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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月24日(火)

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12-6 俺からの用件は無事に終わりました


「イチノスさん、まずは薬草の手配ですが、正直に申し上げてギルドとしてお約束出来ない可能性があります」


 ターニャが俺からの用件を進めて行く。

 その進め方はキャンディスに似ている感じだ。


「薬草の手配は受け付けさせていただきますが、ご存じのとおりにギルドでもポーション作りで薬草の需要が増えています。その為に先月と同様の質と量をお約束出来ない可能性を理解して欲しいのです」


 キャンディスが残していった資料を見ながら、淡々とターニャが説明をしてきた。

 説明される内容と状況は俺も納得できるものだ。


「では、そうした状況を理解した上で発注すれば良いのかな?」

「ありがとございます。それではイチノスさん、こちらの依頼書を確認の上、サインをお願いします」


 ターニャの差し出す書類を見直して、サインする直前に『特約』が書かれていることに気が付いた。

 この特約は今までの発注書には書かれていないものだ。


特約

注文数量を冒険者ギルド側が準備できない場合には、納品した数量に合わせての金額請求とさせていただきます。


 先程からのターニャの説明のとおりの事が記されている。

 念のために価格を見直すが、以前の価格と同じになっていた。


「タチアナさん、この特約に書かれているのが、先ほどから説明してくれた点ですね?」

「はい、そうです。改めてお伝えしますが、イチノスさんの求める品質でご希望の量は、ほぼ確保できないと考えてください」


「そんなに難しいのですか?」

「はい、このところ採取された薬草の量と品質の統計を見て、専門家の意見も伺った結論です」


 専門家? 誰の事だろう?

 まぁ、その付近は聞いてもしょうがないな。


「タチアナさんもその専門家からお話を聞いてるのですか?」

「えっ? 私ですか? えぇ、私とサブマスで話を聞きました」


 ターニャが平然とキャンディスの事をサブマスと呼んでいる。

 今回は笑いは無しか(笑


「実は、サブマスが討伐にポーション作りを組み込んだ時に呼ばれたんです」

「呼ばれた?」


「『このままだとイチノスさんの発注に応えられないかも?』そう言われて、これまでにギルドで買い取った薬草の記録やら何やら調べて、専門家を呼んで話を聞いたんです」

「それって、キャンディスさんが言い出したんですか?」


「そうです。それで、この発注書の特約になったんです」


 これはなかなか凄いことだ。

 キャンディスがそんなことまで考えて、事前に準備していたのかと感心させられる。


 それにしても、今回はこうした特約が付くが、次回がどうなるかはわからないな。


「タチアナさん、この特約は今回だけですか?」

「やはりイチノスさんは気付きますね。現段階では来月については何も言えません」


「ギルドでは何か対策を考えているのですか?」

「う~ん」


 タチアナが腕を組んで考え始めてしまった。

 俺はタチアナでは答えられないことを聞いてしまったのか?


「その付近はギルマスと話し合ってもらった方が良いと思うんです」


 なるほど、ターニャの口からは言い難い事なんだな。


「わかりました。それなら後ほどギルマスから聞きますよ」

「えぇ、そうしてください」


「それより、ちょっと聞いて良いですか?」

「はい、何でしょう?」


「どの呼び方が良いですか?」

「どの呼び方? と、言いますと?」


「サブマス代行、タチアナさん、ターニャさん、どれが良いかと思いまして(笑」

「フフフ サブマス代行以外ならターニャでもタチアナでもどちらでも良いですよ(笑」


「じゃあ、タチアナさんで(笑」

「フフフ(笑」



 その後、魔法円の商談となり2枚セットで1割引を願われた。


 こうした相談は多々あることだ。

 冒険者連中に売っている俺が描いた携帯用の『魔法円』でも、2枚セット(水出しと湯沸かし)での1割引はやっている。

 俺はかなり渋った素振りをして、今回だけの特別値引きであること、それと値引きしたことは他言無用を条件にして1割引を受け入れた。


 これで魔法円の商談も決まったところで、タチアナが聞いてきた。


「イチノスさん、あの湯沸かしは煮物って作れるんですか?」

「魔石の消費を覚悟するなら煮物も作れますよ。ポーション作りで薬草を煮てますよね?(笑」


「なるほど⋯ それなら『湯沸かしの魔法円』を買えばかまどでの火起こしが不要になるんですね」


 かまど

 台所仕事で使う『かまど』のことを言ってるんだよな?


