのが『湯沸かしの魔法円』だ。


 そんな経験をしているサノスとしては、最初に教わるのが『湯沸かし魔法』なのを嫌がっているのかも知れない。

 なにせ『湯沸かし』の『魔法円』には一度失敗して再挑戦中。

 その『湯沸かし』の『魔法』を俺が教えると言ったのだ。


「不満と言うか⋯」


「今のサノスがやってるのは『湯沸かしの魔法円』を模写してるだけだろ?」


「確かに『模写』してるだけです」


「サノスはそれで満足か?」


 俺の言葉に、サノスは少し固まった感じだ。

 そんなサノスに、先程、教会関係者が置いていった通知を見せる。

 サノスはそれを2回読み直して聞いてきた。


「模写でも教会に寄付するんですか?」


「サノスは魔導師になって、自分が描いた『魔法円』をお客様に渡して、お金を貰うんだろ?」


「確かにそうですけど⋯」


「サノスは『神への感謝』も一緒に描いてたよな?」


「あれの何処が『神への感謝』なのかを私は知らないんですけど⋯」


「それでも『神への感謝』な部分もしっかりと模写していたぞ(笑」


「それでも教会に寄付するんですか? 模写しただけですよ。あの『魔法円』の何処が『神への感謝』かを知らなくても教会に寄付するんですか?」


「他の領、教会への寄付が決められている領だと払わされるぞ」


「けど、リアルデイルの街は違いますよね? ここはウィリアム伯爵の領です。そんな領令は無いです」


「サノスは納得できないか?」


「⋯ さっき師匠の側に置いてあった本は何ですか?」


「また勝手に読んで、一人で試して『魔力切れ』で寝込むのか?(笑」


 サノスが話題を切り替えてきたが、俺はからかうように切り返す。

 サノスがやるせなく、少しむくれた顔を俺に向けてきた。


「出来れば『湯沸かし魔法』以外がいいです⋯」


「ハハハ。嫌なら『氷結魔法』にするか? 『湯沸かし魔法』か『氷結魔法』かの二者択一だな(笑」


 俺の言葉にサノスの目が泳ぐ。

 『湯沸かし魔法』も『氷結魔法』もサノスは挑んで『魔力切れ』した経験があるのだろう。


「これから暑くなる季節だ。『氷結魔法』は氷を作れるから便利だぞ」


「⋯⋯」


 サノスが黙る。迷っているのか?

 『魔力切れ』を思い出してるのか?


 カランコロン


 店の出入口の戸に着けた鐘が鳴り来客を報せてきた。


「師匠、私が出ます」


 そう言ってサノスが席を立った。

 直ぐにサノスが戻ってきて来客を告げる。


「師匠、昨日の騎士さんと父が来ました」


「わかった、サノスは片付けてくれるか?」


 そう告げて、サノスと入れ替わりに店に行くと、青年騎士アイザックが小箱を両手に持ち、その後ろに軽装備だが帯剣したワイアットが立っていた。


「イチノス殿、荷物を届けに伺った」


「誰からの使いか?」


 青年騎士アイザックの言葉に切り返して俺が問うと、少し慌てた答えが返ってくる。


「し、失礼した。コンラッド殿からの使いである」


「御苦労、受け取ろう」


 そう告げると青年騎士アイザックが両手で小箱を差し出してきた。


「中身を確認する故に、暫し待たれよ」


 俺は青年騎士アイザックから小箱を受け取り、店のカウンターの内側に回り、カウンターの上に小箱を置く。

 青年騎士アイザックとワイアットが、小箱の中が気になるのか半歩前に出て覗こうとして来る。


 ウゥン


 俺が咳払いをすると、前のめりだった青年騎士アイザックとワイアットが半歩下がり、共に姿勢を直した。


 俺は小箱の上に描かれた『魔法円』に『魔素』を流す。

 『魔法円』の中央に『フェリスからイチノスへ』の文字が浮かび上がってきた。


 カチン


 音がして小箱の蓋に掛けられた『魔法鍵』の解ける音がする。


 静かに小箱の蓋を開けると、そこには俺を睨み付けるような『魔石光ませきこう』を放つそれが見えた。


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