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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月13日(金)
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1-1 先触れ


カランコロン


 店の出入口の扉に着けた鐘が鳴り、来客を報せてくれる。

 

「師匠、私が出ます」


 そう言って弟子のサノスが作業机を離れ、作業場から店舗の方へと小走りに向かって行く。

 そんなサノスの所作にも、俺は意識の集中を切らさず『魔石ませき』への調整を続けた。


(こちらは、イチノス殿のお店で間違いないだろうか?)


 店の方から聞こえてくる若い男の声に意識が散りそうになるが、なんとか集中を続けて『魔石ませき』への調整を終わらせる。


「シショ~ 騎士の方が来てますぅ~」


「ああ、わかったぁ~」


 そう返事をしながら、調整の終わった『魔石ませき』を木製の小皿に放り込む。

 作業机の席から立ち上がり、店舗を覗き見れば、黒の騎士服に身を包んだ青年が見えた。


ああ、来たんだな


 そう思いながら店のカウンター向かい、黒の騎士服に身を包んだ青年に声をかける。


何用なにようだ」


「イチノス殿で間違いないだろうか?」


「いかにも。俺がイチノスだ」


「フェリス様よりの先触れである。2時に到着する旨、伝えに伺った」


「承知した。先触れご苦労であった」


 俺の言葉に応じて騎士服の青年は王国式の敬礼で応えると、踵を返して店から出て行った。


 俺の名はイチノス・タハ・ケユール。

 人間の父親とエルフの母親の間に生まれた、ハーフエルフと言うやつだ。


 人間の男に嫁いだ(側室だが)母からは3日前に手紙が届いていた。

 母からの手紙には、今日、店に顔を出すと書かれていた。


「サノス、すまんが今日は終わりだ。店も閉めるぞ。まずは看板を返してくれるか」


 俺の言葉に従って、サノスが騎士の出て行った戸に掛かる『営業中』の看板をひっくり返す。

 これにより、本日の店としての営業を終えた旨を店の外へ宣言する。


「作業も終わりにしよう。片付けてくれるか?」


「はい。直ぐに片付けます」


「片付けが終わったら日当を半日分⋯ いや、1日分の日当を払うぞ」


「やった~!」


 早く帰れる上に、1日分の日当を貰えると喜びながら片付けに精を出しているのが、弟子のサノスだ。

 人間の娘で15歳、来年に成人を迎えるという。


 そんな弟子のサノスは、俺が魔導師としてこの店を開いた最初の客だった。


 俺の店では『魔石』と『魔法円』、それに『ポーション』を売っている。

 サノスは自分でも魔導師を目指して『魔石』に触れていたようだが、店に並べられた俺の作った『魔石』に感銘して弟子入りを志願してきたのだ。

 ちょうど店番が欲しかった俺は、サノスを店番として雇ったつもりなのだが、本人は弟子入りできたと喜んでいる。

 そんなサノスの気持ちを汲んで、俺も彼女を弟子として扱うことにした。


「師匠、私が帰って良いんですか? お客様が来るんですよね? お茶とか出さなくていいんですか?」


「気にしなくて良いよ。俺でも出来るから」


「さっきの騎士の人がフェリス様とか言ってましたけど⋯」


「ああ、お前の知ってるエルフのフェリス様で、俺の母親だ」


 俺の言葉に、片付けをしているサノスの手が止まる。


「師匠、笑えない冗談です」


 そう言ったサノスが、細めた目で俺を見てくる。

 これは俺が冗談を言い、それが『つまらない』と訴えるときの顔だ。


 サノス、その細めた目で俺を見ないで!


「師匠、明後日は母の日ですよ。本当にフェリス様が師匠のお母様なら、たまには親孝行したらどうですか?」


「おいおい、弟子が師匠に説教か?」


「ほらほら、早く片付けましょう。お母様が来るまで時間が無いですよ」


 早上がりでも1日分の日当払いがサノスの片付けを加速させたのか、作業机に広がっていた調整前の『魔石』や作りかけの『魔法円』が所定の箱に納められて行く。

 俺はサノスの片付けて行く箱を、次々と棚に入れて行く。


 全ての箱を棚に入れ終ると、サノスが作業机の拭き掃除を始めた。

 そうこうして店仕舞の作業が終ると、サノスが腰に手を当てて仁王立ちになる。


「師匠、これで良いですか? 掃き掃除もします?」


「いや、今日は良いだろう。ほら、今日の日当だ」


 俺は店の売り上げを入れるカゴから銀貨を1枚取り出してサノスに渡す。

 サノスは笑顔で受け取り、店仕舞を示す看板のぶら下がる扉から小走りに出て行った。


「お茶ぐらいだすか」


 そう思いつき、片付けられた作業テーブルに新品のテーブルクロスを掛ける。

 続けて東国あずまこく産のティーカップとソーサー、そしてティーポットを出したところで、茶の葉で悩んでしまった。

 俺の記憶では、茶の葉は切れていたと思うが⋯


 仕方無く、店舗に戻ってハーブティーの種を取りに行く。

 このハーブティーの種は、ポーション作りで使用した薬草を捨てるのがもったいないと、サノスが再利用で作ったものだ。

 こうした物も店に並べるから、俺の店の硬派な雰囲気が柔らかいものになってしまった。

 開店時には『魔石』と『魔法円』それに『ポーション』の3品で行く、そんな硬派な感じの店だったのだが、サノスがあれもこれもと店内に並べたことで雑貨屋な感じになってしまった。


 テーブルクロスの上に、ハーブティーの種と『湯出しの魔法円』を置いて、他に忘れているものが無いかと俺は見直した。


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