「タチアナさん、踏み込んだことを聞きますが、今はご実家暮らしですよね?」

「はい。ですが友達と部屋を借りて住もうかと考えているんです」


 なるほど、それでかまどの事を気にしてるんだな。


「イチノスさんは開拓団が来ることはご存じですよね?」

「えぇ、昨日の会合で知らされました。タチアナさんは?」


「私は今朝、サブマスから聞かされました。やっぱりイチノスさんは会合に行かれてたんですね(笑」


 はいはい。行ってましたよ。

 色々と聞かされて、シーラと再会して、意味不明な相談役に任命されて来月から忙しくなると宣言されましたよ。


「その開拓団の入植に合わせて、住宅事情が良くなりそうなんです。友達と一緒に借りるか、私だけで部屋を借りられるか⋯ まあ、くだらないことで悩んでるんです(笑」


 なるほど、タチアナは実家を出て独り暮らしをするか友人との同居を考えているんだな。


 もしかしたら、タチアナやその友達に何かの家庭事情が有るのかもしれない。

 けれどもここで俺が更に踏み込んで尋ねることでもないな。


 むしろ新居を構えた時に、台所と言うか家庭に有ると便利そうな物が何かを考えよう。


「じゃあ、氷冷蔵庫とか欲しいですよね?」

「欲しいです!」


 タチアナが凄い食いつきようだ。


 『水出しの魔法円』や『湯沸かし魔法円』は台所に備えたいのだろう。

 俺も実際に持っているぐらいだからな。


 更に氷冷蔵庫となれば『氷結の魔法円』も必要になるだろう。


 これは家庭用の魔法円、特に台所で使うものを意識した商売を考えた方が良さそうだ。


 その付近は誰かと相談してみるか⋯


「タチアナさん、氷冷蔵庫以外はどうですか?」

「贅沢を言えば、冷房と暖房が欲しいですね」


「それはかなり贅沢ですよ(笑」

「ですよねぇ~(笑」


「それに魔石も、その数だけ必要になりますよ(笑」

「そうなんですよ~ イチノスさん、何か良い方法はないですか?」


「おっと、魔法技術支援の相談ですか?(笑」

「フフフ 質問状は来月からの受付でしたね(笑」


 互いに笑いが出たところで、タチアナが最後の用件に話題を切り替えてきた。


「最後に魔石の入札の件ですが、商工会ギルドが担当することになりました」


 そういえば、キャンディスが魔石の入札については商工会ギルドが手を上げたと言ってたな。


「実は冒険者ギルドで入札を受けようと思っていたんです。ですが色々とありまして、商工会ギルドが入札を取り仕切ることになったんです」

「なるほど、理解できます」


 多分だが、多忙を理由に冒険者ギルドが商工会ギルドへ入札の取り仕切りを丸投げしたのだろう。

 商工会ギルドであれば、他の入札案件も十分に経験を積んでいることから、適任といえば適任だろう。


「ギルマスも、さき程まで入札の件で商工会ギルドへ足を運んでいたんです」

「では、この後でギルマスから聞けるんでしょうか?」


「それですが、現時点で冒険者ギルドからイチノスさんへ伝えれるのは、こちらの紙に書かれている事項だけです」


 そう言いながらタチアナが1枚の紙を見せてきた。


魔石入札のお知らせ


公表日時 5月31日(火)10時

入札受付 6月7日(火)10時~11時

結果発表 6月9日(木)13時


以下の事項は商工会ギルドへ問い合わせください。

・魔石の種類と数量

・各魔石の最低落札価格

・現在の魔石価格(参考資料)


「こちらの内容については、冒険者ギルドと商工会ギルドで話し合って決めたことですので変更はありません」


 真っ直ぐに俺を見ながら、タチアナが告げてきた。

 その様子から、魔石の入札についてはこれ以上タチアナから情報を得るのは難しそうだと判断した。


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